地底都市アンカーで下民が暮らしていくのは
そんなにも厳しかったなんて。

もし僕がこの町で生まれ育っていたとしたら
暮らしていけただろうか?
いや、きっと無理だと思う。


ニーレさんやエルムくんは
僕なんかよりずっと強い。

同じ下民であっても
どれだけ僕は恵まれていたのかって
あらためて感じる。
 
 

ライカ

あの、町を出て
ほかの土地で暮らすという
選択は出来ないものでしょうか?

リム

捕まって奴隷になりたいのか?

トーヤ

奴隷っ?

リム

町には奴隷商人が
たくさん出入りしているからな。
力なき者がうろうろしていたら
確実にそうなる。

 
 
そういえば、この町へ来る途中で
痛めつけられている下民の奴隷を見かけた。
もしかしたら逃げだそうとして
捕まってしまった人なのかもしれない。


同じ魔族なのに、同じ生命体なのに
なんでそんな違いを付けるんだ?

おかしいよ、そんなのっ!


僕は悔しさと怒りで、思わず唇を噛む。
 
 

リム

街の中でそんなことをすれば
当然すぐに役人に捕まる。
なぜなら彼らにとって
それは自分の点数になるからな。

リム

だが、町の外に出れば
その目も届かない。
わざわざ町の外まで見回りに行く
熱心なヤツもいない。

クロード

自分の得になること以外は
やらないというわけですか。

リム

そういうことだ。
だから出たくても出られない。

リム

さて、私は狭間の羽を生成する。
シロタイヨウゴケを描いた
スケッチブックも持ってこよう。
お前たちはその間に
探索の準備をしてくれ。

カレン

分かりました。

 
 
リムさんは自分の研究室へ入り、
狭間の羽の生成作業を始めた。

一方、僕たちは遺跡探索に必要な
最低限の荷物をまとめていく。


水、携帯食料、何種類かの薬、
照明器具や燃料、そのほか様々なツール――

そして僕はナイフとフォーチュン、
万が一の時のための銀の弾。
今回は銀が苦手なんて言ってられないもんね。







 
 
  

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
やがてリムさんが狭間の羽を生成し、
戻ってきたころには
僕たちの準備もほぼ整っていた。

あとは出発するだけという状況になり、
僕はみんなに向かって声をかける。
 
 

トーヤ

ねぇ、みんな。
相談があるんだけど。

カレン

どうしたの、トーヤ?

トーヤ

エルムくんも一緒に
連れていってあげてもいいかな?

エルム

っ!?

 
 
その場にいたエルムくんが
一番驚いているようだった。
まぁ、このことを話してなかったしね。

僕は真剣な眼差しをエルムくんに向け、
手を差し出す。
 
 

トーヤ

一緒に行こう、エルムくん。
小さな力でも合わせれば
大きな力になるもんね。

エルム

トーヤ様……。

トーヤ

実はね、僕も下民だったんだ。

エルム

えっ?

トーヤ

今までたくさん困難はあったし
努力も必要だった。
だけどそれを乗り越えれば
出来ることもたくさんある。

トーヤ

その覚悟があるなら一緒に行こう!

 
 
僕の言葉を聞いたエルムくんは
表情が晴れやかになっていった。

そして鼻を啜りながら笑顔で僕の手を掴む。
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 

エルム

もちろんですっ!
僕は姉ちゃんを助けるためなら
なんでもしますっ!

トーヤ

うんっ!

トーヤ

みんな、お願いだよ。
エルムくんは僕が面倒を見る。
だから彼を
連れていってもいいでしょ?

カレン

ダメよ!

トーヤ

カレン……。

カレン

一緒に行くのなら、
それはもう私たちの仲間ってこと。
だったらトーヤだけじゃなく、
みんなで助け合うのが道理でしょ?

トーヤ

カレンっ!

エルム

あ……あぁ……。

 
 
やっぱりカレンは優しい。
いつも僕やみんなのことを理解してくれて
助けようとしてくれる。

僕はカレンのそういうところが大好きだ。
 
 

クロード

私も同じ気持ちです。

ライカ

えぇ、カレンさんの言う通り。
助け合っていきましょう!

サララ

ですですっ!

エルム

皆さん……うぐ……。

トーヤ

よろしくね、エルムくん。

リム

ふふっ、お前たち……。

サララ

ところでっ、
私、リムさんに質問があるんです。
気になっていることがあって……。

リム

ん? なんだ?

サララ

遺跡を脱出する方法って
狭間の羽を使うしかないんですか?

リム

そんなことはない。
出入口に辿り着けばいいんだ。
ただ、そんな戻り方をしたヤツは
聞いたことがない。

クロード

無限大の選択肢の中から
1つの道を選ぶわけですから
確率的にゼロに近いですよね。

リム

……あ、でももうひとつの方法なら
戻ってこられた例があったな。

 
 
リムさんは小さく息を呑みながら
ポンと手をついた。

もうひとつの脱出方法ってなんだろう?
 
 

サララ

それは?

リム

遺跡の最深部に祭壇がある。
そこにはゲートがあって
遺跡の外へ出られるとか。

リム

今のところ、判明しているのは
その3つの方法だけだな。

サララ

そうですか。分かりましたぁ。
覚えておきますね。

リム

急げよ?
ニーレの容態はあまり良くない。

トーヤ

分かりましたっ!

 
 
僕たちはリムさんから
狭間の羽をひとつずつ受け取ると
施療院を出発した。


目指すは帰らずの遺跡。
そしてシロタイヨウゴケを手に入れるんだ!
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

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