ロンメルは僕に対して
エルムを殺すよう命令してきた。
もしヴァンパイア化していれば
主である彼の命令には逆らえない。
でも不思議なことに僕の体は熱いだけで
命令に従わなければならないという強迫観念や
操られているといった感覚はなかった。
意思も体も自由なら徹底的に抵抗してやる!
ロンメルは僕に対して
エルムを殺すよう命令してきた。
もしヴァンパイア化していれば
主である彼の命令には逆らえない。
でも不思議なことに僕の体は熱いだけで
命令に従わなければならないという強迫観念や
操られているといった感覚はなかった。
意思も体も自由なら徹底的に抵抗してやる!
誰がお前なんかに従うもんかっ!
エルムは僕が守るっ!
兄ちゃん……。
……なぜ……だ……。
おかしいっ!
なぜお前は俺の命令を
拒絶できるのだっ!?
魔族であろうと
これだけ時間が経過すれば
ヴァンパイア化が済んでいるはず。
えっ?
すでに僕はヴァンパイア化しているのか?
確かに体は熱い。
でも自分の意思でロンメルの命令を拒絶できる。
血を求める衝動みたいなものもない。
これはどういうことなんだろう?
僕がロンメルに血を吸われたのは間違いない。
体に熱さを感じるとか、
異変が起きているのは確かなんだし……。
正直、僕は戸惑っている。
でも僕以上にロンメルは戸惑っているみたい。
表情に焦りの色が見えるから。
……やはりおかしい。
ヴァンパイアとしての気配が
全く感じられぬ!
これは……なぜ……。
っ!? もしかしたらこれは……。
僕がヴァンパイアにならない理由。
考えられるとしたら、ひとつしかない。
――それは状態異常無効化能力。
僕には毒や麻痺、石化などを無効化する
特殊能力がある。
それがヴァンパイア化にも有効だってこと。
僕の体が熱かったのは
ヴァンパイア化ウイルスみたいなものを
排除しようとして、
体の免疫みたいなものが働いていたからかも。
不思議だ……。
熱が収まりつつある今は、
体の奥から魔力が湧き上がってくるのを感じる。
つまり抗体みたいなものが出来て、
ヴァンパイア化のメリットを
体が取り込んだのかもしれない。
そうだとしたら、これは怪我の功名。
ただ、全てのメリットが
得られたわけでもなさそう。
だってもし全てのメリットが現れたのなら
肉体も強化されるはずだけど、
今の僕にそういう変化は出ていないから。
ぐぬぬぬぬ……。
このようなことは初めてだ……。
……ふ……ふふふ……。
あーっはっは!
これは面白いっ!
っ!?
長生きはするものだ。
眷属に出来ぬ者と出会えるとは!
俺がこの遺跡に迷い込んだのも
魔界の神々の導きかもしれぬな。
そこの娘、名を聞かせろ。
感慨深げに呟いたあと、
またしてもロンメルは僕を指差した。
彼のクセなのかな……。
それは僕のことかっ?
お前のほかに娘はおらぬだろう。
…………。
あの……
僕は男子なんですけど……。
っ!? なんだとっ?
嘘をつくなっ!
いえ、ホントです……。
よく間違えられますけど。
もう何度目だろう、この勘違い……。
もっと男の子っぽい格好をした方がいいのかな?
でもそれだけの理由で変えるのは嫌だし、
僕が僕でなくなっちゃうような気がする。
だからって『僕は男の子』って書いてある
インナーを着るっていうのも嫌だしなぁ。
あ……あぁああぁ……。
俺は女の血しか吸わぬのが
ポリシーだったのにっ!
よくも俺の体を汚したなっ!
勝手に間違えたクセに……。
――だが、お前の血は
今までに啜った誰よりも美味。
それは間違いない。
お前の血は俺だけのものだ!
いや、僕だけのものです……。
で、名はなんという?
トーヤです。こっちの子はエルム。
ガキの名などどうでもよいわ!
なんだとっ?
トーヤよ、
俺はお前の血が気に入った。
そしてヴァンパイア化しない
その体に興味がある。
ニタニタしながら僕を見つめるロンメル。
気色悪いことを言わないでほしい。
でもこの雰囲気、
どこかで見たことがあるような……。
そうだ、あの人に似ているんだ。
かつてアレスくんと一緒に旅をしていた
ビセットさん。
やたらと僕にベタベタしてきたんだよなぁ。
その度にタックさんに叱られていたけど。
トーヤよ、俺と契約せぬか?
契約? 何の契約だ?
……主従の契約だ。
だから僕はお前の命令を
聞く気なんてないっ!
落ち着け、そうではない。
お前が主で従者が俺だ。
えっ?
交換契約なので厳密には同列。
ただ、契約内容を考えれば
実質的にお前が主になる
ということだ。
思いがけない申し出だった。
まさかロンメルが僕の従者になるなんて。
でも交換契約というからには、
僕もロンメルに対して
何かをしなければならないんだろうな……。
次回へ続く!