すっかり冷めてしまったテデザリゼを淹れ直して、私たちはお菓子をつまむことにした。
すっかり冷めてしまったテデザリゼを淹れ直して、私たちはお菓子をつまむことにした。
でもさ、なんでアルバム見ようとしたの?
たんすの上の写真がなくなってたから、何かあったのかなって気になっちゃって。遵、再婚するの?
そこまでわかってたんだ!
写真がしまわれてたってことは、そういうことでしょ。まあ、こっそり確認するつもりだったんだけど。テデザリゼなら時間稼げると思ったんだけどなあ。
蒸らしが足りなかった?
カップを一口すすって、
ううん。おいしい。
父の教えの賜物です。
何それ。
ねえ……それだったら、お父さんに再婚待ってもらうように言おうか?
え? どうして?
だって、お母さんが……いるわけだし。
リングスナックを弄んでいたお母さんの左手が、ふと止まる。
周音を愛してるし、遵のことは好きだよ。でも、あたしは巡海としての自分を取り戻したいわけじゃない。
……?
だいいち、凜音が結婚できる歳になるころには、あの人は五十ン歳よ? それだったら、もっと自分を磨いて、未来のもっといい人ゲットしたいなー……なんて。
なるほど。
今の私は凜音で、之愛ちゃんの娘だからさ。そこんところは忘れずに生きていたいわけ。でも……。
でも?
時々、ちょっとくらいは、親子させてよ。全然できてなかった分、さ。
……。
……。
うん!
いつの間にか傾いていた日が差し込む居間。玄関から、金具の音が聞こえた。お父さんだ。
ただいま。お、凜音ちゃん来てたのか。
お邪……おじゃましてまーす。
おかえり。早かったね。
ああ。改めて紹介したい。
すると、お父さんの背後から、小さな人影が。見覚えのある、優雅だけど気弱そうな女性。
あの、こ、こんにちは……。
胡詠さん! いらっしゃい。
父さん、この人と結婚するよ。
はっはい! よろしくお願いします。 あの……
そんな緊張しないでいいよ。それで?
あの……お母さんって……呼んでくれますか。
?
ごっごめんなさい! そんないきなりは嫌だよね……あの、少しずつで、ゆっくりでいいから、頑張りますから……!
……どうしたものだろう?
私は、隣の小学生の様子を窺った。かつて夫だった人の再婚相手を、しばらくまじまじと眺めていたその視線が、やがて私に注がれ、
ウィンクに変わった。
……!
!?
お母さん。
!!
ありがとう、周音。
やれやれ……ところでこのレジぶくろなーに? あ! ぎゅうにく!
せ、せっかくだからすき焼きでもと思って……。
じゃあ鍋とカセットコンロ出してくるね。
あたしもおよばれしていい?
うちはいいけど、之愛さんの許可をもらうんだぞ。
ママもつれてきちゃおっかなー。
あの、す、すき焼きってどうやって作るんですか、私わからなくて……。
お母さんは、お母さんしてればいいよ。任せて。
はーい。
なんでそこで返事するの?
今夜の食卓は、賑やかになりそう。
良い悪いはともかく、どこの家にも役割分担というものはある。
でも、私の場合は、他の家にはないかもね。
二人の母親と親子するのが、一人娘の私の仕事だ。
(fin)