エルムくんは遺跡からの脱出に必要な
狭間の羽をなくしてしまったという。

だから様子がおかしかったんだ。


どうすればいいんだろう……。
 
 

エルム

どこかで落としたんだと思います。
逃げる途中か、
あるいは戦いの時か……。

エルム

ホント、僕は足手まといですよね。
皆さんに迷惑や心配ばかり
かけちゃってて。

エルム

こんなことになるなら
皆さんの言うことを聞いて
施療院で待っていれば良かった。

トーヤ

エルムくん……。

 
 
エルムくんは薄笑いを浮かべ、
何もかも諦めているかのようだった。



――だからこそ、
エルムくんを支えてあげないといけない。

僕は今までデリンさんやカレン、アレスくん、
たくさんのみんなに助けられてきた。
それがなかったら今の僕は存在しない。


エルムくんの姿がかつての僕のように見える。
今度は僕が支える側になる番だ。
 
 

エルム

トーヤ様は戻ってください。
僕はシロタイヨウゴケを探して
出口を目指します。

トーヤ

エルムくんを放って
戻れるわけないよっ!

エルム

っ!?

トーヤ

僕たちは仲間だ。
ひとりでは無理でも
助け合えば乗り越えられることも
たくさんある。

トーヤ

シロタイヨウゴケを探しながら、
一緒に出口を目指そう。

エルム

トーヤ様……。

トーヤ

トーヤでいいよ。
僕もこれからは
エルムって呼ぶから。

エルム

あの、それなら
兄ちゃんって呼んでも
良いですか?

トーヤ

えっ?

 
 
思いも寄らない提案――。

戸惑う僕を見て、
エルムくんは照れくさそうに微笑んでいる。
 
 

エルム

初めてお会いした時から
兄ちゃんみたいだなって
思っていたんです。

エルム

でも勘違いしないでくださいよ?
それは姉ちゃんと
結婚してほしいという意味では
ありませんので。

トーヤ

わ、分かってるよぉ……。

エルム

まぁ、姉ちゃんに
その気があるなら、
僕は反対しませんけど。

トーヤ

それは……。

 
 
ニーレさんみたいな美人さんに慕われたら
悪い気はしない。
でも僕には恋愛感情が全くないんだよなぁ。

知り合いのお姉さんみたいな感じで
親しみはあるんだけど。
 
 

エルム

ダメですか?

トーヤ

僕のことをお兄ちゃんって
呼ぶだけなら問題ないよ。
エルム!

エルム

うんっ、兄ちゃん!

 
 
お兄ちゃんって呼ばれるとまだ照れくさい。
でも心が春みたいに温かい。


……お兄ちゃんかぁ。

まさか弟が出来るなんて思ってもみなかった。
なおさらエルムを
守ってあげなきゃって気持ちが強くなる。



早速、僕は荷物の中からロープを取り出し、
自分の体に結びつけた。
そしてその反対側をエルムに結ぶ。
 
 

エルム

何をしているんですか?

トーヤ

離ればなれにならないように
ロープで結んでるんだよ。
ちょっと動きづらいけど、
これで僕たちは一蓮托生だ。

エルム

……なんだか照れくさいです。

 
 
 
 
 

 
 
 
 
 

トーヤ

っ!?

 
 
――その時だった。

ボクは通路の奥から
邪悪な気配が漂ってくることに気が付いた。


かすかな足音がだんだん大きくなっきて
確実にこちらへと近付いてくるのが分かる。

しかも血の臭いを漂わせながら……。


否応なしに緊張感が高まる。
 
 

 
 
 

ロンメル

知的生命体との遭遇は久し振りだ。
おそらく数十年ぶりか。

トーヤ

な、何者っ!?

ロンメル

ほほぉ、子どもか。
これは最高のご馳走だ。
フフフ。

 
 
そいつはついに僕たちの目の前に姿を現した。
怪しい笑みを浮かべるその口元から
鋭い八重歯がキラリと光る。

異様な魔力と凍えるような威圧感。
黒い力があふれ出している。
 
 

エルム

あれはっ、ヴァンパイア!

トーヤ

いぃっ!?

ロンメル

いかにも。我が名はロンメル。
真祖のヴァンパイアだ。
お前の血、味わわせてもらうぞ。

 
 

 
 

トーヤ

ぼ、僕っ!?

 
 
ヴァンパイアは僕を指差した。
このご指名は全然嬉しくない。
血を吸われるなんて嫌だよぉ……。

でも逃げようにも逃げ場なんてないし、
ここは戦うしかない。
 
 

ロンメル

クックック。肌のつやも最高だ。
さては遺跡に入って
さほど時間が経っていないな。
なんという幸運。

トーヤ

…………。

 
 
僕はヴァンパイアに気付かれないよう
ポケットの中から
銀の弾の入った革袋をさりげなく取り出した。

そして背負っているフォーチュンに手をかけて
いつでも攻撃できるよう身構える。


この場は自分の力だけが頼り。
なんとしてでもエルムくんを守って
このピンチを脱出してみせる。
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

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