準備を整えた僕たちは帰らずの遺跡に向かった。
途中の道は寂れているというか、
掘った坑道がそのままになっている感じで、
整備されている痕跡はない。
当然、狭くて暗いから
僕たちは魔鉱石の力を利用した
マジックカンテラの灯りで先を照らしている。
暗い場所でも周りが見えるという
エルフ族のタックさんがいていくれたら
助かったんだけどなぁ。
魔族の中にもその特殊能力を
持っている人がいるけど、
僕たちのメンバーの中にはいないもんね……。
準備を整えた僕たちは帰らずの遺跡に向かった。
途中の道は寂れているというか、
掘った坑道がそのままになっている感じで、
整備されている痕跡はない。
当然、狭くて暗いから
僕たちは魔鉱石の力を利用した
マジックカンテラの灯りで先を照らしている。
暗い場所でも周りが見えるという
エルフ族のタックさんがいていくれたら
助かったんだけどなぁ。
魔族の中にもその特殊能力を
持っている人がいるけど、
僕たちのメンバーの中にはいないもんね……。
あっ、見えてきました。
やがて坑道の先に開けた空間が現れた。
そこはアンカーの町と同じように
天井が高くくりぬかれていて、
きちんと灯りも設置されている。
その中心にあるのが石造りの古い建物。
巨大な石柱と直方体の石塊が組み合わされ、
神殿のようにも見える。
ここが帰らずの遺跡です。
外観は普通の遺跡みたいだね。
でも中は無限の迷宮。
一度入ったら戻れない。
う、うん……。
大丈夫ですよぉ。
私たちには狭間の羽が
あるんですからっ!
油断は禁物です。
モンスターもいるという話ですし
気を引き締めて行かないと。
では、隊列を整えて
中へ進みましょう。
先頭はいつものように
クロードさんということで。
おまかせをっ!
私、今回は一番後ろになるわ。
何が起きるか分からないから。
その方が良いですね。
では、私はクロードさんの
次に並びます。
ではっ、私はカレンさんの前へ。
列の真ん中にトーヤくんと
エルムくんが入ってください。
うん、分かった。
はいっ!
僕たちは武器や照明器具、
装備などを点検してから遺跡の入口へ進んだ。
そして意を決して中へと入る。
遺跡の中へ入った直後、
わずかに体が重くなったような気がした。
動くことに支障はないけど、少し気持ち悪い。
そして空気は外よりも涼しげで埃っぽい感じ。
その中を僕たちはゆっくり歩いていく。
辺りは静まり返っていて、
僕たちの足音だけが石の回廊に反響している。
あれっ?
少し進んでから何気なく振り返ると、
通路の奥は陽炎のように揺らめいていて
すでに入口は消えてしまっていた。
つまりもう後戻りは出来ない……。
そう思うと、否が応でも緊張が高まってくる。
こらっ!
トーヤは前を向いて
周囲を警戒してないとダメよ!
っ!?
後ろは私とサララの担当。
トーヤはエルムと一緒に
トラップが仕掛けられてないか
警戒する担当でしょ?
ですですっ!
後ろはお任せくださいっ!
うん……ゴメン……。
っ!?
その時、不意にクロードの足が止まった。
当然、後ろを歩いていた僕たちの足も
自然と止まる。
クロードは険しい表情で前方を睨んだまま、
腰に下げていた剣を引き抜いて構える。
オオオオオォ……。
…………。
暗闇の向こう側からフクロウの鳴き声ような
低い音が響いてきた。
まだ姿は確認できないけど、
気配や音がこちらへ近付いてきているのは
間違いない。
それにかすかに漂う血の臭い。
みんなは気付いているか分からないけど、
嗅覚が敏感な僕にはハッキリ分かる。
――これはもう、嫌な予感しかしない。
オオオオオォ……。
ひっ!!!
暗闇の向こうからモンスターが現れた。
空中に漂う白い布きれのような外見。
あれはゴーストだ!
有名なモンスターだから僕でも知っている。
力は弱いけど、取り憑いて自由を奪ったり
魔法で攻撃したりしてくる。
しかも通常の物理攻撃はほとんど効かない。
相手がゴーストなら、
魔法主体で攻撃しましょう。
トーヤ、エルム、サララ!
3人は下がってて!
う、うんっ。
はい……。
はうぅ……。
カレンはすかさず前へ出て、
クロードの横に並んだ。
そしてそのふたりは魔法の詠唱を始める。
ちなみに僕の持っているナイフには
魔法力が込められているから、
それを使った攻撃なら
ゴーストにダメージを与えることは可能だ。
フォーチュンに銀の弾をセットして攻撃しても
有効だと思う。
だけどこの場は魔法攻撃が出来る
クロードやカレン、ライカさんに任せた方が
確実だもんね。
サララは魔法の成功率が低いから
もしもの時の切り札ということで……。
氷結弾!
閃熱の柱(フレアピラー)!
クロードとカレンの魔法がゴーストに炸裂!
トドメを刺せたワケじゃないけど、
かなり効いているみたいだ。
このまま魔法攻撃で押していけば倒せそう。
すでにライカさんは次の一撃を加えようと
魔法の詠唱に入っている。
でもなんかゴーストの様子が……。
オォオオオォーッ!
グッ……うぅ……。
がはっ!
なんと追い詰められたゴーストは
強烈な音波による全体攻撃を仕掛けてきた。
空気を激しく振動させ、
僕たちの体の中から衝撃を与えてくる。
全身が痺れて痛い……。
あ……う……。
っ……。
クロードとカレンは床に倒れ込んでしまった。
しかも起き上がる様子はなく、
手足は痙攣するばかり。
もしかしたら今の攻撃には
体を麻痺させる付加効果があるのかも……。
特にふたりは僕たちより
ゴーストに近い場所にいたから、
ダメージも大きかったのかもしれない。
――ちょっと待って!
だとすると、ほかのみんなはっ!?
僕は慌ててみんなの様子を確認する。
ぐ……。
ううう……。
エルムくんは大丈夫……?
な……なんとか……。
ライカさんやエルムくん、サララは
ゴーストから少し離れた位置にいたから
麻痺せずダメージだけで済んだみたいだった。
その証拠にライカさんは苦痛に顔を歪めつつも
すでに魔法の詠唱に入っている。
神魔光滅陣!
ぎゃあああぁ……。
やったぁっ!
…………。
ライカさんの放った光系の魔法は
ゴーストに効果絶大のようだった。
姿は完全に消滅し、通路には静けさが戻る。
う……あ……。
ライカさんっ!
倒れ込みそうになるライカさんを
僕は慌てて支えた。
ライカさんは肩で大きく呼吸しながら
手足を痙攣させている。
ゴーストの攻撃で想像以上に
大きなダメージを受けていたんだ。
そんな状態だったのに魔法を使って……。
ライカさん、
すぐに手当てするからね。
僕はカバンの中から麻痺と体力を
同時に回復させる薬を取り出した。
それをライカさんに飲ませてあげる。
するとライカさんはすぐに表情が和らいで
僕へ微笑みかけてきた。
――これでとりあえずひと安心。
まだ動けるほどは回復していないけど、
薬の効果が広がれば動けるようになるはず。
あ……は……。
さすがトーヤさんの薬は
よく効きますね……。
でもしばらくは
安静にしててくださいね。
はい……。
そのあと、僕は全員に回復薬を飲ませた。
サララとエルムくんは
自分で薬を飲める状態だったから
すぐに体力は回復。
でもクロードとカレンはダメージが大きくて、
回復するまでに時間がかかってしまった。
命に別状がなかったのは幸いだけど……。
こうして僕たちは探索を始めて早々、
遺跡にいるモンスターの強さを
身をもって知ることとなった。
今後はなるべくモンスターと遭遇せず、
探索ができるといいんだけど……。
次回へ続く!