学校から帰って、郵便受けポストをふっと見るとガラス越しに手紙があることが分かった。野沢はポストにある手紙を確認した。

野沢心

お父さんだ

 ポストに入ってたのはドイツで古い本を調べてる父からだった。父はある考古学研究の助手をしている。研究が忙しいらしく二年間、家にはまともに帰ってきてない。けど、時々こうやってエアメールが送ってくる。

 携帯電話が普及しているから、電話すれば良いのにお母さんの事、心配じゃないのかな。

野沢心

何だろう

 僕はお父さんが送ってきた手紙の内容が気になって、ポストから手紙を取り出した。

野沢心

何だか分厚いな?


 普段、送ってくる手紙は一枚の便箋に長々とドイツでの生活や研究の進み具合を書いた物が三回に折られている。しかし今回の手紙は妙に分厚かった。

野沢心

まぁ、いっか。お母さんより先に見ちゃお

 野沢は手に取った手紙をカバンに隠して家に入った。

お帰り。心、今日確か体育があったよね?

野沢心

うん、あったけど

なら体操服、洗濯機に入れておいてね

野沢心

もう、分かってるよ!


 野沢は体操服を丸めて洗濯機に放り投げる。丸まった体操服は綺麗な放物線を描いた。

野沢心

ふっふうん


 洗濯機に上手いこと体操服が入った。野沢は自慢げに二階にある自分の部屋に向かった。

ハァ、誰に似たのかしら


 部屋に入ると早速、ハサミを取り出し手紙を開封した。

野沢心

やっぱり、いっぱい入ってる

 手紙の中にどうやって詰めたか分からないが便箋がギッシリと詰まっていいた。

野沢心

こんなに入れるなら、封筒にすれば良いのに


便箋を取り出すのに少し時間が掛かった。取り出すと紙が五枚、雑に折りたたんでいた一枚の紙を広げる。

野沢心

なに……これ

 一枚目の紙に殴り書きに日本語である文字が書かれていた。

誰か助けて助けて助けて助けて
助けて助けて誰でも良い助けて
助けて助けて私を助けて助けて
助けて助けて助けて助けて
助けて助けて殺される助けて助けて
助けて助けて助けて助けて
助けて助けて助けて助けて
助けて助けて助けて助けて
助けて助けて助けて襲ってくる助けて
助けて助けて助けて助けて
助けて助けて誰か助けて
助けて助けて助け影がて助けて
助けて助けて助けて助けて
助けて助けて助けて助けて
助けて助けて助けて助けて
助けて助けて助けて助けて
助けて助けて助何でけて助けて
助けて助けて助けて助けて化け物が
襲ってくる助けて助けて助けて助けて
助けて助けて助けて助けて

野沢心

ひぃ

 僕は恐ろしくて背筋が冷えるのを感じた。怖くなって、その紙をクシャクシャにしてごみ箱に向かって放り投げた。紙くずになった恐ろしいものはゴミ箱に届かずゴミ箱の近くまで転がって止まる。

野沢心

ハァハァ

野沢心

どうして、こんなこんな

 なぜ、父がこんな手紙を送ってきたのか、父に何か良くないことがあったのだろうか。いろんな事が頭に過る。考えても考えても意味が分からなかった。

――ゴチャゴチャなった私に二枚目の紙が目に映る。

エピソード19 父の手紙(1)

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