魔方陣に入った直後、
周囲は真っ白な光に包まれた。

しばらく経ってから目を開けると、
そこに広がっていたのは山の景色。
草の匂いと薄い空気、
涼しい気温が感じられる。

そして遠くには一軒の家が建っている。
 
 

トーヤ

ここは魔竜山だ。
ギーマ老師の家も見える。

ティアナ

悪いけど、
私は先に行くわね!

トーヤ

あ……はい……。

ティアナ

先生ぇ~っ!

 
 
 

 
 
 
ティアナさんは小屋の方へ
走っていってしまった。
治療をしたとはいえ、すごい回復力だ。

やっぱり体質が僕たちとは
根本的に違うんだろうな。
 
 

ライカ

ここがあの有名な
魔竜山ですか……。

ロンメル

確かに周りには
無数のドラゴンの気配が
感じられるな。

サララ

ここなら魔族も
簡単には近付けない
ですねぇ。

エルム

少し息苦しいですね。

トーヤ

高山病には
気をつけないとね。
特にエルムは高地に
慣れていないんだし。

カレン

すぐに慣れるわよ。

ライカ

…………。

トーヤ

頭痛が酷くなるとか
体調がおかしいと思ったら
すぐに言うんだよ、エルム?

エルム

はいっ!

 
 
僕たちも魔方陣前を離れ、
ギーマ老師の家へ向かって歩き出した。



――なんだか懐かしい。

かつてここに来た時はまだまだヒヨッコで
ギーマ老師にこっぴどく叱られたっけ。

僕やカレンは
自分の未熟さを思い知らされた。
旅をしてきた今、少しは成長できたかな?
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
小屋の中に入ると、
ティアナさんはギーマ老師と
何かの話をしていた。


ギーマ老師はソファーに座って
お茶を飲んでいたみたい。
僕たちの姿を見ると、フッと口元を緩める。

元気そうで良かった……。
 
 

ギーマ

とうとうここまで
辿り着いたか。
トーヤ、カレン。

トーヤ

ご無沙汰しております、
ギーマ老師!

カレン

どうも。

ギーマ

セーラはどうした?
あのボケボケの武器職人だ。

トーヤ

セーラさんは事情があって
王都へ戻りました。

ギーマ

そうか、それは残念だ。

ティアナ

それよりも先生、
早く身を隠しましょう。
話をした通り、
ここは危険です。

ギーマ

バーカ。逃げるなら
寸前でいいんだよ。
まだ早すぎる。

ティアナ

ッ!?
それはどういう……。

ギーマ

ヤツらに戦力を
使わせてからでいいだろ。
ここへ辿り着くには
消耗するだろうからな。

ロンメル

なるほど、
それも一計だな。

 
 
確かにギーマ老師の作戦は分かる。
でも逃げられる時に逃げておいた方が
リスクは少ない。

相手がどんな手を使ってくるか、
どれだけの戦力なのか、
何もかも分からないわけだし。


ガイネさんのように
早めに避難した方がいいに決まってる。
 
 

ティアナ

先生ッ! 自分の命が
かかっているんですよっ?
それにもし先生の力が
悪用されたら魔界だって!

ギーマ

魔界だけじゃねぇ。
平界だって大混乱かもな。

ティアナ

そこまでお分かりなら――

ギーマ

ティアナ、
お前がいるじゃねぇか。

 
 
ギーマ老師はティアナさんの言葉を遮って
問いかけた。
その表情は真剣そのもので、
彼女を真っ直ぐ見つめている。

ティアナさんは意図が分からず
少し戸惑っているみたい。
 
 

ギーマ

お前だけじゃない。
この世界にはトーヤも
カレンもセーラも、
ミューリエや勇者だっている。

ギーマ

力を合わせりゃ
なんとかなるもんさ。
俺なんかいなくても
どうとでもなる。

 
 
 
 
 

トーヤ

それは違うと思います。

 
 
 
 
 

ギーマ

何だと?

トーヤ

ギーマ老師に何かあったら
悲しむ人がいます。
それでもいいと
おっしゃるのですか?

トーヤ

世界はなんとかなっても
ギーマ老師がいなかったら
意味がないって思う人も
いるんです。
そういうことを
お考えにはならないんですか?

ティアナ

トーヤ……。

エルム

兄ちゃん……。

サララ

トーヤくんっ♪

 
 
僕はギーマ老師に自分の意見をぶつけた。


死んでしまったら二度と生き返れない。
大切な人に何かあったら
悲しむ人が必ずいる。

それは僕が旅を続けてきて
強く感じたことだ。



ギーマ老師に
それが分からないはずがない。

そういう意識や様々な経験を
積ませるために
僕たちに旅をさせたんだと思うから。


――この場は絶対に退けない!
 
 

ギーマ

ふっ、言うように
なったじゃねーか。
……いい面構えだ。

ギーマ

ティアナ、逃げるぞ。
だが、
行くあてはあるのか?

ティアナ

先生……。

 
 
ギーマ老師が逃げることに同意してくれて
ティアナさんは嬉しそうだった。

僕も想いが伝わって嬉しい。
 
 

ティアナ

とりあえず王都へ。
女王様に助けを
請いましょう。

カレン

……それは困るわねっ♪

 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
その直後、辺りに爆発音が響いた。

軽い衝撃波と爆風で
少しダメージを受けてしまったけど、
この程度なら
みんなも命に別状はないはず。



ただ、周囲は白い煙に包まれ、
状態を確認することは出来ない。
また、屋根は吹き飛んでしまったようで、
天井には青空と白い雲が見えている。
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 

トーヤ

何が……
起きたんだろう……?

トーヤ

みんな、大丈夫っ?

カレン

大丈夫でしょう。
手加減したから。
ギーマが傷付いたら
元も子もないもん。

トーヤ

カレン!?

 
 
上空には浮遊魔法か何かで浮かぶ
カレンの姿があった。

しかもその抱えた腕の中には
ギーマ老師の姿がある。
手足はダラリとぶら下がったまま。
抵抗する様子はない。


まさか死んじゃったってことは
ないだろうから、
おそらく失神しているんだろうと思う。
 
 

カレン

でも、もはやギーマは
私の手の中にある。
今度は遠慮なく
吹き飛ばしてあげる♪

トーヤ

カレン……どうして……。

カレン

冥土の土産に
教えてあげるわ。
私はカレンじゃない。

 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
カレンはその直後、白い光に包まれた。

そしてその光が収まった時、
その場にいたのは見覚えのある人物――。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 

クロウ

ふふふ……。

トーヤ

お前はクロウ!

クロウ

久しぶりですね。

トーヤ

くっ……。

クロウ

再会して間もなくで
申し訳がありませんが
サヨナラです。

クロウ

態勢の整わない今なら
防ぐ暇はないですから。
元・四天王の使い魔である
サララであっても。

 
 
 

 
 
 
クロウは片手を振り上げ、
その上に家ほどの大きさの
光球を一瞬で作り上げた。



――あれは爆発魔法!?

しかもあれだけ巨大な魔法力の塊だと
この一帯全てが
吹き飛んでしまうかもしれない。

くそっ、魔法の詠唱を事前に済ませていて
いつでも発動できる状態に
してあったんだ!
 
 

クロウ

死ねぇえええええーっ!

トーヤ

わぁああああぁ~っ!

 
 
 
 
 
 
 
 

 
 

 
 
 
 
 
避ける隙なんてなかった。
クロウの放った爆発魔法は僕たちに直撃。

そして目の前で魔法力が炸裂し、
全てが熱と爆風に包まれた。
眩い光と土煙によって周囲は何も見えない。




 
 

 
 
 
 
 
クロウの満足げな高笑いだけが
遠くで響き渡っている。

ただ、それもすぐに消え失せ、
耳の奥にはキーンという音と
瓦礫の崩れ落ちる音だけが
残ったのだった。
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

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