緊急会議を開くということで、今晩予定されていた花見の件はなくなってしまったが、部屋に運び込まれた食事は実に美味だった。箸という異国の食べる道具が使いにくいので悪戦苦闘したが。

 これで目の前にサトミが居なければ、個人的にはもっと楽しめただろうと思う。

 味噌汁が懐かしいだの、刺身なんて久しぶりだの、舌鼓打つ彼女はさきほどの悪魔のごとき所業が嘘のようだった。



 皮を被っているとはまさにこのことだ。これが十七の女だと思うと恐れ入る。これは嫁の貰い手などなさそうだ。

 しかし、近藤の代わりに飛騨が同席していたことに心なしか安堵する。一応、粗相のないように相手をするよう言われたらしいが、飛騨は最初会った時よりも態度が少し柔らかさを増したように思えた。


 明らかに意識しているせいだ……――サトミを。

飛騨零璽

温泉へご案内します

赤石賢誠

あ、温泉って朝やってます?

飛騨零璽

いえ、朝はやってません。

入浴時間は昼の十一時からで、終わりは夜の十時になってます

赤石賢誠

そっかー。朝風呂はないかー

 サトミはほんわか笑って飛騨と和やかにやり取りしている。

 飛騨の方はじっとサトミを見つめたりとせわしないのだが、気づいていない振りだろう。

赤石賢誠

レインフォードさん。ボク、今晩から町中探索しますから、ライト先生と一緒にいてくださいね

レインフォード

今晩から?

赤石賢誠

えぇ。といっても、まずは目撃証言があった羽流川の橋にずっと張り込みするだけですけど。

それでですね!


 じゃん! と彼女はむかつくほどフレンドリーにレインフォードにこの町の警備人の制服を見せてきた。

赤石賢誠

これ、格好良くないですか!?
ボク、これ着て行って来るんですよ!

格好良いでしょう!?

レインフォード

別に。普通だ

赤石賢誠

え……マジっすか……


 格好良く見えると思ったんだけどなぁ、と着物を見下ろしているサトミにぶつぶつと言う。

飛騨零璽

それなら、俺が羽流橋まで案内いたします

レインフォード

それは駄目だ。近藤氏から許可はもらってないだろう

飛騨零璽

……それは、そうですが……


 飛騨は声を小さくつぶやいて、俯いた。

赤石賢誠

そーですねぇ。さすがに、貫徹させるわけにはいかないですし。

同行させるなら、せめて吸血鬼の根城ですね。

近くだとは思うんですけど、飛騨さん気配とか察知できません?

飛騨零璽

……すみません。分からないです

赤石賢誠

ですよねー。

分かってれば飛騨さん、単身突入して殺されてたでしょうからね


 笑顔で物騒なことを言うな。

赤石賢誠

ということは、遠方から飛んできているか。

あるいは、この町の中で一部だけ結界が張ってあるか……


 ぽつり、サトミは呟いた。

赤石賢誠

町中を練り歩いてみました?

飛騨零璽

……仕事があるので、そこまでは……

赤石賢誠

この場所から何メートル先まで魔力感知できるんだろう。試してみようかな……て、

あ。駄目だ、通信魔道具、一個しかないんだった。えーっと……どうやって逆算するかな……

レインフォード

サトミ。彼を巻き込むな。こういうのは君達の仕事だろう。

現地の一般人をあごで使おうとするな

赤石賢誠

すみません。ボク、仕事の仕方が基本的に現地調達なんですよ。

使えそうな人間を現地で見つけてお手伝い願うんです。

そうすれば、人件費カットできるじゃないですか

 実に節約的な考え方にイラっとしたのは言うまでもない。

 普通、戦いなれた仲間を連れて行くものだろう。そっちの方が連携も取れていざというときの対応はしっかりできるはずだ。

レインフォード

そんなので今までよく仕事などやってこれたな

赤石賢誠

だって、ボク以外のみなさん優秀ですからねー。

ボクなんか、足元にも及ばない

 へラッと笑って彼女は飛騨から地図を貸してもらい、部屋に戻って仲間達と作戦会議を開くことになった。
 もちろん、そこにレインフォードも参加を申請すれば、あっさりと彼女は承諾した。



























 場所は変わってギルドご一行の部屋……一室。というか、サトミは野郎二人と一緒に寝るようだった。敷布団が三つ、ぴったりと並んでいた。

レインフォード

この女には、色々危機感というものが無いのか……?

赤石賢誠

えーっと。宿を出たら右に行けばいいんですよね?

ライト・ネスター

違う。左だ。左斜め上に……

赤石賢誠

え? でも、ここの地図……

飛騨零璽

こっちが東です

赤石賢誠

うわぁああん! 地図なんて嫌いだぁぁああ!

 地図を所望した本人が地図に覆いかぶさるように嫌いだとか抜かす。

 というか、地図もろくに分かってない、こんなのが本気でリーダーで大丈夫なのか。いざというとき、本当にこいつで大丈夫なのか!?

赤石賢誠

やっぱ今から空飛んで現地確認してくるーう!

ライト・ネスター

やめろ。怪しまれるだろ。
ヴァンパイアは空を飛べる。
見られたら疑われる

ルームフェル

だから、俺が着いていくと……

赤石賢誠

駄目です。ルームフェルは大事な探知機なんですから、餌にはできません

飛騨零璽

それなら、俺が案内を……

赤石賢誠

いや、飛騨さんはルームフェルと同じくアンデット戦に備えてもらいたいのですよ。

ぱっと戦い方見てましたけど、あんまり体術得意じゃなさそうですし、細いですしモヤシですし、なんかすぐ折れそうなので下手な体力の消耗は避けてもらいたいです


 重要な時にお願いしますという、とんでもない申し出をさりげなくねじ込んでいるサトミに少々苛立ったが仕方が無い。今晩、彼女の行動が分かっただけでも良しとする。

レインフォード

私も駄目か?


 ルームフェルからまた睨まれたが仕方ない。さっきは少しやりすぎたと自分でも思っている。
 その件についてはすでに謝罪した。笑顔で許すといってはいたものの、彼女の心情は正直、許してはいないだろう。なんとなくそう思う。

赤石賢誠

単純に考えてくださいよー。

今回の護衛対象を連れ歩く趣味がある阿呆が居たらそいつは護衛の仕事なんてやる気ないんですってば

レインフォード

昼間は連れて行ってくれたようだが?

赤石賢誠

夜と昼では、アンデットの力に差がありますから。

昼は弱まるんです……弱まるのに、変ですよねぇ、マスター?


 そう声を通信機をこつこつ爪で叩くと、黄色の宝石からまたギョロリと目玉が飛び出した。
 そして通信機からそうですね、と声がする。

普通、魔族は太陽の下を歩くのは体力を異常に消耗するため、普通はそれを避けるモノなのです、今回普通に出てきましたよね

飛騨零璽

それは、何でですか?


 飛騨が、静かに問いかける。

太陽の光というのは、生きている人間にとっても実は害があるものなんですよ。

私達の頭に生えている髪とかは特に、太陽から頭部を保護するために存在しています。

肌は焼けると皮が剥けますよね?
あれも表面の皮は正直死んでいるようなものです。

ですが生きている人間には肌の再生能力が備わっているから中にまた新しい皮ができると剥けるわけですが、死んでいる死体……グールやゾンビには肌を再生する能力がないんですよ。

つまり、日光に当たって肌が剥けても身体の内部まで焼かれていってしまうのです。

死体には身体への損傷が大きすぎるんですよ


 吸血鬼や悪魔達が嫌うのもそれが理由だ。
 彼らは生態こそ人間とほぼ同じだが、肌を焼かれると強いダメージを受ける。

赤石賢誠

はーい、マスター。

ボクも疑問があるんですけど、悪魔も吸血鬼も物理的にはダメージに強いですよね?

それに、再生力だってボクらより高いじゃないですか?

なんか矛盾してません?
それなら太陽の下歩けそうなのに、なんで歩けないんですか?

ミス・サトミ。良い着眼点です。

これが世界の不条理を作り出したという『神』の悪質さが露呈しているところです。よくお聞きなさい




 確かに、魔族は再生力が高い。傷もたちどころに癒える。

 敵に回ればとても厄介な連中だ……――だが、たちどころに癒えても苦痛は伴うのだ。

 つまり、ダメージを受けてもすぐに直る。致死にいたる攻撃を食らっても身体が再生する……――それは、死ぬまで続く。


彼らには太陽の光に弱いという体質を与え、無駄に高い再生力を与えることで苦しみを増幅させ、与え続けるんです。

吸血鬼も悪魔も太陽の光を浴びてもすぐには死なないでしょう?

それは激痛を与えて、もだえ苦しませる。

日光を浴びると彼らは絶対にその痛みに耐え切れず陽の光から逃げることで高い再生力を発揮し、その命を長らえる……――永遠ともいえる苦痛を与え続ける最悪のサイクルを生み出すための体質なんですよ

赤石賢誠

うわ……人間でよかった

えぇ。一思いにやっても死なないのが彼らなのです。

ミス・サトミには関係ありませんが、よく覚えておきなさい


 目玉通信機は、発する。

それでも彼らだって生きているのです。

生きていたいんですよ。

どれだけ理不尽な目に遭おうとも、ね
























 夜の九時。女性が歩くには危険な時間だ。

 普通ならそうだが、サトミに関しては別だろう。

 レインフォードは、レザールに言う。


レインフォード

レザール。少し出る

レザール

どうしても行かれるのですか

レインフォード

あぁ……彼女には、話しておかねばならないことがある








 そんなやり取りを経て、レインフォードは今、羽流橋へ辿り着いた。


 彼女は警備隊の服に着替えて橋の淵に身体を預けて川の覗き込んでいた。
 レインフォードは、それに歩み寄る。

 残り数十メートルというところで彼女はレインフォードに気づくと、ただ微笑んだ。

赤石賢誠

来ると思ってました

レインフォード

帰れとは、言わないんだな

赤石賢誠

帰りたいって言わせる方法知ってますから


 お隣どうぞ、と彼女は橋の上から月を見上げた。
 ぱっと見れば、彼女は本当に男のように見える。

レインフォード

サトミ。吸血鬼の根城を発見したら、飛騨の代わりに私を同行させてくれ。頼む

赤石賢誠

レインフォードさん。言っておきますけど、行っても役に立たないですよ

レインフォード

分かっている。

アンデットとの戦いは、剣術しか磨いていない私には向いていない相手だろう。

しかし……――










 ここからが、勝負だ。

 もしカロンの言うことが本当なら。

 口八丁、言葉並べて彩り飾り立て、この女を騙すぐらいならできる。








レインフォード

どうしても、行きたいんだ

赤石賢誠

どうしてですか?

この港町のためになることならやりたいってんじゃ、理由は弱すぎますよ。

それは飛騨さんの方が圧倒的に強い。貴方なんかよりもずっと

レインフォード

それもあるが、それだけじゃない。

今朝、君は言ったな。
前世が住んでいた地に近づくと、その記憶が呼び起こされることがあると。

そして、私はある男性と再会の約束をしていたようだった

赤石賢誠

あぁ。婚約したいぐらいの……――

レインフォード

違う

レインフォード

また、お前の元に戻る。

今度こそ、お前を守り抜く……そう言って、私は死んだらしい。

だが、それだけじゃない






 前世の自分は、その男にこうも言っていた。


 だから死ぬな。爺さんになってもポックリ逝くな。



レインフォード

昼間、桜の下で近藤氏と話してたんだ。

彼はなぜか、私と居ると懐かしい気持ちになると……――そして、彼は友人と、桜の木の下で約束したとも言っていた





 必ず、この地に帰ってくる。


 だから簡単に死ぬな、と。


赤石賢誠

……もしかして、近藤さんが前世のご友人……?

レインフォード

ハッキリ言って、確証は無い。断片的なものでしかない。

だが、私の夢に出てきたのは桜の木だった。

そして、彼の友人も桜が好きで、その桜の木の下で再会の約束した……――私の死に際も、燃える桜の下で、再会を誓っていた。

輪廻を超えて、その先で、必ずお前に会いに行くと……――



 レインフォードは、言葉を切る。

 嘘は言っていない。その可能性が、あるような気がしてならないのだ。



 いつもの自分なら、この町が危険だと分かれば仲間達のためにも早く離れることを選択する。
 自らが先立って事件に首を突っ込むことなどしないのだ。


 それは仲間達の命を脅かすことにもなるからだ。




 だが、今回は違う。

レインフォード

どうしても近藤氏の力になりたい。この町が、平和に暮らせるように、どうにか手を貸したい……――そんな考えばかりが頭から離れないんだ。

私は実際のところ、異国に憧れはあるが冷めやすい質なんだ。

ここまで、小さな町のことを思ったことがない



 ギルドの悪魔は、橋に身を預けて俯いている。

レインフォード

どうしても飛騨を行かせたくない。

彼が近藤氏にとって大事な人間なのは明らかだろう?

もし飛騨に万が一があって、彼が悲しむ姿を見るのは、正直嫌なんだ……――



 もうこっちなぞ見ていないサトミ。

 今、ずず、と鼻をすする音がした。

レインフォード

……サトミ? 寒いのか?

赤石賢誠

い、いえ……

レインフォード

ん? なんか、すごく声が潤んでないか……?




 サトミ、と肩を掴むと、彼女はレインフォードを見上げた……――ものすごく顔面が濡れていた。

 涙と鼻水でびしょびしょだ。女子として恥のかけらもないぐらいに、ものすごく泣いてぐちゃぐちゃである。

サ、サトミ? おい、大丈夫か……?

赤石賢誠

だ、だがら、あんなに必死だったんですねぇ……!



 ごしごしと借り物の服を拭う。

 しかし、彼女はまたくしゃっと顔を歪めると、ついに限界点を超えたようだった。

赤石賢誠

うわぁあああああーーーーーーーん!

レインフォード

泣き出した!?




 人気は無いが、彼女は本当に人目もはばからずに大声で泣き始めた。

 静寂で澄み渡っている空気は彼女の泣きわめく声を木霊させた。


レインフォード

おい、サトミ!
大声で泣きすぎだ!! 人目につく!

というか、私が泣かせたみたいだから、やめてくれ!!

赤石賢誠

だってぇ……! なんか、スゲェ展開で……うわぁあああん!

もうやだぁあああ! この仕事ぉおおおお!

レインフォード

おい!?

赤石賢誠

絶対本に書くぅうううーーーー!!

レインフォード

何を本に書くつもりだ!?
というか、どういう展開なんだ!?



 ずびぃー! と鼻をかんで、泣き止むまで五分は格闘しただろか。青白い月明かりの下、レインフォードはようやく気が落ち着いたサトミの隣で、ほっと一息吐いた。

赤石賢誠

このクソ我儘ボンボンめ、引っ込んでろとか思ってましたけど

レインフォード

おい。突っ込んでいいな?

赤石賢誠

でも、そういう理由なら、承諾します

レインフォード

……私の、同行を許可してくれるのか

赤石賢誠

はい。もちろんです。
あと、ヴァンパイアの根城へは飛騨さんを連れて行かないことにします

!?

そ、そうか! ありがとう、サトミ!

赤石賢誠

いえ、良いんですよ……ボク、だからこの仕事、嫌いだけど好きなんです



 思いの他、話が進んで呆気ないとは思った。
 場合によれば、一戦交えるぐらいの覚悟でいたが……カロンの言ったことは本当だったということだ。

 感情に訴えかければ、ころっといく。

 しかし、先のやりとりを見ている限りだと、この言葉をそのまま信用することはできないが。


 彼女はまた橋の下の川を覗き込むように身を預ける。

赤石賢誠

この仕事をしているとですね。時々、前世が密接に絡み合って、物語が生まれるんです

レインフォード

……物語が、生まれる?

赤石賢誠

えぇ。皆さんは当事者なので、本当は他人事じゃないんですけど……ボク、こういうのに会うのが、本当に嬉しくて……悲しいなって思うんです




 本当に、先程から言っていることが正反対だ。


 仕事は好きだけど嫌いだとか。

 嬉しいのに、悲しいと思うだとか。


赤石賢誠

きっと、ここに居る人はみんな大事な配役を与えられて、ここに居るんだって思ってしまうんです。

ここで死んでしまう人も、ここで助かる人も……――この事件の舞台こ立った人に、きっと不要な人はいないんだろうな、って




 ポツリと、サトミは語る。語り続ける。

 正直、レインフォードには意味が分からないが、一応聞いておかねばならないだろう。

 仮にも、たった今、飛騨の同行を取り下げると言ってくれたのだ。


赤石賢誠

運命論って言うんですかね。

きっと、こういう輪廻転生の繋がりのために、今回の事件が起きているのかもしれないって思ってしまうのです。

今回、レインフォードさんがこの地に仕事に来れたのは、近藤さんと出会うためだったんじゃないかなぁって。

それって、素敵なことですよね




 意外に、女性らしいロマンチックなことを言う。

 それに、その泣きはらしても浮かべる笑顔は、とても嬉しそうだ。


本当に、さっきの
悪魔のごときの所業が
嘘のように見える


赤石賢誠

大丈夫ですよ、レインフォードさん。

ボク、絶対レインフォードさんのことも近藤さんのことも死なせません。

絶対に、この町のことも護ります

レインフォード

……

赤石賢誠

だって、せっかく幾星霜の時を越えて、魂が巡り合ったんです……

ずっと仲良くいられうように、応援してあげたいです








 ――あぁ、きっとサトミが言いたいのは、こういうことなのだ。

 本当なら、この出会いは奇跡なんじゃないのか、と。



 私達の出会いって運命だと思うといわれたことはあった。

 それは女性からの口説き文句のようなものだ。




 だが、この状況で繋がる『この出会いは運命』という言葉は、ずっと重たい。



 この世界は広い。



 広い世界で、前世からの友人に出会える確立とは……果たして天文学的にありえる確率だろうか?






 それは、きっと本当に稀少なことなんじゃないだろうか。

 だから彼女は、この仕事を始めたんじゃないだろうか。
 格安なのは、そういう魂と出会う回数を増やすため。



赤石賢誠

さぁ、レインフォードさん。

今日はもう帰ってお休みください。
また明日、色々調べモノをしましょう

レインフォード

こんな夜遅くにレディを置いておく主義ではないんだが

赤石賢誠

レインフォードさん、人具出してくださいねー




 すると、サトミは突然、レインフォードの足元に人具で真っ赤な板を作り上げると、そのまま宙に浮かして川の真上まで移動させる。

赤石賢誠

では、今から川に落としまーす

レインフォード

おいこら!
話が違うだろう!

赤石賢誠

いえ、ボクはさっき言いましたよ?
帰らせる手段はありますって。

でも面白いこと教えてあげます。

武器系の人具って、遠距離武器は飛翔させることが出来るじゃないですか?

中には普通の近接武器でも宙に浮かぶものもあって、それに掴まることができれば落下は阻止できます

レインフォード

は?

赤石賢誠

要はさっき、レインフォードさんがボクののど笛狙って人具投げたみたいな感じですよ。

あれは突き刺され、と思って人具を打ち出したわけじゃないですか。

なら、人具に宙に浮いてろ! と思っていれば浮いててくれるわけなのですよ

レインフォード

おい! 意味が分からな……!

赤石賢誠

三秒後に人具はずしまーす!




 笑顔でそう宣言するなりカウントダウンを始める。

 レインフォードは言われるままに人具を出して、とりあえず、宙に浮いてろ! と強く念じた……――その直後、本当に足元の赤い板は砂金となってキラキラと川へ降り注いだ。


 すかっと足元から無くなった支え。

 一応、念じたものの、人具はレインフォードの手の中に握られているだけだった。

 身体が、落下していく。

レインフォード

おいぃいいい! 本当に消したな!

赤石賢誠

駄目ですよ、レインフォードさん。

浮いてるように念じるのに加えて、貴方の体重を支えられるぐらいに魔力注がないと。

武器は本来、人を乗せて支えるような使い方はしないんですから

レインフォード

それを先に言えぇぇえええーーーー!

 結局、落下。

 すぐさまサトミに救助され、彼女の人具で宿まで護送。

 そのあと、その宿屋の主人達に頭を下げながら風呂を入れなおしてもらったレインフォード坊ちゃんは再び橋の監視へ戻ったというサトミに心の底からの恨みを風呂場でぶつぶつ唱えるのだった。 

第二章 『神』に呪われし者(参)

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