貸し舟屋さんは港の片隅にあった。
運河に面した場所に広場くらいの広さの
池のようなものがあって、
そこに大小様々な舟が停泊している。
その横に小綺麗なオフィスがあって
そこで手続きをするらしい。
カレンはカウンターで
係員さんに声をかける。
貸し舟屋さんは港の片隅にあった。
運河に面した場所に広場くらいの広さの
池のようなものがあって、
そこに大小様々な舟が停泊している。
その横に小綺麗なオフィスがあって
そこで手続きをするらしい。
カレンはカウンターで
係員さんに声をかける。
すみません、
6人乗りの舟を
借りたいんですけど。
……失礼ですが、
身分証明書を
ご呈示いただけますか?
えっ?
身分が不明な方には
お貸し出来ないことに
なっております。
そんなっ!
以前は誰でも
借りられたのに!
状況が変わったのです。
これは貴族院のお達しです。
貴族院……。
っ?
『貴族院』という言葉を聞いた途端、
カレンの顔色が変わった。
きっと何かあるんだろうな……。
疑問に思っていると、
カレンは僕たちの方を向いて苦笑する。
この町では
貴族院の決定が絶対なの。
王都では女王様が
全てを決定しているけどね。
貴族院というのは
市民の代表ということ
でしょうか?
民主的なんですね。
……だといいんですけど。
違うんですかぁ?
貴族院は特民や上民などの
特定の魔族たちだけで
構成されているの。
全然民主的じゃないわよ。
身分制度を撤廃し、
国民のことを考えて
政治を行ってくれている
女王様の方がマシよ。
では、副都では
身分による差別が
まだまだ強いのですね?
はい。
アンカーと同じですね……。
身分など下らん。
――その時だった。
会話をしていた僕たちの周りを
警備員さんたちが槍を構えて囲む。
カウンターの奥にいた係員さんも
いつの間にか短剣を構えて
僕たちを睨んでいる。
これはどういうことなのっ?
貴様らの身柄を拘束する。
大人しくすればよし。
歯向かうなら容赦しないぞ!
ちょっ、
ちょっと待ってください!
僕たちが
何をしたというんです?
貴族院を侮辱する
発言をしただろう。
それは下級反逆罪となる。
えぇっ?
私、副都出身ですけど
そんな犯罪、
聞いたことありません!
最近、成立したのだ。
貴族院の決定でな。
くっ……。
カレンでも把握していないことが
副都ではたくさん起きているらしい。
やっぱりこの町には何かありそうだ。
するとすぐ隣にいたロンメルが
周りに聞こえないような声で僕に囁く。
どうする、トーヤ?
この程度のヤツらなら
俺が蹴散らしてやるが?
ダメだよ……。
もう少し様子を見よう。
……まぁ、俺は構わんが。
どうしようもない状態になったら、
ロンメルの力を借りてこのピンチを
切り抜けないといけないかもしれない。
だけどその場合は僕たちが
お尋ね者になっちゃうから
穏便に解決したい。
実力行使は最後の手段だ……。
――皆様、
よろしいでしょうか?
ッ!?
…………。
その時、建物の奥から
綺麗な身なりをした男性がやってくる。
落ち着いた様子で物腰も穏やか。
見た感じはいい人に見えるんだけど、
カレンは彼を見て表情が強張っている。
これはこれはラグナ様。
いかがなさいました?
皆様が誤解なさっている
ようなので、
ご説明に参りました。
誤解とは?
こちらの方は我が主である
グラン侯爵のご息女、
カレン様で
あらせられます。
…………。
カレン……。
なんとっ!
グラン侯爵のご息女!
ご承知のように
グラン侯爵は貴族院議長。
先ほどのカレン様の
お言葉はお父上に対しての
愚痴も同然。
貴族院を侮辱する意図は
ないでしょう。
よって下級反逆罪にも
あたりません。
ごもっとも。
カレン様のご身分を
存じ上げなかったゆえ
失礼をしてしまいました。
お許しください。
はい、承知しています。
私としても
事を荒立てる気は
ありませんので。
にっこりと微笑むラグナさん。
直後に警備員さんたちは
僕たちの周りから去っていった。
係員さんも短剣を収め、
今度は怯えたような瞳でカレンを見て
ガタガタと震えている。
カレンのお父さん、貴族院の議長なんだ。
議長って一番偉いんだよね、きっと。
次回へ続く!