極悪の怪物が吠える。
ギャオオオオオオオオオオオ!!
極悪の怪物が吠える。
周囲の景色が歪み、平衡感覚が狂わされる。
それでも、俺は気にすることなく前へ進んだ。
もう終わりにしよう
当然だが、邪龍からの返答はない。いや、直後には一際大きく吠えると、ギラギラと輝く鋭い鉤爪を、小さな俺の体めがけて振り下ろしてくる。
何してんのよ馬鹿! 早く逃げなさい!!
一瞬手前で繰り出された彼女のソードスキルが、その攻撃を受け止めた。
だけど、長くはもたないだろう。拳一つ分の距離で、光の盾は音を立て段々と崩れていく。
その、盾に。
そっと手を伸ばした。
必要ないさ
そして、砕く。
ここに来て、俺の全く役に立たなかったスキル、『限定装備』が発動した。
彼女のソードスキルは穂刈の粒となり、キラキラと舞った。そのおかげで、プレイヤーの命を刈り取る獰猛な一振りでさえ、神々しく見えてしまう。
駄目! 待っ……
ほら、やるよ
そして、差し出す。
周囲のビル群よりも巨大なその怪物に、俺の手でつかめてしまう様な、そんな、小さな箱を。
特別クエストの道中、何故か大量にドロップした甘味の数々。
3月14日限定というこのクエストの意味。
そして、『現実世界のイベントにあやかりたい』という、幼稚な神の言葉。
邪龍の動きが止まる。だけではない。その姿がぶれたと思えば、やがて消滅し、そこには違う人物が立っていた。
このイベントクエストを作った張本人。
彼女は、偉そうに笑って、だけど楽しそうに言った。
ああ。クエストクリアおめでとう。里宮一真くん
大体途中で気付くだろうが。『WDイベント』だぞ? ホワイトデーのイベントに決まってるだろ。お前は馬鹿か
うっさい。馬鹿はあんたよ。せっかく人が心配してソードスキル使って時間稼いだっていうのに。それを、あろうことか自分で壊すなんて!? 信じらんないわ! って言うか何? 結局何であんたはクリア扱いになったのよ?
だから、ホワイトデーいべんとだろ。だったらこいつにチョコでも渡せばクリアだろうが
そんなの気付かないわよ。大体、3月14日限定なんて言うけど、今7月だからね。一体いつの話をしてるのよ!
お前こそいつの話をしてんだよ! ってかもうクリアしたんだからよくない? せっかくのパーティー何だから楽しもうぜ
そうだよ黒前くん。あ、それは仮の名前だったっけ(笑)もう終わったことはいいんだよ。今を楽しもう
ほうへふふぁああ。もぐもぐふぉひふば、ふぁふぁふぁもいっとひらふぇふぁいんれふか?
あんたは食べるか喋るかどっちかにして!
どんちゃん騒ぎだった。
カティアにチョコを渡したあの瞬間に、辺りの景色は元に戻り、頭に付けていた機械も外れた。
でもその途端にカティアの姿も消えてしまい、もう一度はめなおすと、今度はここに意識が飛んだ。
どうやら、勝手にゲームにログインしたみたいだった。もちろん、全てカティアの仕業だ。
クエストクリアのお祝いに、パーッと騒ごうという集まりだった。
じゃあ、そろそろ俺帰るわ。明日は大学の教授に手伝い頼まれてるんだ。明後日は世話になった人の誕生日だし。色々準備があるからな
ちょ、ちょっと待ちなさいよ! 渡すものがあるから
何だ? 早くしてくれ。こっちは疲れてんだから
ほら、これ。クエストのクリア報酬。何故かこんなものが用意されてたんだけど、私、コーヒー苦手だから
そうやって渡されたのは、紫色のマグカップが一つと、インスタントコーヒーの粉が入った袋が少々。
割とコーヒーは好きな方なので、素直に受け取り現実世界に反映するためのアイテムリストに転送した。
お前にしては気が利くじゃないか。人段落した時にでも飲ませてもらうよ
ほなうちもうちも。これ。ぎょーさん甘いもん食べさせてもろたお礼や。今度ゲームする時があったら、もしかしたら役に立つかもやから
今度そう言って俺の手を握り、握手をされた。
すると自動的に、『たいせつなもの』欄にアイテムが追加された。
後で確認しておくとしよう。
悪いな。今回お前には助けてもらったし、役立たずの称号は一旦取り下げておくよ
そう言って俺は、彼女の手を柔らかに握り返す。
じゃあルーキーくん。今日はありがとう。また今度、盛大に遊ぼうじゃないか
ああ
応えて、ログアウトボタンを押す。
ゆっくりと意識が闇に溶けていく。
この時の俺は、この約束がまさかあんな形で実現されるなんて、思ってもいなかった。
書き始めてからすっごい経ってしまって、時期のずれが半端ないですけど、一応バレンタイン&ホワイトデー特別イベント終了しました。
時系列的には、『空と大地のラグナロク』編と、コミコでの新章との間の物語になってます。
しばらくはストリエでの更新の予定はない感じです。本編はコミコで進んでますので、リクエストが会った時だけ書こうかなって思ってます。
ストリエならではの、私のイラスト使って物語作って、や、こんな設定のストーリー読みたい、などの容貌が会った時だけ、ストリエでオリジナル更新を考えてます。
何かあれば、コメントやツイッターで連絡ください。
では、次の更新があるか分かりませんが、気まぐれもあるかもなのでその時までお別れを。
不定期更新でも読み続けてくれて、中には応援してくれる人たちもいて、本当に嬉しかったです。
ありがとうございました(*- -)(*_ _)ペコリ
~次回~
な、何でお前がその聖剣を抜くことが出来る!? それは、世界を滅ぼしかねない封印された聖剣だぞ!?
何故って。そりゃあ、俺が天才だからじゃん?
嘘です(笑)
この挿絵お気に入りしててずっと使ってなくて、1回でいいから使いたかっただけ( ´∀` )
シン・アスカセラさん、今までありがとうございました!
思えば、この作品が始まった時から、一真君のために色々とコメントし続けてくれてましたね。優利さんとシン・アスカセラさんたちの力でこの作品が出来上がったと言っても、過言ではありません(∩゚□゚)ハィッ!↑
またいつか会える日がありますようにと祈りながら、一旦失礼します(*・ω・)
……あれ? 提案してくれた『魅了クリーム』、comicoの本編で使う予定だったけど、それじゃシン・アスカセラさんが見れないから、その辺のエピソードをストリエで上げた方がいいのかな?(ーωー).oO