秋野 理衣

石井君、ごめん、教科書みせてくれない……?まだ、なくて

石井 藍人

あ、そうか。いいよ

秋野 理衣

ありがとう

授業中、言葉を交わし、机を合わせる。

……考えれば気づけたなぁ。
藍人はすこし、気づけなかった自分を恥じた。

……周りの男子の視線が痛い理由が気になったけれど、特に何もなくあっという間に昼休みになった。

藍人は、友達と弁当を食べ終え、理衣のところに向かう。

理由はひとつ、委員長としての役割を果たすためだ。

石井 藍人

あのさ、秋野。昼食べ終わったら校内案内しようと思うんだけど、どうかな? 大丈夫?

秋野 理衣

え、いいの?

石井 藍人

うん、僕委員だし。それに、今案内しとかないと五限目移動だし

秋野 理衣

あ、そうなんだ。じゃあ、食べたら声かけるね

返事を受けて、藍人は席に戻ろうとした。そこを、藍人の幼馴染、友野透子(ともの とうこ)に呼び止められる。

友野 透子

あ、藍人

石井 藍人

ん、なに?

友野 透子

わたしが案内するよ、もっと話したいし

藍人は、透子が理衣とすぐに仲良くなっていたことに気づいていた。

石井 藍人

僕は、いいけど。秋野がそうしたいなら、透子にお願いしようかな

秋野 理衣

え、私はどっちでもいいよ? 案内してもらえるだけでもありがたいし

石井 藍人

じゃあ、透子にお願いする

友野 透子

了解。じゃ、ご飯食べ終わったら行こうね

結局なにもすることがなくなった藍人は、昼休みを読書に使うことにした。



校庭では男子がサッカーをしていたが、なんとなくそれに混ざる気分ではなかったのだ。

石井 藍人

……屋上行こうかな

藍人は学校の中で一番屋上が好きだった。

解放されている屋上は珍しい、と中学時代の友達に羨ましがられるが、それが当たり前の藍人にとっては、あまり特別なことには思えない。

風が気持ちよくて、手持無沙汰な時間には重宝しているけれど。

屋上へ向かうため、階段を上っていると、屋上から声が聞こえてきた。

黒井 華

ねぇ、私のことどう思ってるの?

いや、そう言われても……

女子生徒のほうは黒井か……。

思わずため息をつく。呆れてしまう。

黒井華(くろい はな)は、“くろいはな”と平仮名になおせば性格を一言で語れてしまう。

その“くろい”性格と“はな”のような容姿。

学年全員がその性格を熟知していたが、華に嫌われたら“終わり”という暗黙の了解がある。

そんな根拠のない噂に踊らされ、必死になればなるほど、彼女は冷たくなる。

そうして、興味を持たれた男子は、興味を持ってしまった男子は、毒牙にかかる。

藍人は捕まった男子生徒を気の毒に思いつつ、もう屋上はいいやと教室に戻って行ったのだった。

第三話へ、続く。

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