魔封じの結界の中にいる以上、
僕たち魔族は魔法が使えないはず。

なのになぜエルムは魔法が使えたのだろう?


そもそもエルムがあんなに強力な魔法を
使える理由も分からない。
まさか魔族じゃないってことなのかな……。
 
 

トーヤ

エルム、
キミはいったい……?

エルム

説明はのちほど。
今はこの危機を
切り抜ける方が先決です。

トーヤ

う、うん。そうだね。

 
 
その後、僕たちは順調にモンスターを
殲滅していった。


主力となったのは相変わらず
ティアナさんやロンメル。
僕もフォーチュンで狙撃した。

僕たちの至近距離までモンスターを
近付けさせなかったから、
エルムは周囲を警戒していた
だけだったけど。



こうして見渡せる範囲内にモンスターは
いなくなった。

もちろん僕らは全て倒したわけじゃない。
彼らの多くは王都を目指して
進んでいったみたいだから……。
 
 

サララ

これでしばらくは
安心ですねぇ。

ライカ

そのようですね。

トーヤ

それじゃ、エルム。
なぜ魔法が使えたのか、
教えてくれる?

ティアナ

魔族ではない
ということかしら?

ロンメル

いや、こいつは魔族だ。
気配で分かる。

エルム

えぇ、僕は魔族です。

サララ

だったら、なぜ……?

エルム

さっき使ったのは、
厳密に言うと
魔法ではありません。
僕の特殊能力なんです。

ロンメル

特殊能力?

エルム

魔族の中には生まれつき
特殊能力を持っている者が
存在します。

トーヤ

…………。

ライカ

…………。

 
 
ライカさんにチラリと視線を向けると、
かすかに視線を動かして
反応を返してくれる。

それはきっと僕の特殊能力について
黙っていろということなんだろうな。
だから素知らぬ振りを
しておくことにする。


この中で僕の特殊能力について
知っているのは、
今やライカさんだけだからなぁ。
 
 

ロンメル

特殊能力については
俺も聞いたことがある。

サララ

私もです。
でもそれなら
下民という身分だったのは
なぜでしょう?

ライカ

能力検査を受けて
いなかったのでしょう。

サララ

あ、なるほどぉ。

トーヤ

そうか、エルムくんも
僕と同じように
能力検査を
受けていなかったんだ。

トーヤ

だから身分も
下民のままで……。

エルム

能力検査を受けても
認定する側が不正をしたら
同じことです。

エルム

むしろ僕の能力を
知られたら、
それを狙う者によって
危険にさらされる。

エルム

だから決して誰にも
話してはいけないと、
リム先生に
釘を刺されていました。

ティアナ

リムなら間違いなく
そう言うでしょうね。

 
 
そうだ、僕もそう思う。
僕だってシンディさんから
同じように言われていたもん。

みんなギーマ老師の直弟子だしね。
 
 

ロンメル

で、お前の特殊能力とは
なんなのだ?

エルム

ラーニングです。
つまり他者の魔法や技を
忠実に再現できるんです。

ロンメル

なんだとっ!?

サララ

それはすごいですっ!

ティアナ

それなら確かに
狙われる能力ね。

エルム

ただし、僕の場合、
ひとつしか覚えられません。
新たに何かを覚えると
過去の技は
消えてしまいます。

トーヤ

つまり上書きされて
しまうわけだね。

ライカ

なるほど、
それで私の魔法を
記憶していたわけですか。

エルム

はい、その通りです。
皆さんと帰らずの遺跡へ
行った時、ライカさんが
ゴーストに対して
あの魔法を使いました。

エルム

その時に
ラーニングしたんです。

サララ

でもでも、
いくら特殊能力と言っても
魔法力なしにどうやって
発動させられたのです?

エルム

う……。

 
 
確かにサララの言う通りだ。

魔法を使うには技術がいるけど、
そのほかに魔法力を必要とする。
それを対価として発動させるわけだから。

でもエルムには魔法力がない。
特殊能力だから何もいらないのかな?


僕みたいな『体質』に関わる能力なら
魔法力のようなものは必要ないけど……。
 
 

ロンメル

隠すとためにならんぞ?

ライカ

無理に言わせるのには
反対です!
性質さえ分かっていれば
構わないでしょう!

ティアナ

……私はそうは思わない。

ライカ

っ!?

トーヤ

ティアナさん……。

 
 
僕は驚いた。
だってまさかティアナさんが
ロンメル側に立つとは思わなかったから。

僕はライカさんの意見に賛同している。
誰にだって言いたくないことはあるし、
能力の本質を知る必然性は
ないと思うもん。
 
 

ティアナ

なんとなくだが、
私には分かった。
エルムよ、その事実を
隠していていいのか?

エルム

っ!?

ティアナ

このままでは皆、
お前の能力を頼るだろう。
もし手遅れになった時に
それを知らされたら、
コイツらは
どう感じると思う?

ティアナ

罪悪感に
苛まれるのではないか?
魔族とは思えんほど
心の優しい連中だからな。

 
 
罪悪感に苛まれる? なぜだ?

エルムの特殊能力にはどんな秘密が
隠されているというのだろう?
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

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