お母さんがいなくて寂しいでしょう、とよく言われたけど、正直言ってわからない。母親がいないことが当たり前で、それ以外経験したことがないのだから、比べられるわけがない。
お母さんがいなくて寂しいでしょう、とよく言われたけど、正直言ってわからない。母親がいないことが当たり前で、それ以外経験したことがないのだから、比べられるわけがない。
あ、でも、一度だけ。
確か私が小学四年生だったから、三年前。お隣の之愛(ゆきえ)さんの家の凜音(りいん)ちゃんと遊んであげていたとき。
うわっ!!
っ!!
バランスを崩してよろめいたところに、ちょうど凜音ちゃんがいて、覆いかかるように倒れてしまった。
凜音! 周音ちゃん!
右手の甲に大きな傷をつけ、それでも涙一つ零さない凜音ちゃんを、之愛さんはずっと抱きかかえていた。
ごめんね、痛かったね凜音……周音ちゃんは怪我はない?
あっ……大丈夫です。
そう……よかった。
……。
母猫が子猫を舐めるようにして、娘の傷の手当をする之愛さんを、ぼんやり見ていたあのときの私は、
寂しかったん……だろうな。
今は、そう思う。