ロンメルは僕と交換契約をしたいと
申し出てきた。
しかも僕が主でロンメルは従者になるという。

もちろん、交換契約というからには
僕もロンメルに対して
何かの対価を支払わなければならないはず。
 
 

トーヤ

僕に何を求める?

ロンメル

なぁに簡単なこと。
お前は定期的に俺に血を吸わせろ。
また、血を吸う独占権をよこせ。

ロンメル

その代わり俺はお前に従ってやる。
そういう契約だ。

トーヤ

えぇっ!?

ロンメル

俺は真祖のヴァンパイア。
従えているヴァンパイアも多い。
つまり間接的にお前がヤツらを
統べるも同じ。

ロンメル

どうだ、悪い話ではなかろう。

トーヤ

どうしてそんな話を?

ロンメル

お前の血をほかのヴァンパイアに
渡すのは惜しい。
それほど美味なのだ。

ロンメル

また、ヴァンパイア化しない
理由も知りたいのでな。
一緒にいれば
いつか手がかりも掴めるだろう。

エルム

兄ちゃん、騙されちゃダメだ!

 
 
エルムが僕とロンメルの間に入り、
両手を広げてこちらへ厳しい目を向けている。
なんとしてでも阻止したいんだろうな。

でもそんなエルムを嘲笑うかのように、
ロンメルは口元を緩めながら肩をすくめる。
 
 

ロンメル

これは魔界神の名の下に
交わされる絶対的契約。
反故にすれば滅される。
魔族なら
それくらい知っているだろう。

トーヤ

うん……。

ロンメル

真祖のヴァンパイアを従えるなど
滅多にない機会だと思うがな?

トーヤ

……分かった。
確かにこの遺跡を脱出するには
キミがいると助かるのは確かだ。
僕と契約して、従者になってよ。

エルム

兄ちゃんっ! ダメだよ!

 
 
エルムは僕に抱きつき、動きを封じようとした。
小さなその両手には目一杯に力が入っている。


でもロンメルの言うように、
魔族の結ぶ契約には魔界神様の力が宿る。
例外はない。

それを破ると相応の罰が下るから、
僕を騙そうにも騙せない。


逆に言えば、
契約内容をしっかり確認しないといけないけど。
ワナが仕掛けられているとしたらそこだから。
 
 

ロンメル

ガキは引っ込んでいろっ!

エルム

だ、だったら、兄ちゃん!
まずは僕と契約してっ!

トーヤ

えっ?

エルム

僕を兄ちゃんの使い魔にして。
兄ちゃんの一番は僕だっ!
こんなヴァンパイアに
先を越されるなんて許せない!

ロンメル

このガキ……
生意気なことを言ってくれる……。

トーヤ

…………。

 
 
僕はエルムの表情をじっくりと観察した。

エルムの瞳には決意の光が点っていて、
どうやら本気らしい。



ちなみに使い魔には大きく分けて
2つのタイプが存在する。

まずは自分の魔力と魂を分け与えて、
ゼロから作り上げるタイプ。
ただ、それは力のある魔族にしかできない。

能力も主人の力に依存するから、
強い魔族ほど強い使い魔を使役できる。

これにはクレアさんやサララが該当する。



――そしてもう1つが契約を交わすタイプ。

これは魔族同士だけでなく、
相手がモンスターや動物の場合もありえる。

主人の力は問われない代わりに、
使い魔となる存在を屈服させるか
自分の意思で契約させる必要がある。
 
 

トーヤ

エルム、それがどういう意味か
分かって言ってるの?
使い魔になるということは、
僕に命も運命も意思も、
全てを捧げるってことなんだよ?

エルム

兄ちゃんは僕のために、
姉ちゃんを救うために
この遺跡に残ってくれた。
自分の命を賭けてまで。

エルム

そんな兄ちゃんに恩返ししたい。
ご主人様として
仕えさせてください。

 
 
 

 
 
 
そう言うと、エルムはその場にひれ伏した。

力の弱い下民の僕が使い魔を持つなんて
死ぬまであり得ないと思っていた。
正直、どうしていいのか分からない。


普通に生活する上では、
お互いに自分の意思で動くことは出来る。

ただ、使い魔は主人の命令に逆らえない。
例え『命を絶て』という命令だとしても。
そして主人に危害を加えようとすると
体が動かなくなってそれは絶対に出来ない。



エルムはそこまでの覚悟を……。
 
 

トーヤ

…………。

ロンメル

よいではないか。
使い魔にしてやれ。
気に入らなかったら
破門にすればよいだけの話だ。

ロンメル

交換契約では
双方の意思が一致しない限り
改変や破棄などが出来んがな。

 
 
そうだ、ロンメルの言う通りかもしれない。


万が一の時は僕が一方的に
エルムの使い魔としての契約を
終了することが出来るんだ。

もし気が変わったと申し出てくれたら
破棄すればいい。
本心を偽ろうとしても、
使い魔である以上はそれが出来ないんだし。



――僕は意を決し、エルムに最後の確認をする。
 
 

トーヤ

……ホントにいいんだね?
僕だって魔族だ。
エルムをどう扱うか分からないよ?
覚悟は出来てる?

エルム

もちろんです。
でも兄ちゃんは酷いことなんて
できない性格ですよ。
僕、分かってます。

トーヤ

それならエルムを
僕の使い魔にする。
ロンメルとは交換契約をする。
2人ともそれでいいね?

エルム

はいっ、ご主人様!

ロンメル

御意のままに……。

トーヤ

エルム、呼び方は
『お兄ちゃん』のままがいいな。

エルム

はい、兄ちゃん!

 
 
その後、僕は書類への血判と儀式を行った。
これでエルムは僕の使い魔に、
ロンメルとは交換契約が結ばれたことになる。

これで遺跡の探索は効率よく進められるはず。



ただ、ロンメルには1日1回、
僕の血を啜ってもいい権利を与えたから
貧血で倒れないように気をつけないと……。
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

第125幕 僕は駆け出しご主人様っ!?

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