鮫野木淳

調べるって、何を?

六十部紗良

三人に野沢心を消しかけようと、仕向けた人物を見つけたいの

六十部紗良

だから、鮫野木くんには元の世界に戻って、会って欲しい人が二人いるわ

鮫野木淳

六十部? 何、言ってるんだ?

 六十部はポケットから小さな紙を取り出して鮫野木に渡した。その小さな紙には星のような模様が描かれている。

鮫野木淳

これは?

六十部紗良

元の世界に戻るためのチケットらしいわ

鮫野木淳

……チケットですか? 元の世界に戻る? さっきから話している意味が分からないよ


 六十部の言っていることが、理解が出来ない。

六十部紗良

私の目的の一つが、あなたにコレを渡すかどうか、頼まれていたわ

鮫野木淳

あの……六十部

六十部紗良

聞いて


 六十部の勢いに負けて、黙ってしまう。

六十部紗良

鮫野木くん、私がここに来た理由は園崎、日泉さんの依頼を受けて来たわ

六十部紗良

それと、ある協力者の頼み事を聞いて、この紙をあなたに渡すように託されたの

六十部紗良

鮫野木くん。コレを使って、元の世界に戻るかどうかは鮫野木くんが決めて

鮫野木淳

待てくれ、どういうことだ?

鮫野木淳

元の世界? 戻れるって、こんな紙切れで戻れるのかよ

鮫野木淳

六十部、分からないよ


 鮫野木は頭を抱え、混乱した頭で必死に考える。まず、嘘みたいな話を信じられるのか。別れ話し? 状況が変われば協力出来る? 六十部は探偵で――

六十部紗良

鮫野木くん


 考えがこんがらがっている鮫野木に六十部は両手をぽっペに当てる。徐々に六十部の顔が近づいてきて優しくキスをされた。

鮫野木淳

んっ?

鮫野木淳

キス?

六十部紗良

落ち着いたかしら


 落ち着いたというよりは思考が止まった。

六十部紗良

あなたは頭が悪いのだから、私の言うことを聞きなさい

六十部紗良

確実にあなたより、私は頭が良いのよ。あなたよりね

鮫野木淳

そ……そこまで、言わなくても


 六十部の顔を見つめた。口角が少し上がっている。ああ、俺が良く知っている六十部が冗談を言う時の表情だ。本当、六十部が楽しそうでなりよりです。

鮫野木淳

俺には六十部が理解出来ないよ

六十部紗良

理解しなくて良い。信じてくれるだけで良いの

鮫野木淳

そうですか


 キスをされて目的を忘れそうだ。まさか初めての相手が六十部になるなんて思いもしなかった。気を紛らわす為に六十部に質問をした。

鮫野木淳

そうだ、えーと、コレで元の世界に戻って俺にどうしろと?

六十部紗良

そうね、まずは私の手帳を手に入れて、そこに園崎さんの住所が書いてあるわ

六十部紗良

そこに行って、現実の園崎桜さんに会って

鮫野木淳

ああ、その手帳は何処にあるんだ?

六十部紗良

私の机の上に置いてあるはずよ


 相変わらず態度が変わらない。キスをしたはずなのに六十部は堂々としている。

六十部紗良

園崎さんに会ったら、次の日に協力者が会いに来るから待ってなさい

鮫野木淳

会いに来るって? 会うじゃなくて?

六十部紗良

ええ、そうよ。協力者は少し変わっているから気を付けて

鮫野木淳

そうか、気を付ける


 鮫野木は最後にある質問をした。

鮫野木淳

なあ、六十部。こんな紙でどうやったら、戻れるんだ

六十部紗良

体に貼れば良いらしいわ。協力者がそう言ってた

鮫野木淳

そうか……あの、お願いがあるんだけど

六十部紗良

何?

鮫野木淳

みんなの事を頼む

六十部紗良

ええ、任されたわ

鮫野木淳

さーて、ちょっくら状況とやらを変えてくるわ

六十部紗良

何、そのノリは?


 呆れた様子を見せる六十部は一歩下がる。

六十部紗良

お別れなんだから、少しはシンミリしなさい

鮫野木淳

その言葉そっくり返すぜ

鮫野木淳

あ、そう言えば別れ話しって……そういう

六十部紗良

そう、間違ってはないでしょ

鮫野木淳

そうだけど、勘違いはした


 鮫野木は覚悟を決めた。野沢が助かる道が元の世界にあるのなら、みんなには申し訳ないが助けられる状況にして、急いで戻ってくる。そう、心に刻んだ。

鮫野木淳

さて、行ってくるわ

六十部紗良

変えてきなさい


 鮫野木はお腹の位置に星の模様が描かれている小さな紙を貼った。すると、鮫野木の体を光が包んだ。

鮫野木淳

おお、なんだコレ! ファンタジーみたいだ!

六十部紗良

ハァ、緊張感がないわね

 光が強くなるにつれ、意識が遠のいていった。自然と目が閉じ体の力が抜けていく、まるで眠るような感覚だ。眠たいとても眠たい――

――ドラマで聞いたような心電図の音が聞こえる。

鮫野木淳

うっ……う、うん


 目が覚めたら白い天井が目に映った。

鮫野木淳

――知らない天井だ

 どうやら俺はベッドの上で寝ているようだ。

鮫野木淳

本当に戻って来たんだな

 体が重い……まるで風邪みたいだ……急がないといけないのに……まるで力が入らない。

エピソード28 目的と理想(5)

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