授業中、言葉を交わし、机を合わせる。
……考えれば気づけたなぁ。
藍人はすこし、気づけなかった自分を恥じた。
石井君、ごめん、教科書みせてくれない……?まだ、なくて
あ、そうか。いいよ
ありがとう
授業中、言葉を交わし、机を合わせる。
……考えれば気づけたなぁ。
藍人はすこし、気づけなかった自分を恥じた。
……周りの男子の視線が痛い理由が気になったけれど、特に何もなくあっという間に昼休みになった。
藍人は、友達と弁当を食べ終え、理衣のところに向かう。
理由はひとつ、委員長としての役割を果たすためだ。
あのさ、秋野。昼食べ終わったら校内案内しようと思うんだけど、どうかな? 大丈夫?
え、いいの?
うん、僕委員だし。それに、今案内しとかないと五限目移動だし
あ、そうなんだ。じゃあ、食べたら声かけるね
返事を受けて、藍人は席に戻ろうとした。そこを、藍人の幼馴染、友野透子(ともの とうこ)に呼び止められる。
あ、藍人
ん、なに?
わたしが案内するよ、もっと話したいし
藍人は、透子が理衣とすぐに仲良くなっていたことに気づいていた。
僕は、いいけど。秋野がそうしたいなら、透子にお願いしようかな
え、私はどっちでもいいよ? 案内してもらえるだけでもありがたいし
じゃあ、透子にお願いする
了解。じゃ、ご飯食べ終わったら行こうね
結局なにもすることがなくなった藍人は、昼休みを読書に使うことにした。
校庭では男子がサッカーをしていたが、なんとなくそれに混ざる気分ではなかったのだ。
……屋上行こうかな
藍人は学校の中で一番屋上が好きだった。
解放されている屋上は珍しい、と中学時代の友達に羨ましがられるが、それが当たり前の藍人にとっては、あまり特別なことには思えない。
風が気持ちよくて、手持無沙汰な時間には重宝しているけれど。
屋上へ向かうため、階段を上っていると、屋上から声が聞こえてきた。
ねぇ、私のことどう思ってるの?
いや、そう言われても……
女子生徒のほうは黒井か……。
思わずため息をつく。呆れてしまう。
黒井華(くろい はな)は、“くろいはな”と平仮名になおせば性格を一言で語れてしまう。
その“くろい”性格と“はな”のような容姿。
学年全員がその性格を熟知していたが、華に嫌われたら“終わり”という暗黙の了解がある。
そんな根拠のない噂に踊らされ、必死になればなるほど、彼女は冷たくなる。
そうして、興味を持たれた男子は、興味を持ってしまった男子は、毒牙にかかる。
藍人は捕まった男子生徒を気の毒に思いつつ、もう屋上はいいやと教室に戻って行ったのだった。
第三話へ、続く。