お母さんがいなくて寂しいでしょう、とよく言われたけど、正直言ってわからない。母親がいないことが当たり前で、それ以外経験したことがないのだから、比べられるわけがない。

周音(あまね)

あ、でも、一度だけ。

 確か私が小学四年生だったから、三年前。お隣の之愛(ゆきえ)さんの家の凜音(りいん)ちゃんと遊んであげていたとき。

周音(あまね)

うわっ!!

凜音(りいん)

っ!!

 バランスを崩してよろめいたところに、ちょうど凜音ちゃんがいて、覆いかかるように倒れてしまった。

之愛(ゆきえ)

凜音! 周音ちゃん!

 右手の甲に大きな傷をつけ、それでも涙一つ零さない凜音ちゃんを、之愛さんはずっと抱きかかえていた。

之愛(ゆきえ)

ごめんね、痛かったね凜音……周音ちゃんは怪我はない?

周音(あまね)

あっ……大丈夫です。

之愛(ゆきえ)

そう……よかった。

凜音(りいん)

……。

 母猫が子猫を舐めるようにして、娘の傷の手当をする之愛さんを、ぼんやり見ていたあのときの私は、

周音(あまね)

寂しかったん……だろうな。

 今は、そう思う。

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