藤松の手を握った時、震えているのが分かった。とっさに藤松は握られた腕を強く振りほどく、藤松は一歩下がって喋り出した。
藤松の手を握った時、震えているのが分かった。とっさに藤松は握られた腕を強く振りほどく、藤松は一歩下がって喋り出した。
たく、なれなれしいんだよ
俺はまだ、諦めたわけじゃ無いからな
はいはい、分かった分かった
たく、お前って奴は
拍子抜けした藤松は髪をかいた。
さて、藤松くん。聞きたいことがあるのだけど、良いかしら?
何だ?
あなたはどうして、野沢心を殺せば元の世界に帰れると思ったの?
それはな……
藤松は表情を曇らせた。凪佐と久賀も暗い顔をしている。
おい、どうしたんだ?
聞いたんだよ。帰れる方法を
それは誰から?
さぁ、名前は知らないが。あの人……嫌、違うな
あれは人、人間じゃなかった
どういう意味?
藤松は口を閉じ、黙り込んでしまった。
アンノンが喋ったのか?
アンノン? なんだそれは?
どうやら、藤松はアンノンと聞いて、ピンと来ていない様子だ。
見たこと無いか? 黒い形をした影みたいな
ああ、それなら見たよ。でも、そいつとは全然違う
見た目は普通の女の人……だった
女の人ね
六十部は手をあごに当てて、考える仕草をとった。まるで探偵みたい、じゃなくて本当に探偵だったけ。
六十部は質問を続ける。
どんな見た目か覚えてる?
そうだな、歳は俺達よりちょと上かな。黄色ぽい茶色で肩ぐらいあった
それと、身長は私と同じぐらいあったよ。服装はピンクの上着の下に白のシャツ、紺色のスカートをしていたよ。サラッチ
そう、ありがとう。参考になったわ
良く覚えていたね。久賀さん
まぁこれでも、サラッチの助手ですから
とても嬉しかったのか久賀は体をモジモジしている。六十部はそんな様子の秋斗をほって、藤松に質問を続けた。
それで、その女の人から、どんなことを聞いて、野沢心を殺そうと思ったの?
――うっ
この質問で場の雰囲気が一気に変わった。藤松は頭を抱えて話し出した。
色々言ってたけど、単純な事を聞かされただけさ
それは何
藤松は一呼吸おいて話した。
元の世界に帰る方法を教えてあげよう。シンプルに野沢心をこの街から消したら出るって言われてな
それしたら思ってしまった。野沢心を倒す……殺せば責任を果たせると思っていた
本気でそう思ったのか
そうだぜ、今さら嘘なんて付けるかよ
――そうだよな
俺は一瞬、藤松を殴りそうだった。けれど、藤松は野沢心の昔のことを知らない。もしも、俺が藤松の立場だったら、藤松と同じ決断をしたかもしれない。そう思うと自然と怒りは引いていた。
本当、不思議だった。アイツが言うこと一つ一つが真実のように聞こえて信じてしまう
そうだよね。僕もおかしいと思いながら、証拠も無いのに最後は信じていた
言葉巧みに騙された感じ
不思議だな
不思議……ね
本当に不思議だったのは消えた時だけどな
藤松は一瞬、不機嫌そうな表情を見せた。
俺が話せるのはこれぐらいだ
そう
他に話す事は無いのね
……無い
藤松は体育館の方へ歩き出した。その様子を見て六十部は呼び止めた。
何処に行くの?
謝りに行くんだよ。怖がらせたしな
そうだな、印象最悪だぜ
あ、僕も行くよ
そうか、じゃ、俺達が先に行って、話してくるよ。恐がれないようにな
そうか
鮫野木と凪佐は体育館に向かった。立ち止まった藤松に久賀が耳打ちをした。
目の前で消えた事、話さないの?
まだ話したくないだけだ
久賀にこっそり言うと藤松は歩き出した。
私達も行くわよ
サラッチ、良いの?
何のことかしら?
いや、その……まだ話してないことあるけど?
言いたくなければ、無理に言わなくて良いわ
サラッチが丸くなってる
そう?
六十部は一言、言い残して歩いて行った。
数日、会っていなかった間、六十部は変わっていた。その変化は久賀にしか分からない。一体、誰が六十部を変えたのだろう? その事を考えながら六十部の後を追いかけた。