六十部と久賀が体育館に入ると藤松は野沢と日泉に向って頭を深く下げて、その近くに小斗と凪佐が見守るように立っている。一人、鮫野木の姿が見当たらないでいた。
六十部と久賀が体育館に入ると藤松は野沢と日泉に向って頭を深く下げて、その近くに小斗と凪佐が見守るように立っている。一人、鮫野木の姿が見当たらないでいた。
申し訳ない
何もそこまでしなくても、良いですよ。気にしてません
僕も気にしてません。それにあなたは凄いです。僕は謝るのにかなり時間が掛かりました
だから、その、許してあげます
藤松は頭を上げる。恥ずかしそうにしている野沢を見て話した。
良いのか?
はい。それより謝った方が良い人が居るはずです
そうですよ。友達なら
そう言われて藤松は小斗を見つめた。小斗は藤松と目が合った時、ぎこちない笑顔を見せる。
……えーと、アハハ
小斗ちゃん
これは仕方ない反応だった。寄りによって友達かつ女性に金属バットを向けてしまった。嫌われても仕方のないことだ。
小斗……
待って、私から話す
ほっぺに両手を当てて、少し力を入れた。両手に押され、ほっぺが持ち上がる。小斗は緊張した時はこうやって、気持ちを落ち着かせている。
小斗はほっぺから手を離してから話した。
良し、藤松くん
何だ?
とっ、ても、怖かったです。だから、ごめんと言ってください!
えっ……分かった。ごめん
良し、許そう!
小斗の意外な態度にあっけにとられ、返事が遅れる。
待て、良いのか? まるで謝った気がしないが
別に良いじゃん。終わったことだし
でもな、あっさりとし過ぎだぜ
良いの、ごめんが聞けただけで十部だから
でも……な
あまり謝れたら、許しにくいの
……ん……そうか
じゃ、もう謝らない
そう言い残すと藤松は体育館の出入り口に向い歩き出した。出入り口には六十部と久賀が立ち塞いでいた。
六十部に近づいた藤松に話しかける。
六十部、鮫野木が体育倉庫の前で話したいことがあるんだってよ
……そう、わざわざご苦労ね
……
六十部は言われたまま、体育倉庫に向った。
用件を伝えた藤松は体育館のドアに背中を付けて座った。
…………
久賀。お前もここに居ろ
六十部の後をこっそり付けようとした久賀を注意した。
ちぃ、ばれたか
何がばれただよ
シチュエーション的に見たくないの? フッジーは
久賀はそう言いながら、藤松の隣に体操座りで座った。
そういうシチュエーションじゃない。それと近い
だろうね。そういう空気じゃないもんね
分かってるなら、ほっとけよ。それと近い
だってフッジー。ここに居ろって言ったじゃん
――勝手にしろ
ニヤニヤとしている久賀に藤松は体を徐々に動かして距離を取った。目線を遠くにやると小斗と目が合った。
浮かない顔をしていた小斗が話しかけてきた。
ねぇ、藤松くん
……何んだ?
私達ぐらいしか話す人がいない鮫野木くんが何で会ったばかりの紗良ちゃんと二人きりで話そうと思ったんだろうね?
……さぁな、別に鮫野木の自由だろ
うーん、そうだよね
体育倉庫のコンクリートで出来た段に鮫野木は座っていた。
そんなところに座ったら、ズボンが汚れるわよ
良いんだよ。これぐらい
鮫野木は立ち上がり、ズボンに付いた砂を叩いて落とした。
私も鮫野木くんに話したいことがあって、ちょうど良かった
そうか、先に六十部からどうぞ
優しいのね
六十部は悲しそうに話し出した。
私は別れ話しをしに来たの。鮫野木くんは?
……別れ話しね
俺は野沢を助けるために協力してくれないか
今は無理よ。状況がかわれば変われば協力は出来るわ
今は? 状況ですか?
だから、私に調べる時間をちょうだい
六十部の目は透き通っていた。彼女には考えがあるのだろう。
状況とは何のことか?
状況が変われば野沢を助けられるのか?
俺は六十部を信じられるのか……。