従者となったロンメルが遺跡探索に加わり、
エルムは僕の使い魔となった。

でも基本的にふたりに対して
酷い扱いをするつもりはない。
だって僕たちは
一緒に探索をする仲間なんだから。
 
 

トーヤ

じゃ、シロタイヨウゴケと
遺跡の出口を探そう。

エルム

はいっ!

トーヤ

ロンメルは遺跡に詳しい?
ここに入って
どれくらい経つの?

ロンメル

数百年くらいだな。

トーヤ

そんなにっ!?

ロンメル

魔界で過ごしていても
つまらんだろう?
だが、
ここは飽きなくてよい。
それで脱出する気が
起きなかった。

トーヤ

そっか、いつも出る場所が
変わるんだもんね。
それに死なないわけだし。

 
 
ヴァンパイアは不死。
外的な要因がない限りは永遠に存在できる。

だからこの世にいるのに飽きると、
自ら太陽の下へ出るなどして
死後の世界へ還るヴァンパイアも
結構いるらしい。



僕たちから見れば死なないということは
すごく魅力的なことに思える。
でも死なない本人にとっては
それが苦悩になることもあるんだ。

命の長さが決まっているからこそ、
強く輝こうとすることが出来る。


だから寿命が100年に満たない
人間という種族は
僕たち魔族よりも強い。
アレスくんを見ているとよく分かる。

アレスくんたちから見れば、
寿命の長い僕たち魔族が
羨ましく見えるかもしれないけど。


隣の芝生は青い――ということだね……。
 
 

ロンメル

モンスターも適度にいて、
血を吸う相手には
困らんしな。
腹を満たすだけなら
不都合がない。

ロンメル

ま、あんなマズイ血など
もはや吸う気はないがな。
なぜなら今や主の
美味なる血が
啜れるのだからな。

トーヤ

あ……あはは……。

ロンメル

だが、この遺跡に
出口などあるのか?
もしあるのなら、
俺が一度くらいは
辿り着いていても
良さそうなのだが。

エルム

方向音痴なだけなんじゃ
ないんですか?

ロンメル

生意気だぞ、エルム。

エルム

僕は兄ちゃんの
使い魔であって
あなたと馴れ合う気なんて
ありませんから。

ロンメル

……殺されたいか、ガキ?

トーヤ

ダメだよ、ロンメル!

ロンメル

分かっている。
冗談に決まってるだろう。

トーヤ

エルムもロンメルと
仲良くして。

エルム

……はい。

 
 
それからどれくらいの時間が
経ったのだろうか。
数十分……いや、数時間か……。

僕たちは遺跡の探索を続け、
様々なフロアを進んでいった。


ロンメルがいてくれるおかげで
モンスターやトラップがあっても
問題なく突破できている。
もし僕とエルムだけだったら危なかった。

ロンメルとの出会いは神様のお導きかも。
 
 

トーヤ

メモしてきた情報によると
この辺りの環境なら
シロタイヨウゴケが
生えていそうだけど……。

ロンメル

主は植物に詳しいのか?

エルム

兄ちゃんは
薬草師なんです。

ロンメル

ほほぉ、そうなのか。

トーヤ

あっ!

 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 

 
 
 
僕は通路にある岩の影に
白いコケのようなものの群生を見つけた。

光を当てるとキラキラと輝いて、
まるで雪が積もっているみたいに見える。


僕はそこへ駆け寄って、手に取ってみた。
綿のような感触とほんのりとした湿気。
擦ると微かに漂う青っぽい匂い。

どれもリムさんに教えてもらった通り。
見せてもらったイラストにもそっくりだ。
 
 

トーヤ

間違いない!
シロタイヨウゴケだ!
これでニーレさんを
助けられる!

エルム

ありがとう、兄ちゃん!

トーヤ

お礼を言うのは
まだ早いよ。
ここを脱出しないと。

エルム

あ……はい……。

トーヤ

そうだ、
エルムもこれを食べて。
タイヨウゴケの成分が
欠乏気味なんだから。
これを食べれば
症状が改善する。

トーヤ

ロンメル、
火の魔法って使える?

ロンメル

初歩的なものならな。

トーヤ

火の魔法でこれを炙って
エルムに
食べさせてあげて。

ロンメル

承知した。

トーヤ

その間に僕は
シロタイヨウゴケを
採取するよ。

 
 
僕はシロタイヨウゴケの群生の中から
白さの際立つものを選んで採取していった。


どれだけ必要になるか分からないし、
ニーレさん以外の患者さんが
出るかもしれないということも考えて
持てるだけ袋へ入れていく。

そして採取が終わったあと、
僕はその袋と狭間の羽をエルムに手渡した。
 
 

トーヤ

エルムは先に戻って。
ニーレさんに一刻も早く
シロタイヨウゴケを
届けないといけないから。

エルム

兄ちゃんは
どうするんですかっ?

トーヤ

僕はロンメルと一緒に
出口を探す。

エルム

ダメです、そんなのっ!
戻れるか
分からないんですよっ?

トーヤ

だけど……。

 
 
急がないとニーレさんの命が危ない。
彼女を救うにはそれしか方法がないんだ。


それに意識が戻った時に
エルムがいなかったら心配させちゃうもん。
僕ならロンメルがいるからきっと大丈夫。

何百年かかっても出口に辿り着いてみせる。
 
 

ロンメル

主はこの遺跡を脱出する
方法を知っているのか?

トーヤ

うん、道具があるんだ。
でもひとつしかなくて。

ロンメル

ならば主がそれを使って
脱出すればいい。

トーヤ

でもエルムを
残していくわけには……。

ロンメル

主は俺やエルムと契約を
結んでいるではないか。

トーヤ

っ? それが何か?

ロンメル

気付かぬのか?
主は魔方陣を用いれば
どこであっても使い魔や
交換契約をしている俺を
呼び出すことが出来る。

トーヤ

そうなのっ!?

ロンメル

なんだ知らなかったのか?

 
 
首を傾げ、苦笑いを浮かべているロンメル。

でも僕は知らなかったんだから仕方がない。
まさか使い魔が出来ると思ってなかったから
そういう細かいことまで把握してないもん。


でもそうだとしたら、
僕たちは遺跡から脱出できるっ!
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

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