船長室に入ると、正面の机の上で
海図を確認している人がいた。
おそらくこの人がウィル船長なんだと思う。
部屋の中はハーブのような香りがしていて
胸の中がスーッとする。
吸入タイプの酔い止めか何かが
置いてあるのかな?
彼は僕たちを上から下へ眺めること一往復。
そして『ふーん』と小さく声を漏らす
船長室に入ると、正面の机の上で
海図を確認している人がいた。
おそらくこの人がウィル船長なんだと思う。
部屋の中はハーブのような香りがしていて
胸の中がスーッとする。
吸入タイプの酔い止めか何かが
置いてあるのかな?
彼は僕たちを上から下へ眺めること一往復。
そして『ふーん』と小さく声を漏らす
僕はトーヤと申します。
副都まで
乗せていただくことに
なりました。
よろしく
お願いいたします。
話は聞いている。
俺が船長のウィルだ。
で、運賃は?
はい、持ってきました。
お受け取りください。
僕は全員分の運賃が入った布袋を
ウィル船長へ手渡した。
するとウィル船長はそれを懐に仕舞うと
僕を無理矢理に押しのけて
カレンに近付いていく。
なかなかの上玉だな。
お前、名前は?
カ、カレンです……。
顔も名前も
可愛いじゃねーか。
どストライクにタイプ♪
ウィル船長はニタニタ笑いながら
カレンを舐めるように眺めた。
さらにカレンの髪に手を伸ばして
触れようとする。
もちろん彼女は咄嗟に後ろに飛び退いて
それを回避。
――カレン、すごく嫌がっている。
やめて!
私に近付かないで!
んじゃ、船から降りろ。
この船で
一番偉いのは俺だ。
逆らうことは許さん。
ぐ……。
その言葉に怯むカレン。
今の僕たちにとっては
最大の脅しと言えるかもしれない。
でもクロードは眉を吊り上げ、
即座に反論する。
契約違反は
ギルドに報告しますよ?
どうせあなたたちは
荷物運搬を委託されている
下請けでしょう?
契約を切られたら
困るのではないですか?
う……。
ウィル船長は言葉に詰まり、
焦りの色を浮かべた。
つまりクロードの話した内容は
彼にとってよほど都合の悪いことらしい。
でもそれはなぜなんだろう?
話の内容もよく分からないし……。
クロード、
どういうこと?
頻繁に副都へ
荷物を運ぶには
荷主関係者の船だけでは
足りませんよね?
それでほかの船主に
運ぶのを
委託しているのです。
そっか、
ウィル船長やこの船は
雇われなのかぁ。
そうです。
不祥事を起こせば
契約解除になるのは
確実ですよ。
海運業者としての
ギルドの登録だって
取り消しになりますし。
さすがクロード。
商売についての事情をよく知っている。
一緒に船長室へ来てくれて助かった。
僕とカレンだけだったら
どうにもならないところだった。
チッ、つまらねー。
ちょっと体に触るくらい
いいじゃねーか。
減るもんでもないし。
……でもよ、
お前らが死んじまったら、
報告できねーよな?
っ!
クロードとカレンは
ウィル船長から距離を取り、
腰に差している武器に手をかけた。
でもその直後、
ふたりは苦悶の表情を浮かべたまま
動かなくなってしまう。
額には脂汗が浮かび、
全身が小刻みに震えている。
こ、これ……は……!?
う……く……。
はっはっは!
この部屋には麻痺薬を
漂わせてある。
ようやく効いてきたか。
っ!?
お前たちがどんなヤツか
分からんからな。
用心のために
仕掛けておいたんだよ。
くっ……。
俺はアイテムで
麻痺を防いでいる。
無防備にこの部屋に
入った時点で俺の勝ちだ。
残念だったな。
部屋に漂っているスーッとする匂いは
そういうことだったのかっ!
でも幸か不幸か、
僕には状態異常が効かない。
だからこそ危険に気付けなかった。
感覚がないというのも
いいことばかりじゃないんだなぁ……。
卑怯な……。
なんとでも言え。
でもカレンだけは
助けてやる。
俺のものになるならな。
誰がなるもんですか!
それに部屋の外にいる
みんなが
すぐに駆けつけてくる!
残念ながら
ドアはロック済み。
しかもそう簡単に
破れない構造だ。
ここへ辿り着く頃には
お前は俺のものに
なっているだろうよ。
フフフフフ。
ウィル船長はカレンの綺麗な頬に向かって
その汚い手を伸ばした。
怯えに満ちた目を強く瞑り、
それに耐えようとしているカレン。
――もう我慢できないっ!!!!!
やめろぉおぉっ!
僕はウィル船長を呪い殺す勢いで睨んだ。
怒りが胸の中で激しく燃え上がって
抑えきれない!
――ふたりが動けないなら、
なんとしてでも僕が
カレンを守ってみせるッ!
隠れて特訓していた『アレ』を
今こそ見せてやるっ!!!
次回へ続く!
ご覧いただきありがとうございますっ! ウィル船長も魔族ですのでっ、邪な欲望があふれているのですっ♪ トーヤくんたちのように、純粋な魔族の方が珍しいんですよ~。