藤松紅

鮫野木、そこをどいてくれないか?

鮫野木淳

無理なんだよな~

藤松紅

目と耳を塞げば良い。見て聞こうとするから罪悪感が出てくるんだ。俺に任せてれ。終わらせる

鮫野木淳

殺すのか?

藤松紅

…………


 藤松は鮫野木を無視して、野沢のもとへと歩き出した。

鮫野木淳

おいおい、待てよ


 鮫野木は腕を伸ばして、藤松の肩を掴んだ。

藤松紅

止めるなよ

鮫野木淳

たく、わっかんねぇよ。何があったんだ、何で野沢を狙ってるんだ!

藤松紅

離せよ

鮫野木淳

やだ


 藤松は肩を握った腕を掴み、突き放した。鮫野木はのけぞり倒れそうになる。

鮫野木淳

藤松……

藤松紅

悪いな、後でいくらでも言えば良い。ただ、今だけは邪魔をしないでくれ


 そう言うと藤松は野沢を睨み付けて、歩き出した。

鮫野木淳

くそ、このままじゃ、野沢が……約束を守れなく。でも、どうやって藤松を止めれば

六十部紗良

本当、情けないわね

鮫野木淳

六十部!


 ゆっくりと歩きながら、こちらに近づいてきている。六十部はどこか暗い雰囲気だった。

久賀秋斗

サラッチ、サラッチだ! オーイ

六十部紗良

あら、秋斗さんじゃない。良かった生きてたのね


 ギャルぽい女の子と六十部はどうやら知り合いみたいだ。もしかして、六十部が探している友達ってあの子の事か。

藤松紅

あんたは誰だ? 久賀を知っているようだけど

六十部紗良

私は六十部紗良、そしてアレの友達よ

久賀秋斗

アレって、でも、友達認定されてる

凪佐新吾

嬉しそうにしてる


 秋斗は六十部に向って手を振り続けている。六十部は見向きもせず、藤松に話しかけた。

六十部紗良

確か、あなたが藤松くんかしら?

藤松紅

俺が藤松だが、どうして俺の名前を知っているんだ

六十部紗良

そんなの二人からあなたの特徴を聞いていたからよ

藤松紅

はあ

六十部紗良

そんなことより、日泉さん。立てる?

日泉桜

はい、立てます


 六十部は手を貸して、ひざまずいていた日泉を立たせた。

六十部紗良

雪音さん。あなたも立てて?

小斗雪音

うん、ちょっとだけ、ビックリしただけだよ


 小斗はヒョイッと立ち上がった。

六十部紗良

それなら、野沢さんを頼んだわ

小斗雪音

うん、任せて


 小斗は怯えている野沢を抱きかかえる。それを見た六十部は体育館を人差し指で指して指示を出した。

六十部紗良

そのまま、野沢さんと日泉さんを連れて、体育館に逃げて

小斗雪音

うん、あそこの体育館だね


野沢を抱きかかえながら、日泉と一緒に体育館に向って歩き出した。

藤松紅

六十部って言ったか、あんたも俺を邪魔するんだな

六十部紗良

お互い様でしょう

藤松紅

そうかい


 緊張した空気の中、鮫野木は六十部に話しかけた。

鮫野木淳

なぁ、六十部。どうして助けに来たんだ?

六十部紗良

別に助けに来たんじゃ無いわ

六十部紗良

私は私の目的を果たすために、余計なことをされたくないだけ

鮫野木淳

六十部?


 俺には六十部の考えていることが、分からなくなっている。六十部はいつから、嘘を付いていて何処までが本当のことなのか分からない。

久賀秋斗

サラッチ、もしかして見つけたの?

六十部紗良

秋斗、余計なことを言わないで

久賀秋斗

あ、ごめん


 秋斗は慌てて、口を押さえる。
 言われて都合の悪い事が六十部にある。ますます、六十部が分からなくなった。

鮫野木淳

なあ、六十部。お前の目的は何だ?

六十部紗良

あなたに教えることは無いわ、ただ、野沢心に今は死んでもらうわけにはいかないだけ

鮫野木淳

今は? どういう意味だよ?

六十部紗良

後に必要になるかもしれないから

六十部紗良

だから、藤松くん。今はひいてくれないかしら

藤松紅

そんなこと出来るわけ無いだろ

六十部紗良

ひいてくれる

久賀秋斗

フッジー、ここはサラッチの言うことを聞いて、サラッチは間違ってないからさ

藤松紅

何だよ……


 藤松の手から金属バットが離れた。金属バットが落ちて鈍い音が響いた。

藤松紅

俺はただ、責任を果たしたいだけなんだよ

鮫野木淳

責任?

藤松紅

鮫野木と凪佐を廃墟に誘ったのは俺だ。俺が行こうなんて言わなければこんな事にならなかっただ

藤松紅

だから、俺が野沢心を倒さないと駄目だろう

鮫野木淳

お前……

凪佐新吾

藤松くん


 思い込んだ言葉は(責任なんて無い)だった。けれどこの言葉は駄目だ。それを言うと藤松を傷つけるだけだ。何て言えば良い? どういう言葉を選べば良いんだ。

鮫野木淳

……お前に女の子を殺すなんて、出来るはずが無いだろうが

鮫野木淳

俺にも責任がある。だから……

藤松紅

鮫野木

鮫野木淳

一緒に元の世界に帰る方法を考えようぜ


 自然に出た言葉が藤松を傷つけてないだろうか? それだかが不安だった。鮫野木は手を伸ばして、藤松の手を強く握った。

エピソード25 目的と理想(2)

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