そこは山を越少し越えた先にある廃墟だった。
だがその作りの大きさから見て、立派な家だったのが伺える。
山を越えたあたりに村があったと近藤は言っていたが、その村は見えなかった。
カロンいわく、土砂崩れがついに村を覆い、村が飲み込まれたのだろうとのこと。
そしてこの山の高いところにあるということは。
そこは山を越少し越えた先にある廃墟だった。
だがその作りの大きさから見て、立派な家だったのが伺える。
山を越えたあたりに村があったと近藤は言っていたが、その村は見えなかった。
カロンいわく、土砂崩れがついに村を覆い、村が飲み込まれたのだろうとのこと。
そしてこの山の高いところにあるということは。
この廃墟は村人達の避難所のような場所だったのでしょう。人間が住むには大きすぎますから
昔から交流もあったんでしたよね。
もしかしたら、汐乃の村人も逃げてこれるようにしてあったのかもしれないですね
何でそう思う?
ギシギシと音がする廊下。
緊張しているからか。
それとも静寂の中だからだろうか。
とても、音が大きい気がした。
サトミは視線をあちらへとやって、少し悲しげに眉尻を下げた。
海の側は、津波が来るから
津波……
……この国は自然とは切っても切れない島なんです。
活火山もあるし、島そのものはテルファートの大陸と違って海に囲まれています
それは。海の幸にも恵まれていると言うことでもある。
しかし、台風の通り道であることにも加え、プレートも近く、地震が多い。
その地震が一度猛威を振るえば。
海が荒れ狂い、大津波になって全てを飲み込む
彼女は、目を伏せる。
何もかもが、一瞬で無くなってしまう。
港町も、たくさんの人の命も
彼女は俯いて、ぎぎぎ、と軋んでいる引き戸を開けた。
そこには居間へと通じるための廊下なのか、長いものが続いていた。その突き当りには、木製の引き戸があった。
でもでも、そこで生きる人の力は、その人達を想う人達の力は、とても優しくて強いんですよ
彼女は、はにかんで先を歩く。
廊下の先にあった引き戸を完全に開け放つと、左へと曲がっていった。
率先して先を歩く彼女の後ろをついて行く……――が、そこでレインフォードは目を眉を顰めた。
どこからか、血の匂いがするのだ。やはりヴァンパイアの根城とだけあって、早速、鉄錆の匂いがお出迎え。
すでに充満しているようで、気分が悪くなりそうだ……――。
ぎゃあ!
!? サトミ!?
途端、先を歩いていたサトミの足元が、ぱかっと下へと開いた。
ほんの一瞬で、彼女はその穴へ吸い込まれて消えた。
レインフォードは、ルームフェルと共にサトミが落ちた穴へと穴へと駆け出した。
そして同時に、鼻腔を埋め尽くすほ鉄錆の匂いを嗅いで顔を顰める。
!
ちょービックリした
サトミが穴から顔を出してきたのだ。
しかも、驚いたと言う割にはいつもの表情で驚いている時の顔ではない。
彼女は、穴の淵に指をかける。
ルームフェルが手を伸ばすが、それに掴まろうとすることも、登ろうとすることすらする気が無いようだった。
その下を見てみれば、彼女の人具が彼女のために足場を作っている……――つくづく便利な人具だ。
サトミ……?
この下、タケヤリが埋め込まれています
たけやり?
竹という植物で作る槍です。
竹は硬い植物なので、先端を尖らせるように斜めにカットするだけでお手軽に出来る槍です。
それが、下に埋まってました
つまり、この血の匂いの正体は。
汐乃の警護人用の着物を着ている人間が、一人刺さってます。
きっと、ヴァンパイアかグールを追いかけて、ここを突き止めた人だったんでしょう……
彼女はルームフェルの手を借りることなく、足をかけてよじ登ると俯いた。
ボクが迂闊でした。
こんなにギシギシ鳴っているのに、敵襲対策が頭から抜けてるなんて……
古いから鳴ってるんじゃないのか
この手の渡り廊下は敵の夜襲があった時のために、わざと大きく鳴るように作ってあるんです
カロンは、そんなこと一言も……
マスターは悪くないです。
追跡して中に入れたとしても、この手の罠は体重などの負荷がかかって発動します。
飛翔している通信用魔道具では罠に引っかかることは出来ません。
これは、偉い人が自分達の身を護るため、敵を殺すための罠です。
近藤さんみたい有権者の家に施されていたものです。
こういう家を、この国では『カラクリ屋敷』というんですよ。
ヴァンパイアの方も、来訪があればこの音に気づきますね……
まさか、ここまで防衛力のあるような建物を根城にするとは……たまたまだとは思うが、悪運は相当強いヴァンパイアのようだ。
気を引き締めなければいけない。
日の光を浴びないようにするため篭っているといえど、これらの罠は間違いなくあのヴァンパイアの身を護る罠でもあるのだ。
ボクの人具で移動しましょう。壁
とか触らないように気をつけてください。
こういうのって、いろんなところに仕掛けてあると思いますから
赤い石が薄い板となって伸びる。それに乗れば、歩くことなく廊下を移動していった。
本当に、便利な人具だな……――
えぇ。ボク、石が人具でよかったです
彼女はニッコリと微笑むと、音も無く進んでいく。廊下をすーっとわたっていき、ギシギシ軋む部屋を一室一室、開けては中を覗く。
ルームフェル。気配は感じないんですか?
あぁ、感じられない……
外部に魔力が漏れないように遮断している特性棺桶かもしれないですね……
そんな魔道具はまだありませんよ、Ms.サトミ
でも、グールが全然出てきませんよね。
グールだってヴァンパイアにしてみれば立派な番犬です。
自動で敵を襲撃してくれるんですから
……もしかして、グールがいないのか?
待ってください。それだとおかしくないですか?
ツナブチさんはグールでしたし、山の中に放し飼いにしてるなんて奇妙です。
それなら、昨夜のうちにレインフォードさんは森の中で襲撃にあっているはず……――
あ
サトミは目をぱちくりさせて、目玉通信機を一瞥した。
マスター。
地下に繋がる入り口とか見つけませんでしたか?
いえ。そんなものは見つけられませんでしたが……
大概、偉い人の家には地下牢があるものです。
奇襲してきた人間を生け捕りにして、情報を聞き出すために拷問とかするはずなのです
!
コレだけのカラクリ屋敷です。
人を殺すだけでなく、きっと生け捕りにするための罠もどこかに用意されてるはず……
あぁ、しまった!!
歩いてるだけじゃダメじゃん!
カラクリ屋敷なんだから!!
もう頭が悪すぎて死にたい!!
どこが頭悪いんだ!?
地図! 地図見せてください!
途端に、サトミはライトの懐から出てきた地図を睨みつけると、たちまち来た道を戻っていった。それは、開けっ放しにしてきた出入り口まで戻る。
ぬかった。サトミ。
地図におかしな空洞がある
そうなんですよ!
この地図、いろんな箇所に変な空洞があるんです!
人具で小石を作り上げると、それを真正面に続く廊下の壁に叩きつけ始めた。
主に、家の内側にある壁に向かって、がんがんと叩きつけていく……――。
音が違う……
今までは何かがちゃんと詰まっているような音がした低い音だった。
しかし、この出入り口の前のこの壁だけは中が空洞のような、軽い音がしたのだ。
サトミは壁に手をついて力をこめる。
回転扉!?
壁がくるりと回転するように開いたのだ。
それは回転扉をほぼ同じ形式だ。
カラクリ屋敷の定番です!
あぁ、もう!
忍者とか、こういうところに隠れるのにぃ!!
サトミは心底苛立たしそうに、その中へ入っていった。
それに続くライトとルームフェルの後を追いかけ、レインフォードも入っていく。
真っ暗闇の中、小さな炎を掌に載せて駆け下りていく。
誰か居ませんかぁああああ!!
腹の底から、ありったけの二酸化炭素を吐き出して、サトミは雄叫びをあげた。
探していると言うよりは、この声が誰かに届けと願うかのような。
居たら返事をください
と
助けに来たんです
と
それは、生きている人はいませんか
と
願うかのように……――
私達も追いかけるぞ、レザール……
ここに居るよー!
お母さんを助けてー!!
!?
!?
聞こえてきたのは、子供の声だった。
それは、自分も捕まっているというこの状況下で、母の助けを求める幼子の、悲鳴。
急ぐぞ! レザール!!
はい!