――野沢心は助けられない。
――十年分、歳をとった日泉桜の写真。
――六十部紗良は私立探偵。
 訳の分からない真実を告白された時、俺はどんな顔をしたら良いんだろうか? もう笑うことしか出来なかった。

鮫野木淳

し、私立探偵! 高校生で? アハハ、漫画みたいな設定だな

六十部紗良

そう、私は余り漫画を見ないからそういうの分からないわ

鮫野木淳

アハハ、そうですか

六十部紗良

鮫野木くんには私が嘘つきに見えも仕方が無いわね

鮫野木淳

…………


 俺は動揺している。写真を見たせいもあるが、信頼していた六十部がいくつかの嘘を付いていた。その事がショックだった。

鮫野木淳

六十部、俺はお前を何処まで信じれば良い?

六十部紗良

無理に全部、信じなくても良い。けれど、これ以上あなたの手伝いは出来なことは確かよ

鮫野木淳

それを信じたくないんだが

六十部紗良

……ごめんなさい


 冗談では無い。六十部が冗談を言う時は嬉しそうにしているはずだ。もし、これが冗談ならば俺は怒るぞ。

鮫野木淳

マジなんだな、全部

六十部紗良

ええ、ここであなたと話したことに嘘は無いわ

鮫野木淳

野沢は本当に助からないのか?

六十部紗良

ええ……

鮫野木淳

どうしてだ。何で助からないんだ!

六十部紗良

い、痛いわ、鮫野木くん


 俺は知らないうちに六十部の胸ぐらを掴んでいた。そのせいで制服が乱れてしまった。

鮫野木淳

――っ、ご、ごめん

鮫野木淳

最低だ。俺

六十部紗良

良いの、あなたが怒る事は分かっていた

六十部紗良

だから、あなただけに本当のことを話したのよ

鮫野木淳

それって?


 六十部は落ち着いた様子で曲がった制服を着直した。

鮫野木淳

俺はどうしたら良い?

六十部紗良

……

鮫野木淳

俺はアイツを助けるって、約束したんだ!

六十部紗良

簡単な事よ――


 六十部の喋る途中で遠くから聞き覚えがある悲鳴が聞こえた。

六十部紗良

中庭からね

鮫野木淳

クソ


 鮫野木は急いで中庭に戻った。六十部は一人、小さくなる背中を見つめていた。

六十部紗良

ハァ、仕方ないわね


 中庭に駆けつけてきた鮫野木の目に衝撃的な光景が入ってきた。日泉は膝から崩れ落ちて怯えている。小斗は野沢の前に立ち、両手を広げかばっている。小斗に立ちふさがる男は金属バットを持ち怖い顔をしている。二人は睨み合って一歩も動けずにいた。

小斗雪音

……

藤松紅

……

鮫野木淳

……藤松

 金属バットを持ってた男は鮫野木が良く知っている藤松紅だった。良く見ると、藤松の奥に凪佐ともう一人、ギャルぽい女の子が居る。

藤松紅

鮫野木か

鮫野木淳

お前、何やってるんだ?

藤松紅

そんなの、見れば分かるだろう。終わらせるんだ

藤松紅

お前からも言ってくれ、野沢心をかばうのを止めるように

鮫野木淳

ハァ?


 感動の再会とはほど遠い、最悪な再会だった。鮫野木は小斗に近づいて様子を疑った。

鮫野木淳

ユキちゃん何があった?

小斗雪音

うん、それがね。私にも良く分からない、心ちゃんを探していたから教えたのそしたら……

鮫野木淳

そうか、もう大丈夫だ。悪かったな

小斗雪音

うん


 肩の力が急に抜けて、小斗はその場に座り込む。

野沢心

あの、鮫野木さん――


 小声で不安げに話しかけてきた野沢に鮫野木は笑顔で答える。

鮫野木淳

何も問題は無い。ただ、勘違いしているだけだ


 鮫野木はニヤニヤと藤松に一歩近づき、普段通りに話しかけた。

鮫野木淳

よう。久し振りだな。藤松、凪佐。どうしたんだ? そんな怖い顔をして、落ち着けよ。女子達が怖がってるぜ

藤松紅

相変わらずだな、鮫野木はそういうところが好きなんだがな

鮫野木淳

嬉が、出来れば可愛くて元気な女の子に言われたいぜ

藤松紅

お前の好みを聞いたじゃ無い

鮫野木淳

そうか、ならその重そうな物を離そうか

藤松紅

それは無理な相談だ


 藤松は金属バットを強く握りしめる。

藤松紅

二人は知らないだろうが、その野沢心を倒せば……全部終わるんだよ。元の世界に帰れるんだよ

藤松紅

鮫野木、お前だって分かっているんだろ? この世界が普通じゃ無いって

鮫野木淳

ああ、身を待って知った。俺だってさっさと帰りたい、見たい生放送とか新しい動画がうpされているだろし、魔リカの最終回も見たいしな

藤松紅

なら、分かるだろう?

鮫野木淳

分からないな

鮫野木淳

俺はやらなきゃ行けないことがあるからな

藤松紅

そう……か

 完全に意見が食い違っている。原因は恐らく野沢心だ。藤松は野沢を倒したら帰れると言っているが倒すって、そのバットでどうするつもりなんだ。

エピソード24 目的と理想(1)

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