五限目の授業は化学で、実験室に移動だった。
五限目の授業は化学で、実験室に移動だった。
あぁ、めんどくせぇなー
藍人の親友といえる存在の笹倉裕哉(ささくら ゆうや)は呟く。
そんなこと言うなよな
だって、ガイコツの授業だぞ?
ぶふっ!!
木山柳太郎(きやま りゅうたろう)という名の理科担任は、がりがりに痩せていてガイコツという安直なあだ名がつけられていた。
彼の独特な癖は学校中で有名で、もはや化学を選択教科に取った生徒の間では名物となっていた。
えぇー、これはぁ、こうだからぁぁ、あぁぁぁぁ、それはぁ、ちがうよぉ
裕哉! やめろよ
そう言いながらも藍人は笑っている。
裕哉は、木山のマネが学年、いや学校一うまいぐらいだった。
周りの男子も大勢で笑っている。
それを遮るように予鈴が鳴り始めた。
うわ、やばい。遅れる、急ごう!
藍人の声で、走り出す男子たち。
足音と予鈴が廊下に響き渡っていた。
あぁー、終わった終わった
今日もフルパワーだったな
あ、藍人は日直だろ?
あ、そうだったな……
日直は、席が隣同士の二人が担当する。今日は元々藍人の担当で、理衣が転入してきて隣の席になったので、理衣は早々に日直をすることになったのだ。
担任は任せるか迷ったようだったが、学校のことに慣れる機会になるだろうから、と理衣は率先して請け負ったのだった。
というか、羨ましいよな。あの秋野理衣と隣の席で、しかも日直も一緒なんて
そうなのか?
……これだから藍人は!!
秋野は美人なんだぞ、わかってるのか!?
声でかい
……まったく、お前は人の気も知らないで
ほっとけ
平凡な学校生活が、またひとつ、終わっていく。
穏やかで、なにも変わらない、すこし退屈で、けれど裕哉のような友人のいる、楽しい日々が。
でも、藍人は想像すらしていなかった。
これから先待ち受けているものが、もう“平凡”とは形容できないものへと変わり始めていることを。
第四話へ、続く。