僕たちは舟を借り、
それに乗って近くの宿屋へ移動した。

一方、カレンとサララは
ラグナさんと一緒にカレンの実家へ。
その際、僕はサララの強い希望で
魔法の成功率が上がる薬を手渡した。


薬に頼ってほしくないけど今回は緊急事態。

それにサララにはその薬について
しっかり話したから
乱用に繋がるということはないと思う。


……あぁ、僕にもっと力があれば。
 
 

ライカ

トーヤさん……。

トーヤ

ライカさん!?

ライカ

カレンさんたちは
きっと大丈夫ですよ。

ロンメル

――ふっ、
それは気休めだな。

ライカ

っ!

ロンメル

いくら個々に力があっても
限界はあるからな。
不測の事態も
考えておいた方がいい。

ライカ

あなたはなぜそんな
心ないことをっ!
トーヤさんの
従者なのでしょう?

ロンメル

愚かな……。
事実は事実だ。
従者とか主人とか
そんなものは関係ない。

エルム

だから僕はお前が
嫌いなんだ!
兄ちゃんに謝れっ!

トーヤ

いいんだよ、エルム。
ライカさんもありがとう。
でもロンメルの
言う通りだよ。

 
 
すかさず僕は三人の間に入った。


ライカさんやエルムの気持ちは
凄く嬉しい。
でもロンメルの言っていることも正論だ。

誰が悪いわけでもない。
もし責任があるとすれば、それは僕自身。
そして僕が原因で
三人にケンカをしてほしくない。
 
 

トーヤ

僕はふたりの危険を承知で
ロンメルの提案に賛同した。
だってあの状況では
そうするしかなかったから。

ロンメル

ふむ……。

トーヤ

悔しいよ。
僕が無力なばっかりに。
身分が低いばっかりに。

エルム

兄ちゃん……。

トーヤ

だけどね、
だからこそこの状況を
変えていかなければ
ならないんだ!

トーヤ

女王様の目指す世界を
一緒に作りあげて、
差別をなくしてみせる。
僕のように悲しむ人を
減らすためにも。

ロンメル

さすがトーヤ。
肝が据わっているな。

エルム

僕も兄ちゃんに
どこまでも
ついていきます。

ライカ

えぇ、私も微力ながら
お手伝いさせて
いただきます。

トーヤ

ありがとう。

 
 
そうだ、女王様の考え方は
少しずつだけど確実に
魔界にも広まりつつある。

時間はかかるかもしれないけど、
みんなで力を合わせればきっと叶う。
そう僕は信じてる。
 
 

ロンメル

当面は安心しろ。
手下のヴァンパイアや
ネズミどもに命じて、
ふたりを監視させている。

ロンメル

何かあればすぐに分かる。
もちろん力なき連中ゆえ
監視することしか
出来んがな。

トーヤ

ロンメル……。

 
 
さすがロンメルだ。
ちゃんと手を打っていてくれたんだね。


口は悪いし素直じゃないところもあるけど
いつも僕たちのことを考えてくれている。
仲間になってくれて本当に良かった。

戦う力だけじゃなく、
精神的にも支えになってくれているもん。
 
 

ロンメル

エルム、ライカ。
俺は口だけではないと
分かったか?
やれることは
やっているのだ。

エルム

う……。

ライカ

すみませんでした。

ロンメル

ふふん、分かればよい。
では、お前たちは
さっさとトーヤの
力になってやれ。

ライカ

どういう意味ですか?

ロンメル

ティアナは牢に
入れられているのだろう?
もし解放されたら
怪我の治療や体力の回復が
必要になるのではないか?

ロンメル

下の者に対する風当たりは
強いだろう。
ゆえに囚人に対する扱いは
苛烈なものに違いない。

 
 
ロンメルの言う通りだ。

これだけ差別が強い地域なら、
想像もつかないような
酷いことをされていても不思議じゃない。
 
 

トーヤ

調薬や治療の道具を
準備しておこう。

ライカ

トーヤさん、
体に負担が小さい
ホロホロンはいかがです?

トーヤ

そうですね。
それとリムさんから習った
麻酔薬も調薬します。
カレンが手術をするかも
しれませんから。

エルム

僕にも何かお手伝いを!

トーヤ

エルムは食事の準備や
お湯を沸かしてもらえる?

エルム

はいっ!

ロンメル

ふふっ、ようやく
活き活きとしてきたか。
手のかかるガキどもだ。

 
 
 
 
 
結局、その日にカレンたちは
戻って来なかった。

きっとグラン伯爵と会ったり
色々な手続きをしたりしているうちに
日が暮れてしまったんだろうな。

ちょっと心配だけど
僕たちは信じて待つしかできないから。



そして翌日の昼ごろ、
宿の部屋で待機していると
ドアがノックされて誰かが入ってくる。
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 

サララ

戻りましたぁ!

トーヤ

サララ!
良かった、無事で。
心配してたんだよ。

ライカ

何事もなかったですか?

サララ

……はい、私は。
カレンちゃんはずっと
暗い顔をしてましたけど。

トーヤ

そっか……。

サララ

でも攻撃されたとか
酷いことを言われたとか
そういうことは
ありませんでしたので。

トーヤ

で、カレンは?

サララ

そうでしたっ!
みんな手伝ってください!
ティアナさんを
連れてきました。

サララ

カレンちゃんは
衰弱している
ティアナさんと一緒です。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
僕たちは急いで部屋を出た。
そして宿屋の前に横付けされた舟には
カレンと仰向けに寝かされた
若い女性の姿がある。


どうやらあの人がティアナさんらしい。

髪の毛はボサボサ、
顔や手足の露出した部分には
切り傷や内出血がたくさん見られる。

しかも肌は血やホコリなどで真っ黒だし、
この異様な臭いはきっと……。



なんて酷いことをするんだろう。
腹の底から怒りがこみあげてくる。
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

第142幕 無力な自分と目指す場所

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