お昼ごはん後のデザートを堪能した我は
新たなる配下育成のため
そこに居た
お昼ごはん後のデザートを堪能した我は
新たなる配下育成のため
そこに居た
玉藻《たまも》よ、おるな?
きゅ♪
家から幾らか離れた林の中で
我が呼びかけに応え
玉藻が現れる
きゅ、きゅ~♪
はっはっは。そんなに
我に拝謁できるのが嬉しいか
白の子ぎつねに見えるこれは
そう見えるだけで狐ではない
魔力を食らい成長する魔獣の幼体なのだ
なにゆえ人類圏に
おったのかは知らぬが
偶然とはいえ出会えたのは
僥倖《ぎょうこう》よ
魔王として力を取り戻すべく
鍛錬目的で訪れていたここで
腹を空かし弱っておった玉藻を
見つけた時は小躍りしたものである
なぜなら――
ふふふふっ、相も変わらず
良い毛並だの~
きゃう♪
そう、この毛並。この毛並みが素晴らしい
最初汚れておったので
家から持ち出したタオルで拭いてやり
くしで毛並みを整えて
今では、さらさらのもふもふ、なのである
まぁ、転生前の
我の毛並には
劣るがな
しかしこの毛並みならば
世界を獲れる美しさよ
我が配下にするにふさわしい
玉藻が大きくなった暁には
我が背に乗り魔王として
凱旋するも良いであろうな
などと、まだ見ぬ未来に
我が笑みを浮かべておると
きゅっきゅっきゅ~
きゃうっ!
匂いで気付いたのか
我が持って来ていた袋の中身を
速く寄こせと言わんばかりに
我に身体を摺り寄せてくる
待て待て、待たぬか
慌てぬでもくれてやる
じゃから袋を噛もうとするな~
我が母に怒られるであろう~
おっとりとした見た目の母であるが
あれで怒ると恐ろしい上に容赦ない
勇者めのヤツの顔にラクガキを
してやった時は三日もおやつ抜きに
されてしもうたからのぅ
あんな目に遭わされるのはこりごりじゃ
幼女な我に甘味は必須なのだ
玉藻も、甘い物は好きじゃからの
ほれ。我が母特製の
林檎パイじゃ
良く味わって食べるのだぞ
きゃう~♪
はむはむっ、きゃう♪
美味そうに食べる玉藻
我が食べる分を削ってまで持って来た甲斐が
あるというものである
ふっふっふ~、よ~く食べて
早く大きくなるのじゃぞ
傍で見ると幼女が野良狐に
餌付けをしているように見えるだろうが
それは違う。断じて違う
玉藻が食べている間に撫でたり触ったり
存分に、もふったりしているように見えても
まったくもって違うのである
まぁ、多少の役得は
否定はせんがの
言い訳がましく呟きつつも
断じて違うと我は断言する
何故ならこれは、配下の強化に他ならぬからだ
うむうむ、よしよし
我が魔力が馴染んで
おるようじゃな
きゅ?
我は綺麗な毛並みを撫でながら
玉藻の魔力の流れを確かめる
最初の頃に比べて、随分と強くなっていた
よしよし。我が魔力が
順調に血肉になっておるようじゃな
機嫌よく、我は玉藻の成長っぷりを喜ぶ
魔力を取り込み自らの血肉へと
変えることの出来る魔獣の性質を利用して
我は自らの魔力を玉藻に食べさせる物に混ぜ
今まで食べさせていたのだが
それが順調に成果を見せているのが
嬉しくなったのだ
この調子ならば
いずれ知恵も
つけられるじゃろう
そうなれば、我の配下として
正式に契約を結んでやるからの
その時が楽しみじゃ
その時は、お前が知らぬ
昔の配下達のことも
教えてやるからの
きゅう?
ふふふっ、まだ分からぬか
よいよい。共にゆるりと
頑張っていこうぞ
我の話に
不思議そうに首をかしげた玉藻を
我は優しく撫でてやる
気持ち良いか?
ふふっ、どう撫でられれば気持ち良いか
我も良く知っておるからの
あやつらによく
我も撫でられたからの
本当に――
――なつかしいことよ……
何故だか鼻の奥がツンとする
きゅう~
どうした? 寂しそうな
鳴き声を上げよって
心配するな。これぐらいで
我はへこたれはせんのじゃぞ
安心させるように玉藻を撫でてやりながら
我はかつての配下達のことを思い出していた
オータめのヤツは
どうしておるかの
我の2代前の魔王
死と豊穣の魔王「オルクス」の眷属たる
オークであったオータは
切り込み隊長として武勇を見せただけでなく
我に食べろと美味い物を持ってくるヤツであった
……あの子か?
オータの悪友のゴンザも
どうしておるかの?
オータと同じくオークであるゴンザは
果物で作った甘いジュースを
よく持って来てくれたものじゃ
あの子で間違いないだろ
あの2人とよくつるんでおった
リザも、どうしておるかの?
あの子で間違いないよ
ちゃんと下調べで確認した
先代魔王である
断絶と共感の魔王「シルフィード」の眷属たる
エルフであるリザには
よく撫でられたのを覚えている
……本当に、なつかしいの……
無様だとは思いながらも
なつかしい思い出に泣いてしまいそうになる
周囲のことに気付けないほど
我は懐かしい思い出に浸っていた
だからこそ――
きゃうっ! きゃうきゃう~
どうしたんじゃ! 玉藻!
玉藻に吠えられるまで
我は周囲の異変に気付くことが出来なかった
な、なんじゃ!
気付いた時にはすでに
我は、ひょいっと抱き上げられていた
しかも、その相手は――
悪ぃな嬢ちゃん
さらわせて貰うぜ
勇者を、誘き出すためにな
なつかしき、我が配下達だった――