我を抱き上げるオータ
そして共に居るゴンザとリザに
我が驚いていると
なにゆえオータ達が
こんな所に居るのじゃ！
我を抱き上げるオータ
そして共に居るゴンザとリザに
我が驚いていると
悪ぃな、嬢ちゃん
嬢ちゃんには恨みは無いが
勇者を誘き寄せる
エサになって貰うぜ
我を抱き上げたまま
無謀なことを言う
こやつは何を言っておるんじゃ
まさかとは思うが――
お父さんを、どうするの？
恐る恐る聞いてみれば
……戦うんだよ
魔王の仇討ちを
するために
やっぱりかーっ！
なにを血迷って
おるのかお前はーっ！
勝てるわけが無かろうが
勇者のヤツは、我と
戦った時より更に
強くなっておるのじゃぞ
幼女になった我ではあるが
毎日会っている勇者の力量を
読み違えることはない
勇者のヤツめは
あろうことか我と戦った時よりも
確実に強くなっている
しかもその理由が――
なにがあっても鈴音を守れるぐらい
お父さん強くなるからな
我の為だというのが
どうしようもない
頑張らないで良いわ～
勇者のヤツめ
あれではますます
倒し辛くなるではないか
勇者のヤツめの無用な頑張りを思い出し
我が嘆いていると
…………
あ～、まぁなんだ
そんなに怖がらなくても良いぞ
ちゃんと、嬢ちゃんは帰してやるからな
我が怯えていると思ったのか
なだめるようなことを言い出すオータ
こやつは本当に
変わっておらぬな～
根本的に気の良いヤツなので
子供を人質にとるような真似には向いていない
ため息をつくような気持ちで
我が俯いていると
ヤベぇ。怖がったままだぞ
どうする
高い高いして
あやしてみたらどうだ？
しなくていいーっ！
なにゆえどいつもこいつも
我を空に向かって投げ飛ばそうとするのか
オータのヤツの力で投げられたら
また大空とこんにちはをしてしまう
伊達にオータのヤツめも
切り込み隊長をしていた訳ではない
とはいえそれでも勇者のヤツに勝てるとは
まったく思えないのではあるが
などと、思っていると――
ん～、大丈夫じゃない？
別にその子、怯えてる
訳じゃないみたいだし
リザが横から口を挟んでくれる
そうなのか？
うん。怯えてるというより
困惑してるんだと思う
ね？ そうでしょ？
うん！
全力で我は頷く
怖がってんじゃなくて
訳が分からなくて
困ってただけってことか
さすが勇者の子供だけあって
腹が据わってんな
大したもんだろ
お前ら、仇の娘を前にして
和んでどうするんじゃ
小さくため息一つ
全身の力が抜けるような気持ちになりながら
我はオータ達に言った
止めた方が良いよ
お父さん、すごく強いもん
……知ってる。なにしろ
魔王を殺したぐらいだからな
でもな、嬢ちゃん。だからって
退く訳にはいかねぇんだよ
な、なんで？
じゃねぇと、魔王のヤツが
あんまりにもかわいそうだろ
泣き出しそうな表情でオータは言った
あいつ、生まれたばかりの
くせしやがって、皆を守るって
一人で勇者と戦って死んじまいやがった
おまけに自分が死んでも
皆を守れるようにしてな
それなのに誰もアイツのために
死んだ後に戦ってやらないのは
薄情ってもんさ
だから勇者に教えてやるのよ
死んだ魔王のために戦うヤツが
居るんだってことをよ
あの世の魔王には
怒られるかもしれねぇがな
まったくじゃ
誰も頼んでおらぬわ、馬鹿者め
とはいえ、どうすれば良いんじゃ～
我が魔王の生まれ変わりじゃと
信じれば良いが、言った所で
ハハッ、ナイスジョーク
などと言われるのが
関の山じゃしの～
これでは完全に
詰んでおるではないか～
などと、心の中で嘆いていると
それじゃ、行くか。ゴンザもリザも
ここで別れくれて良いんだぞ
え～、ないない
私もオータと
同じ気持ちだし
水臭いだろ。帰れと言われても
勝手についていくだろ
……そうか。なら、行くか
勝手に自己完結して
我と一緒に、どこかに行こうとする
おそらく、我を餌に呼び出した勇者と
戦うための場所に行くつもりだ
じゃから止めろというに～
ジタバタ暴れて我は止めようとするも
オータのヤツは全く意に介さず
抱き上げたままズンズン進む
うぅ、この身が幼女でさえなければ
せめて魔法の一つでも使えれば良いのだが
魔力を生み出す事はともかく
その魔力を使って魔法を使う事が
今の我には出来ない
所詮、今の我は力の無い幼女でしかないのだ
そうして嘆いていると――
うーっ、きゃうっ！
きゃう！ きゃう！
おおっ、玉藻！
玉藻がオータ達の足元で吠えて威嚇する
なのだが――
あ、かわいい～
きゃう？
玉藻はリザに
ひょいっと抱き上げられ
魔王ちゃん、思い出すな～
ほらほら、どう？ 気持ち好い？
きゅう
リザの魔性の手で
玉藻は思いっきりもふられる
しかも――
ご飯食べるかな？
あまり物だけど、食べる？
きゅう♪
餌付けまでされ
あっという間に玉藻は陥落した
玉藻のヤツめ～
微かな頼み綱も役に立たず
こうして我は
勇者を誘き寄せる場所に行く事になったのだ
