迫り来る巨大な岩の塊。
通路の先には飛び越えられない大きさの穴。
逃げ場のない大ピンチを脱出しようと、
サララは魔法の詠唱に入っている。

でもあまりに強大な魔法で
岩を破壊しようとすると、
通路や壁まで崩壊してしまう。

そうなったら僕たちはただでは済まないっ!
 
 

トーヤ

ダメッ! ダメだよっ、サララ!
このままじゃ僕たちはっ!!

サララ

…………。

 
 
魔法に集中しているサララの耳に、
僕の声は届いていない。

しかもサララの全身は魔法力の光に包まれ、
今にも魔法を発動させようとしている。


――も、もうダメだっ!
 
 

サララ

浮遊(フロート)!

 
 
 

 
 
 

トーヤ

わわっ!?

エルム

体が……。

 
 
僕たち四人は床からわずかに浮かんでいた。
そのまま歩くくらいのスピードで
穴の上を移動していく。


た、助かった……。


サララは岩を破壊しようとしていたわけじゃ
なかったんだ――って、
まだ助かったわけじゃないんだった!!

移動している間にも
塊は少しずつスピードを増しながら
こちらに迫ってくる。


どうか向こう側へ無事に辿り着いてくれっ!
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

トーヤ

はぁっ……はぁっ……。

サララ

間に合ったみたいですね。

カレン

助かったぁ……。

エルム

間一髪でしたね……。

 
 
僕たちが穴の向こう側へ着いた直後に
塊は穴にはまって動きを止めた。

少しでも遅れていたら危なかった。
 
 

サララ

えへへ、
この魔法は得意なんですよ。

トーヤ

そうだったんだ。
おかげで助かったよ。
成功率はどれくらいなの?

サララ

成功率は40%もあるんですっ♪

トーヤ

そっか、40%かぁ!

トーヤ

…………。

トーヤ

……え?

 
 
その場にいたサララ以外の全員の表情が
凍り付いた。



よ、40%って……。


失敗する確率の方が高いんですけど……。

つまりあのまま岩に押しつぶされていても
何らおかしくなかったわけで……。
 
 

カレン

は……ははは……。

エルム

け、結果オーライですよ……。

 
 
そ、そうだよね……。
助かったんだから気にするのをやめよう。




それよりもクロードとライカさんの
安否が気になる。

穴の中は真っ暗で何も見えないし、
何の音も聞こえてこない。
 
 

トーヤ

クロードぉっ! ライカさーんっ!

 
 
僕は岩と穴のわずかな隙間から叫んでみた。
でも耳を澄ませても
下からの返事は確認できなかった。

それと僕の声の反響具合から考えると
かなり深さがあるみたい。
 
 

トーヤ

ダメだ、返事がないよ……。

サララ

穴に降りて探しますか?

エルム

危険すぎます。
それに無事に降りられたとしても
会えるかどうか分かりませんし。

カレン

どうして?

エルム

だって無限の迷宮なんですよ?
一度見失ったら、
同じ空間へ辿り着けるとは
限りませんから。

トーヤ

あ……。

 
 
エルムくんの言う通りだ。
穴の中に転送ポイントがあって、
ほかの場所へ飛ばされていてもおかしくない。


もしそうだとすると、
クロードたちと再会できる可能性は
限りなくゼロに近い。

それどころかクロードとライカさんが
同じ場所に辿り着いている保証も
ないわけだし……。
 
 

カレン

仕方ないわね。
一度、外へ戻りましょう。
こんな状況ならクロードたちも
狭間の羽を使うはずよ。

サララ

ですね。出直した方が確実です。

トーヤ

ゴメンね、エルムくん。
シロタイヨウゴケを手に入れる前に
戻ることになっちゃって。

エルム

お気になさらないでください。
緊急事態ですし。

 
 
こうして僕たちは狭間の羽を使って
遺跡を脱出することにした。

モンスターのレベルを考えると、
4人だけで探索を続けるのは
リスクが高すぎるもんね。
 
 

トーヤ

えっと狭間の羽は……。

 
 
 

 
 
僕は荷物の中を探り、狭間の羽を取り出した。

使い方は確か、
羽を握りしめながら念じればいいんだっけ。
 
 

カレン

じゃ、戻りましょう。

サララ

ではでは、のちほど~。

 
 
 

 
 
 
カレンとサララは狭間の羽を使い、
先に遺跡を脱出した。

風もないのに髪が揺らめいたかと思うと
一瞬で姿がその場から消える。
狭間の羽を使うとあんな感じになるんだね。




さて、僕も戻らないと……。


僕は狭間の羽を握り、念じようとした。
でもその時、
エルムくんが呆然と佇んでいることに気付く。

シロタイヨウゴケが手に入らずに戻るのが
悔しいのかな。
 
 

トーヤ

エルムくん?

エルム

えっ!?

エルム

な、なんでしょう?

トーヤ

早く戻ろう。

エルム

もちろんです。
先に行ってください。

トーヤ

っ?

 
 
なんだかエルムくんの様子がおかしい。

目は泳いでいるし、
言葉も歯切れが悪いように感じる。
 
 

トーヤ

まさかエルムくん、
ひとりだけ残って
シロタイヨウゴケを
探そうとしてない?

エルム

そ、そんなわけないですよ。

 
 
エルムくんは僕から目を逸らした。


やっぱり何か後ろめたいことがあるんだ。
そうだと分かった以上、
このまま放っておくことなんてできない。

エルムくんが確実に狭間の羽を使って
戻るところを見届けないと。
 
 

トーヤ

じゃ、先に戻って。
僕が最後に狭間の羽を使うから。

エルム

っ!?
トーヤ様が先に使ってください。
絶対に僕も戻りますから。

トーヤ

やっぱり様子がおかしい。

トーヤ

エルムくん、正直に話してよ。
ひとりだけ遺跡に残って
探索を続けようとしてるんでしょ?
それはダメだよ……。

エルム

…………。

 
 
エルムくんは俯き、口を閉ざしていた。

そしてわずかの間のあと、
エルムくんは顔を曇らせながら僕の方を見る。
 
 

エルム

実は……狭間の羽が……
見当たらないんです……。

トーヤ

えぇっ!?

 
 
狭間の羽が見当たらないっ!?

つまりそれじゃ、
エルムくんは遺跡を脱出したくても
できないってことじゃないか!
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

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