僕の不安とは裏腹に
その後のウィル船長は僕たちに対して
何もしてこなかった。

船員さんたちに不穏な動きもなし。


油断はできないけど、
少しは緊張の糸を緩めてもいいのかも。
 
 

トーヤ

ふぁあああぁ……。

 
 
ノースポートを出航してから
数日がたったある日の深夜。
ふと目が覚めた僕は
船室を出て甲板へ向かった。
 
 

海は真っ暗でよく見えないけど
揺れが少ないから穏やかなんだろうな。
潮風も適度な涼しさで心地いい。

北方の海だから
もっと寒いのかと思っていたけど、
クロードの話ではこの辺を流れる
暖流の影響で暖かいんだって。
 
 

トーヤ

あっ……♪

船員

…………。

 
 
マストの上には見張りの船員さんがいて
僕が会釈をすると小さく手を振ってくる。

もしかしたら性格に問題があるのは
ウィル船長だけで、
船員さんたちは基本的にいい人なのかも。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
そのあとトイレを済ませてから
僕は船室へ戻ろうとする。
でもその時、船倉の奥に佇む
カレンの姿を見つけた。


こちらに背を向けているけど
あの姿はカレンに間違いない。

――こんな時間にどうしたんだろう?


心配になった僕は
歩み寄ってみることにする。
 
 

カレン

……は……の……
順調……あと……で……
副都へ……す……。

トーヤ

誰かと話をしているのかな?

 
 
カレンはヒソヒソと何かを話していた。
この位置からだと
会話の内容がハッキリとは聞こえない。

っていうか、そもそもこんな場所に
誰がいるんだろう?
 
 
 

 
 
 

カレン

――っ!?

カレン

やぁああああぁっ!

トーヤ

っ!?

 
 
僕がカレンまであと数歩というところまで
近寄った時だった。

突然、カレンはこちらに振り向き、
拳で攻撃を仕掛けてくる。


動きが速すぎて全然見えないっ!
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 

トーヤ

がはっ!

カレン

…………。

 
 

 
 

トーヤ

カ……レン……
なん……で……。

 
 
お腹に重い衝撃を感じ、
その勢いのまま壁まで弾き飛ばされた。
背中にも焼けるような激痛が走る。

ダメージが大きすぎて声が出せない。
身動きも取れない。



そんな僕にゆっくりと歩み寄るカレン。

薄れゆく意識と霞んでいく景色の中で、
冷たく僕を見下ろすカレンの顔だけが
印象に強く刻まれた……。


なんだろう、あの冷たい感じ。
いつものカレンじゃないみたいだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

トーヤ

ん……あ……。

エルム

あぁっ、兄ちゃん!

トーヤ

エルム……?

 
 
気が付くと、
僕は船室のベッドに寝かされていた。
窓の外が明るいということは
かなりの時間が経ったんだろうな。

エルムが涙を浮かべながらも
ホッとした表情で僕を見つめている。
 
 

ライカ

トーヤさん!
良かった。
意識が戻ったのですね。

トーヤ

ライカさん……。

エルム

見張りの船員さんが
見回りの時に
兄ちゃんが倒れているのを
見つけてくれたんです。

カレン

トーヤ!
心配ばかりかけないでよ。

トーヤ

カ、カレンっ!?

カレン

どうしたの?
そんなにビックリして?

トーヤ

え……?

ライカ

カレンさんはずっと
トーヤさんの看病を
していたんですよ?

トーヤ

……そうなんだ。

 
 
わけが分からなかった。
だって僕を攻撃してきたのはカレンが
看病してくれていたなんて。


でも今のカレンはあの時みたいに
冷たい感じはしない。
いつもの泣き虫で強がりな、
でも優しくて可愛いカレンだ。



これはどういうことなんだろう?

状況は分からないけど、
真相がハッキリするまでは
何も言わない方がいいかもな……。
 
 

カレン

誰に攻撃されたの?

トーヤ

あ……ゴメン……。
覚えてないんだ。

ライカ

それなら仕方ないですね。
警戒を
強めておきましょう。

トーヤ

そうですね。

 
 
幸い、僕の怪我自体は大したことなかった。
骨には異常がなかったし、
打撲もライカさんの回復薬で完全に治った。




…………。

でもなんだろう、嫌な予感がする。
気のせいだとは思うけど、
何か大きな災いの前触れのような……。


カレン……どうしちゃったんだろう……。

なぜ僕を攻撃してきたのか?
その一方で僕の怪我を
本気で心配してくれるなんて。
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

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