はぁっ……はぁっ……。
なんとか片づいたわね……。
僕たちは遺跡の探索を続けていた。
でも未だにシロタイヨウゴケは見つからない。
この遺跡はフロアの構造に脈絡がないからか、
突然モンスターが襲ってくることもあれば、
何事もなく次のフロアに抜けられて
拍子抜けするということもある。
飽きないといえば聞こえは良いけど、
精神的には疲労が溜る一方だ。
今もモンスターを倒したところ。
といっても、
主力はもちろんクロードとカレンだけど……。
クロード、大丈夫?
ご心配なく。
これくらいなんともありません。
トーヤの薬で回復してますし。
でも回復量には限界があるから。
使えば使うほど
効き目は弱くなってしまうし。
私はトーヤのためなら
限界を超えてでも戦えますよ。
クロード……。
そう言ってもらえると嬉しい。
でも僕は戦闘なんてない方が良い。
だってクロードに万が一のことがあったら
悲しいし嫌だもん。
無事に帰ることが何よりも大切なんだから。
あまり無理しちゃダメよ。
今回はいつも以上に
危険度が高いんだから。
えぇ、承知してます。
本当にダメな時は
皆さんを頼りますよ。
私たちは仲間ですしね。
うんっ!
ですですっ!
もっと私も頼ってください。
魔法の成功率は低いですが。
それにしても
ここのモンスターは強いですね。
私たちひとりでも欠けたら
太刀打ちできるかどうか……。
限界を感じたら無理せず
狭間の羽を使って脱出しましょう。
でもあまり時間も
かけていられないよ。
ニーレさんは今も
苦しんでいるんだし。
なるべく早くシロタイヨウゴケを
見つけないと。
皆さん、どうかお願いしますっ!
そうだよね、
ニーレさんのことを誰よりも心配しているのは
エルムくんだよね。
彼のためにも探索を急がないといけない。
通路を歩いていると、急に景色が変化した。
この遺跡では特定のポイントを通過すると
次のフロアに飛ばされる仕組みに
なっているみたい。
それは階段であったり
何の変哲もない通路であったりと様々。
言い換えればテレポーター、
つまり転送のトラップが遺跡の構造に
組み込まれているようなものかな。
今回のフロアは特に分岐もなく、
何もない通路が真っ直ぐ奥へ続いている。
随分と長い通路だね……。
このフロアに着いてから、
ずっと真っ直ぐですね。
嫌な予感がしますねぇ。
こういう場所って
トラップが仕掛けられていることが
多いじゃないですか。
サララは縁起でもないことを言う。
確かにその通りなんだけど、
口に出したら本当にそうなりそうだから
僕なんかその言葉を呑んでいるのに。
何っ!? 地震?
その時、遺跡全体が轟音とともに揺れた。
僕は咄嗟にエルムくんを抱きしめて
身をかがませる。
この揺れで埃は舞い上がり、
カビ臭さが辺りに漂う。
……でもおかしい。揺れが収まらない。
最初の突き上げるような衝撃はないけど、
細かな揺れが未だに続いている。
後ろから岩の塊が
ゆっくり迫ってきてますっ!
いぃっ!?
後方を見ると、
通路とほぼ同じ大きさの丸い岩が
ゆっくりとこちらに迫ってきている。
ん? ちょっと待てよ?
なんか岩とは質感が違うような……。
表面には少し光沢があって
灯りを向けると白い輝きがあるんだけど。
まるで何かの金属――って、まさかっ!
マズイですっ!
アレは銀の塊ですっ!
ぎ、銀っ!?
はわわわわぁっ!
やぁああああぁ~っ!
わぁあああぁっ!
通路の先へ逃げましょう!
僕たちは慌ててその場から駆け出した。
あの巨大さじゃ確実に潰されちゃうし、
あんなものにちょっとでもぶつかったら
その時点で僕たち魔族は大ダメージだ。
あれだけの量の銀だから、
トレジャーハンターなら喜ぶかもしれないけど。
まったくっ、
とんでもないトラップを
仕掛けてくれたもんねっ!
でもあんなにたくさんの銀、
おカネかかったでしょうね。
きっと表面の薄い層だけですよ。
中は鉄やただの岩かもしれません。
それでも私たち魔族にとっては
充分な脅威になり得ますから。
そっか……。
ただの岩であっても踏みつぶされたら終わり。
そこにトドメを刺すかのような銀の層。
素材が銀じゃ、
僕たち魔族の魔法や攻撃は効きにくいから
破壊するのも苦労する。
そして僕たちは銀を本能的に敬遠する。
いくら侵入者を排除するためとはいえ、
念の入れ方が非情すぎるよぉ~っ!!!
あぁああああぁーっ!
きゃああぁーっ!
突然、僕の十数歩先を走っていた
クロードとライカさんの姿が
悲鳴とともに消えた。
見てみると床に大きな穴が空いていて、
そこへ落ちたみたいだ。
その大きさは転がってくる塊より
わずかに小さいくらい。
塊がこの穴に落ちることはないと思うけど、
隙間を塞いでしまって
ここから抜け出ることは困難だろう。
岩のトラップの先に落とし穴。
遺跡の制作者は容赦ないことをする。
こんなの回避のしようがないよ。
みんな、穴の向こう側へ!
穴が大きすぎて
僕には飛び越えられないよっ!
僕にも無理ですっ!
この場は私がなんとかしますっ!
得意な魔法なので
成功率は高いですっ!
安心してくださいっ!
…………。
サララへ視線を向けると、
彼女はすでに魔法の詠唱に入っていた。
まさか魔法で塊を破壊する気っ!?
でも銀に対しては効果が薄いから
生半可な魔法じゃ弾かれておしまいだ。
……いや、そういえば、
かつてガイネさんが話をしていた。
サララは強力な魔法を扱えるって。
それならもしかしたらなんとか――
いやっ、だ、ダメだよっ!
僕は大事なことに気が付いた。
こんな狭い通路で強力な魔法を使ったら
通路や天井が壊れて
僕たちもタダじゃ済まないということにっ!!!
サララは魔法の詠唱に集中していて
僕の声は届いていないみたい。
あぁ、もうダメかも……。
次回へ続く!