クロウの放った爆発魔法によって
激しい爆裂音と瓦礫の崩れ落ちる音だけが
耳の奥に響いている。

目の前は煙に包まれていて何も見えない。


僕たちの周りは熱風と衝撃波に――っ!?
 
 

トーヤ

あれっ?

 
 
おかしい、熱も衝撃も感じない。

あれだけ強力な魔法なら
ダメージを受けていてもおかしくないのに。
 
 

トーヤ

これはいったい……。

 
 
 
 

 
 
 
その時、白い煙の向こう側に
光る何かがチラッと見えた。

そしてそれは時間の経過とともに明瞭になり、
それでようやく
僕たちがほとんどダメージを受けていない
理由が判明する。

なんと僕たちの周りには結界魔法が
展開されていたのだ。
 
 

 
 
 

 
  
ここにいるメンバーで
これだけの結界魔法を操れるのは
ライカさんしかいない。

慌てて周囲を見回してみると、
徐々に晴れてきた視界の向こう側に
みんなの姿を発見する。
 
 

ライカ

はぁあああぁ……。

トーヤ

やっぱりライカさんが
結界魔法を
使ってくれている。

ロンメル

用心していて正解だった。
ギーマとやらを
連れ去られたのは
不覚だったが。

エルム

兄ちゃん!

トーヤ

エルム! 怪我はない?

エルム

はいっ!

サララ

酷い目に遭いましたぁ。

ティアナ

くっ……先生……。

 
 
ティアナさんは悔しそうだった。
当然だよね、目の前でギーマ老師を
連れ去られちゃったんだもんね。

でもギーマ老師以外はみんな無事みたい。



それから程なくライカさんは
結界魔法を解除して大きく息をつく。
 
 

トーヤ

ライカさん、
よく咄嗟に結界魔法が
使えましたね?

ライカ

えぇ、ロンメルさんから
いつでも結界魔法が
発動できるように
準備しておけと
言われていましたので。

ロンメル

宿屋を出る時に
ライカを呼び止めたのは
そのためだ。

ロンメル

防御に関しては
ライカが最適任だからな。

トーヤ

ロンメル、
クロウが化けているって
よく気付いたね?

ロンメル

クロウ?
ヤツが何者かは知らん。
ただ、カレンが偽物なのは
なんとなく感じていた。
様子が
おかしかったからな。

ライカ

えぇ、ロンメルさんから
その話を聞いて
私も注意して見てました。

サララ

カレンちゃん、
おかしかったですか?

エルム

僕も気付きません
でしたけど。

ライカ

例えば、トーヤさんが
サララさんを庇った時、
嫉妬しませんでしたよね。

ティアナ

あぁ、ノーサスと聞いて
私が疑いの目を
向けた時か。

ライカ

エルムさんが息苦しそうに
していた時も、
すぐに慣れると言うだけで
無責任な対応でしたし。

トーヤ

あっ!

 
 
ライカさんの話を聞いて僕も思い出した。

ティアナさんが舟で運ばれてきた時、
なんか違和感を覚えたんだけど
その理由が今、分かった。


もし本物のカレンなら
診察や治療を僕に任せるはずがない。
まずはカレンが診てから、
適切な処置を僕に指示するはずだ。




くそ……
ずっとカレンと一緒に過ごしてきたのに
今まで偽物だと気付かないなんて……。

なんて僕は鈍感なんだ!
僕が一番最初に
気付かなきゃダメじゃないか!
 
 

トーヤ

ぐっ!

 
 
僕は唇を噛み、地面を思い切り蹴った。
自然と涙が溢れてくる。
膝から崩れ落ち、全身から力が抜ける。



するとロンメルが不機嫌そうな顔をして
僕の胸ぐらを掴み、強引に持ち上げた。

く、苦しい……。
 
 
 
 
 

ロンメル

愚か者が!
泣いている場合か?
過ぎたことを悔やんでも
事態は変わらん!

 
 
 
 
 

ロンメル

お前がすべきことは
このあとどうするか考え、
行動することだ!
違うかっ?

トーヤ

あ……。

ロンメル

こうしている間にも
事態は悪化へと
向かっているだろう。
それでよいのかっ!

 
 
そうだ、ロンメルの言う通りだ。
泣いている場合じゃない。
立ち止まっている場合じゃない。



すでにギーマ老師は連れ去られ、
その力が悪用されようとしている。

ティアナさんの話だと、
それはかなり深刻な事態に繋がるらしいし。



冷静になれ! 考えるんだ!



まずは……そうだ!
本物のカレンの行方だ。
いつどこでクロウと入れ替わったのか?
 
 

トーヤ

ロンメル、
意見をきかせてほしい。
カレンはいつから偽物と
入れ替わったのかな?

ロンメル

おそらくは実家から
戻ってきた時だろうな。

トーヤ

えっ?

ロンメル

明らかに
様子が変わったのは
そのタイミングだ。

エルム

そういえばロンメルは
手下やネズミに
監視させると言ってたな?

ロンメル

あれは完璧ではない。
監視の目を
かいくぐった可能性は
否定できん。

ロンメル

サララよ、
心当たりはないか?
ずっと一緒にいたか?

サララ

いえ、応接室へ通された時、
少しだけカレンちゃんが
別室へ行きました。

ライカ

その時ですね、きっと。

 
 
――どうなんだろう?


もしその話が正しいとすると、
副都へ向かう途中の船の中で
僕を襲ってきたカレンは
本物だったということになる。


そうだよね、
その時以外はいつものカレンだったもん。

つまりほかにも色々と
僕らの知らない事情か何かがあるのかも。
 
 

トーヤ

それならカレンは
きっと無事だろうね。
僕たちから引き離すのが
目的だったんだろうし。

ロンメル

もうひとつ。クロウは
貴族院だか侯爵だかと
繋がっているということだ。

ティアナ

そうね、先生の力を
悪用しようとしている
ヤツともグルでしょう。

サララ

あのあのぉ、
そもそも敵が狙っている
ギーマさんの力って
なんなんです?

ティアナ

…………。

 
 
サララの問いかけに、
ティアナさんは厳しい表情を浮かべたまま
沈黙していた。

全員の注目が集まる中、
しばらくして彼女は
意を決したような顔をして口を開く。
 
 

ティアナ

……不老不死の薬よ。

トーヤ

不老不死の薬っ!?
実在したんですかっ?

ライカ

調薬どころか製法すら
確立していないというのが
薬草師としての
一般的な常識ですよね。

ティアナ

そうか、あなたたちは
薬草師だったわね。
えぇ、先生はそれを
完成させていた。

ティアナ

こうして
隠れ住むようになったのは
それが悪用されないように
するためなの。

 
 
そういうことだったのか。

もし不老不死の薬が完成していることを
知っている者がいたなら、
ギーマ老師の身柄を狙うのは当然だ。

それを悪用して侵略に利用したなら
魔界どころか平界だって大混乱に陥る。



問題なのはすでにギーマ老師が
敵の手の中にあるということ――。

これからどうなってしまうのだろう?

そして僕たちは
どうすればよいのだろうか?
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

第146幕 泣いている場合じゃない!

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