協力者は鮫野木をすんなりと通り過ぎ、家の中へと入っていく。その遠慮なさに鮫野木は反応が遅れる。

鮫野木淳

ちょと待って! 勝手に入るな

協力者

なんだい? 私は君に協力しに来たんだ。落ち着いて話そうよ

鮫野木淳

話なら、外でも出来るだろ

協力者

私は座って話したいの


 鮫野木の話を聞かず、協力者はリビングに向かった。

協力者

私、インスタントコーヒーで良いから

 ソファーに座った協力者は飲み物を頼んだ。悪気なんて一切無い態度な協力者にいらだちを覚える。

鮫野木淳

あの、友達でも少しは遠慮するぜ

協力者

そうだね。でも君が友達、片手で足りるぐらいしか居ないだろ

鮫野木淳

……うっ


 悪か三人しか友達が居なくて、居ないよりはましだろ。

協力者

そもそも、友達が少ないのは君が昔、友達を裏切ったからだよね?

鮫野木淳

…………おい! どうしてそれを知っているんだ!

 あの日のことは俺と小斗ちゃんとアイツしか知らないはずだ。

協力者

私が協力者だからさ。私だから知っている。後は君を入れた当事者だけ

鮫野木淳

答えになってないぞ

協力者

そんなことより、野沢心ちゃんを助ける方法を聞きたくないかい?

鮫野木淳

…………


 園崎さんが言っていた(全てを見通しているような気がする)そのことがなんとなく分かった気がした。

協力者

聞きたいだろ。インスタントコーヒーは良いから、座りなよ。座ったら話してあげる。それが条件さ

鮫野木淳

分かった


 鮫野木は協力者と反対側に座った。協力者と目が合った、鮫野木はとっさに目を逸らした。

協力者

ふふっ、そんなに警戒するなよ。別に私は君の敵じゃない

鮫野木淳

敵、俺には味方には見えない

協力者

そうだろうね。私は君の味方でもない

鮫野木淳

どっちだよ

協力者

だから私は協力者なのさ、ただし情報を伝えるだけで直接手助けはしない

鮫野木淳

そうですか


 どうも協力者のペースに慣れない。それ以前にあの日のことを知っている? 俺にとってあの日のことはけして忘れられない。忘れてはいけないことだ。だって原因は俺にある。

協力者

さてと、始めに君に質問なんだが……聞いてる?

鮫野木淳

……何ですか


 考え事をしていて協力者の話を聞き逃していた。協力者は鮫野木が返事をしてから話し出す。

協力者

君は園崎桜の話を聞いてどう思った?

鮫野木淳

……

協力者

どうして答えられない?

鮫野木淳

……どうして良いか、分からなくなった

協力者

それは六十部紗良の言葉を理解したから?

鮫野木淳

……助けても、野沢を目覚めさせても一人きりの現実だけだ


 野沢が目を覚ましたら本物の現実を知ってしまう。家族が居ない現実。十年、歳が離れた友人。帰る家が無い現実。他にもあるだろう、知ってしまったら余りにも可哀想だろ。

協力者

人を助けると簡単に言えるけど、本当の意味で人を助けることは出来ない

協力者

人を助けるには、それなりの代償と努力が必要なのさ

代償と努力か……昔の俺はそれをしなかった。今なら出来るだろうか? 当てがあるとすれば協力者だろうが、何処まで信用して良い物か。

鮫野木淳

野沢心を助けたい。けど、本人が不幸になる


 協力者は手を鮫野木の目の前に伸ばしてチョキの形にする。

協力者

そんな君に選択肢を二つ用意した。一つは園崎桜が選んだ簡単に助け出す選択肢

協力者

もう一つは難しく辛く、本当の意味で助けられる選択肢

協力者

さぁ、どちらを選ぶ?

鮫野木淳

あんたって人が悪いよな。たく……本当

鮫野木淳

本当の意味で助けるなら、難しく辛い方しかないだろ


 野沢を一人にしない方法があるのならば、その道が険しくても行くしかない。助けられるのに助けないのはもうしたくない。

協力者

さて、ここに一枚の不思議なチケットがある


 協力者は紙を取り出して、鮫野木に見せる。それは六十部が持っていた紙と同じ物だった。あの紙のおかげで現実の世界に帰ってこれた。

協力者

六十部紗良が君に使った不思議なチケット、これを野沢心に使うだけ、それで解決するはずだった

協力者

今回は緊急用に渡しておくよ。さぁ、最後の一枚だ。考えて使うように


 協力者は紙を鮫野木に手渡した。

鮫野木淳

緊急用って、何かあるのか

協力者

さぁ? 未来は決まっていない。要はその時の保険さ

鮫野木淳

未来? そりゃ分かるはず無いだろ

協力者

だろうね。未来なんて分からない方が良い

 協力者はニッコリと笑ってる。しかし、鮫野木でもその笑顔が作っていることが分かった。

 突然、協力者は席を外し、まるでミュージカルの俳優みたいに話し出す。

協力者

君の選択肢で未来はいくらでも変えられる! まだ、野沢心を最高な方法で助けることが君なら出来る

鮫野木淳

お、おい。今何時だと思っているんだ

協力者

君が望む。最高のパッピーエンドが訪れるよう。これを授けよう


 協力者はポケットから短剣を取り出した。その短剣の鞘を抜いて剣先を天井に向けた。その短剣が本物だと分かるのに時間はいらなかった。

協力者

果物ナイフじゃないよ。本物さ、これで魔女を刺せ。それが君の役目であり代償さ

エピソード33 まだ決まらない未来(5)

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