吉良の質問に答えることが出来ずに鮫野木は黙ってしまった。今まで聞こえなかった走行音が良く聞こえる。

吉良助教

……鮫野木くん?

鮫野木淳

あっ、その、思い付かないです

吉良助教

そうか、ごめん。また、やってしまった

鮫野木淳

また、ですか?


 吉良は深呼吸をして、気持ちを落ち着かせた。

吉良助教

うん。僕の悪い癖だ、考察が暴走してしまう

吉良助教

周りがまったく見えなくなって、一人でああでもないこうでもないって、言ってしまう

鮫野木淳

俺も何となく分かります。俺の場合はアニメですけど……


 アニメの話になると熱くなって周りを気にせずに話してしまう。吉良さんもそれと近しいだけだ。

鮫野木淳

俺も好きな話をしてる時、熱くなって沢山話してしまいます。たまに引かれてるって事もあるけど、その時はとても楽しいです

鮫野木淳

だから、気にしないでください

吉良助教

アハハ、そうするよ

 そうこう話していると、車はある駐車場に入っていく。鬼灯は開いている駐車スペースに車を止める。

 エンジンを止めて、鬼灯は後ろを振り向いて話しかけた。

鬼灯先生

ほら着いたぞ、さっさっと出た


 そう言った鬼灯は車のロックを外す。カッシャと解除音がして、鮫野木と吉良はドアを開けて車から出た。
 車から出って、立派な建物を吉良は眺めながら鮫野木に話しかける。

吉良助教

鮫野木くん知ってる? ここは、最上階にかなりお高めのレストランがある高級ホテルなんだよ

鮫野木淳

へ、へぇーそうなんですか


 駐車場にあった看板を見てホテルの名前を確認をした。(RIOHOTEL)と書かれている。

吉良助教

流石、政治家の奥さんだ。良い場所を知ってらっしゃる

鮫野木淳

うわーーどうしよう。変な汗が出てきたぞ


 高級とは無反対の生活をしている鮫野木にとって、入り事なんて無い場所に入る緊張に加えて、園崎桜に会う緊張が襲う。

鮫野木淳

レストランに行くとは聞いてたけど、マジか

鮫野木淳

だから先生は制服を着て来いって言ったんだな。私服で入れる所じゃない

鬼灯先生

何、ボーとしてる。時間厳守だ。早く着いてこい

鮫野木淳

……はい

 鬼灯の後ろを着いていく、駐車場からホテルに続く階段を上りホテルに入る。ホテルに入ると床に引かれた深い青色の絨毯の心地良い感触が靴を履いていても伝わってきた。ロビーは受付に人が居るぐらいで落ち着いている。

 鬼灯は受付を通り過ぎレストランに直接行けるエレベーターに向かった。そのまま、エレベーターのボタンを押した。

鮫野木淳

直接、行けるんだ

吉良助教

ホテルに泊まる用のエレベーターは別にあるようだね


 周りを見渡すと、レストラン行きのエレベーターと別に、宿泊用のエレベーターホールが見えた。レストラン行きのエレベーターと違って、三台用意されている。

鬼灯先生

キョロキョロしていないで、早く乗れ、待たせるわけには行かない

 鬼灯に指示されて、急いでエレベーターに乗った。全員が乗るのを確認した鬼灯は三八階のボタンを押した。エレベーターの行き先階ボタンは一階と三八階の二つしか無く、珍しさを感じた。
 エレベーターの扉が閉まり、ゆっくりと上に上がって行く。

 三八階に到着して、三人はレストランに向かった。レストランの入り口まで行くとウェイトレスが出迎える。

いらっしゃいませ

吉良助教

あの、僕はこういう物です

 吉良は上着のポケットから、名刺を取り出して、ウェイトレスに見せる。すると、ウェイトレスはレストランの奥にある席に案内をした。

……

……

 そこに案内されると、黒いスーツを着たがたいが良い男が席にも座らずに立っていた。おそらく、SPだろう。

 席に座っているのは三十代ぐらいだろか、この場にあった服装の女性だけだった。その女性と鮫野木の目が合った。

……!

 女性は鮫野木を見ると、一瞬、悲しそうな表情を見せた気がした。

鮫野木淳

もしかして、あの人が日泉……園崎桜さんか?

 ひっそりと座っている女性は六十部が見せた十年後の日泉桜の写真と似ていた。
 その園崎桜に似ている女性が話しかける。

園崎桜

初めまして、私は園崎桜です。さ、席に座って


 落ち着いた雰囲気で話しかけた人が園崎桜で間違いないようだ。けれど、写真と見た目が似ているが違う。どうしてだろうか?

吉良助教

初めまして、吉良です。お世話になります

鮫野木淳

初めまして、俺、私は鮫野木淳です

鬼灯先生

初めまして、園崎さん。鬼灯です

 挨拶をすませて、席に座ることにした。三つ席が空いていて、吉良が真ん中に座り、鬼灯は吉良の左隣、鮫野木は吉良の右隣に座った。

 席が埋まると、料理が運ばれてきた。多分、コース料理だったと思う、料理を運ばれた頃から記憶が曖昧だ。味を楽しんだっけ? 大人達が何か話している事ぐらいしか記憶に残って無く。時々、園崎から質問があったけど「はい」としか答えられなかったことは覚えていた。

 ところところ記憶が無いかは慣れない場で食べたことも無い料理を食べたせいか、ただ緊張していたかのどちらかだろう。
 食事も終えた頃には緊張はしていなかった。そんな俺に園崎は話しかける。

園崎桜

鮫野木さんでしたよね。緊張は解けましたか?

鮫野木淳

は、はい。それなりに

園崎桜

フフ、良かったわ。緊張してたら本題に入れないわ

吉良助教

本題、ですか。園崎さん、僕は電話で話した通り、彼女はただ物ではありません。ですから、どういう結果になっても彼らを恨まないで欲しい

園崎桜

その件は心配なさらないで、むしろ私に非があります

園崎桜

六十部紗良さんがここに居ない時点である程度、覚悟は決めました


 園崎の口から六十部紗良の名前が出てきたことに意外とビックリしなった。六十部に園崎さんが依頼していることを知っていたから、手帳に園崎桜の依頼内容も書いていた。だから、落ち着けている。

園崎桜

鮫野木さん、あなたに話さないと行けないことがあります

鮫野木淳

はい、何ですか

園崎桜

野沢心、私の友人について……

――俺は唾を飲み込んだ。

 ついに本題が話されるのか、その話で野沢心を救えるか決まる。そう思うと、また緊張してきた。

エピソード31 まだ決まらない未来(3)

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