--------恋なんて、どうでもいい。
--------恋なんて、どうでもいい。
石井藍人(いしい あいと)は常々そう思っている。
今も、友達の彼女の話を聞き相槌を打ちながら、心の中では冷めた感情を持っていた。
恋情がどういうものか、わからない。
けれど藍人はそれを悲観するでもなく、悩むこともなく、自分はそういう人間なのだと理解して、特に気にも留めていなかった。
わからなくて困ったことなどない。
だから自分はこれでいい、そう思っている。
窓から差し込む夏の強い日差しが、カーテンを無視して、教室にいる生徒たちを刺すような、そんないつも通りの、なんでもない朝。
教室にあるクーラーは古く、弱い冷風が熱気と戦っている。……負けて、教室はじんわり暑いまま。
高校二年生、夏休み前のありふれた一日。
---------今日も、いつもと変わらない一日が始まると思っていた。
おはよう。今日はまず、転入生を紹介する。秋野、入ってこい
教室に入ってきて開口一番、転入生の存在を明かす担任。相変わらず唐突で、脈絡がない。
藍人は窓際の一番後ろの席で、その様子を眺めていた。
入ってきた転入生は、女子。
教室の雰囲気が変わったのを藍人は感じた。
その女子は、美人だった。
美人だったのだが、そういう風に女子をみたことがない藍人にとって、美人なのかそうでないのか、という判断基準は理解できないもののひとつだ。
秋野、自己紹介を
担任はいきなりその転入生に告げる。
それを受け、一礼し、彼女は話し始めた。
秋野理衣(あきの りい)です。こんな中途半端な時期の転入ですが、よろしくお願いします
そう言ってペコリと頭を下げた彼女に降りかかる拍手。
なぜこんなに大きな拍手が起こるのかと不思議に思いながら、藍人も手を叩く。
ぼんやりと隣の空席を眺める。
藍人の座る席はあたりでもあり、隣のいないはずれでもあった。
……秋野は、たぶん僕の隣の席だな。
じゃあ、あそこの……石井か。窓際のあの席に、座ってくれ。あぁ、石井は委員長だから、あいつに訊けばたいていの事はわかるからな
はい、と返事をした彼女は、藍人の隣の席までまっすぐ進む。
席に着いた彼女は藍人のほうに顔を向け、
よろしくね
と笑った。
こちらこそ、よろしく
そう返事をして、再び顔を前に向ける藍人。
藍人は、そっけないような性格ではあるが、実は優しい性格の持ち主であり、気遣いのできるところからクラス委員に指名されていた。
とりあえず、昼休みに校内を案内しようかな
そう考えつつ、ちらりと視線を横に向けてみる。
転入性は、楽しそうな笑顔で前を見据えていた。
……その姿は、射し込む陽射しに照らされたのか、なんだかとても眩しく感じられた。
第二話へ、続く。