飛行中に目玉通信機と合流したサトミはレインフォードを閉じ込めたまま現地へと案内される。
目玉通信機の主は、ギルドマスターのカロンだった。
レインフォードが同行する際、サトミに宣言した言葉は、通信魔道具に新しく追加された機能『録音』によりその証言はガッチリ確保され、ギルドマスターからも許可を下される形で同行が正式に受理され、さすがに、檻は目立つと出してもらえた。
赤い檻は溶けるように天蓋と側面を外すと、中に浮いたままグネグネと蠢きながら小船を形成し、そこにレインフォードは腰を下ろした。
飛行中に目玉通信機と合流したサトミはレインフォードを閉じ込めたまま現地へと案内される。
目玉通信機の主は、ギルドマスターのカロンだった。
レインフォードが同行する際、サトミに宣言した言葉は、通信魔道具に新しく追加された機能『録音』によりその証言はガッチリ確保され、ギルドマスターからも許可を下される形で同行が正式に受理され、さすがに、檻は目立つと出してもらえた。
赤い檻は溶けるように天蓋と側面を外すと、中に浮いたままグネグネと蠢きながら小船を形成し、そこにレインフォードは腰を下ろした。
この赤い硬質物はいったい、何が人具となっているんだ?
ボクの人具です
いや、それの正体を聞いているんだが
ボクの人具です
答える気がまるでないな
そろそろ着きますよ
空船はまっすぐ東へと突き進み、外れの方にある小さな建築物が見えてきた。
それは、神などを祭る祠だ。岸壁を刳り貫かれるように建てられている。
レインフォードの肉眼でも麦の粒のような人影が見えた。
とたんに空船は下降し、着地、現場までは走っていく……のかと思いきや、サトミは足元にまた彼女の人具らしい真っ赤な乗り物を作りあげた。
形としては自転車に近いのだが、サドルは二輪車用というよりも、競馬で馬に乗る時に使用されるモノが長く伸びていて。ボディー部分は鉄の棒なんてシンプルなものではなく滑らかな物体があてがわれていた。
前方部分にはメーターやら何やらも取り付けられており……――。
これ、格好良い……!
もう少し正確な余談をすれば、マフラーとかリアクショックアブソーバー、エンジンだけではなく、タコメーター・スピードメーター、クラッチ・前輪・スロットルレバー、ディマースイッチまで事細かにバイクが真っ赤に再現されていたのだった。
サ、サトミ! これは一体、何なんだ!?
バイクです。はい、これ被って
頭をすっぽり覆うような丸い帽子を被せられ、サトミはグリップを作ってバイクなる乗り物に跨った。
乗ってください
ま、待て。狭くないか? もう少し広くても……
置いてきます
分かった! 乗る!
慌てて跨れるが、そうなると自力でバランスを取らなくてはいけないのではないのか、と困り果てる。
何やってんですか。掴まってくださいよ
えっと、どこに……?
個人的に、女性の肢体に必要以上に触れるのはなんとなく憚れる。
しかし彼女は容赦がない。
胸に掴まるという変態的な度胸が必要だと思ってるんですか?
腹ですよ、腹回りに腕を回してください。
それとも、振り落とされたいんで……――
それは名案ですね。
自分の命は自分で守るって明言してますし。
じゃあ、落ちてください
自己完結後に急発進されたため、レインフォードはサトミの腹周りに腕を回すしかなくなった。しかし、あまりのその速さに変な想像をしていた自分を呪いたくなる。
ぴゅん! と飛んでいった目玉通信機は予想以上に早く、それをバイクが追いかける形になったのだ。しかも突然曲がるし、ぎりぎりで壁に激突しそうになるし、乗っているこっちはしっかり掴まっていないと曲がるたびに本気で振り落とされそうになる。
ぶつかる!
ぶつかるから!!
減速を!
ミス。また奇怪な乗り物をお作りですね
化石燃料を動力源とした二輪車です。エンジン部分で高電圧を発生させ、化石燃料を発火させる。その際、化石燃料が燃焼時に引き起こす爆発を推進力に変換して高速移動を可能にする乗り物……だったはず
面白そうな乗り物ですね、ミス。今度詳しく作り方を教えてください
知りません。たぶん、こんな原理です
なるほど。また浅く知ってるだけということですね
まだ着かないのか!?
もうすぐですよ、レインフォード氏。もう少々お待ちを
たった数分だが心臓が破裂せんばかりのドキドキ体験したレインフォードはようやく、先に待っていたルームフェルと合流する。
彼は様子を覗きこんでいた顔をこちらに戻す。
バイクが傾き、片足がついたかと思うと真っ赤なバイクはぱぁん! と弾けて黄金の砂塵を撒き散らした。
同時に頭の帽子も外れ、頭部を囲っていた圧迫感は消え去ったのだった。
お待たせしました、ルームフェル。様子は?
……面を被っているが 飛騨で間違いない。応戦中だ
何故か、思いっきり睨まれているんだが
だが問題は敵の方だな
やっぱり、アンデット?
あぁ。間違いない。
だが、あの服……――
レインフォードもサトミの上から覗きこむ。
そこに立っているのはどっちも人間だ。
どちらも着物を着ているからこの国の人間。その服は、この町を警備するため巡回している警備人の服装だった。
ボロボロで、傷だらけだ。
それに対峙しているのは、仮面を被っている人。
飛騨らしいが、さっき着ていた服とは全く違う、襤褸切れのような着物。
全身が、傷だらけだ。
沸騰するような高熱は
一瞬にして頭の中を
真っさらな白に染め上げた。
激情が一瞬で全身の隅々まで行き渡る。
ここまでの緊張を、
ここまでの体験を、
ここまでの疲れさえも
麻痺させて、足が、地面を蹴る。
真っ直ぐ、真っ直ぐ。
三○、二〇、一○メートル
と
縮まっていく
九、八、七、
秒速で。
六、五、四、
赤き魔力を手元に集中させて。
三、二、一……──
緩やかなカーブを描いて
横に伸びた魔力が弾け飛ぶ。
赤き炎が
荒ぶり猛るその身を
白銀の刀身に絡み付く。
空気を引き裂いて、赤き炎は敵の肩口を右斜めから下り、左脇腹へ抜け落ちた。
空に描かれし赤き偃月は、罪人の身体に焼印を刻み付けた。
一瞬にして突っ込んでいったレインフォードは二者の間に割り込むと、
迷いなく、
躊躇なく、
警護人の方をガッチリ、ザックリ、バッサリ切り捨てたのだ。
しかし、振り向いたレインフォードが浮かべている形相にサトミはそれ以上の言葉が喉の奥に引っ込んだ。
無表情にしては、あまりにもその鬼気迫る気迫にサトミは何も言えなくなったのだった。
レインフォードのその表情は、まるで鬼のように見えた。
否、『まるで鬼のように』と言うには柔らかい。
『鬼』……──。
そのまま『鬼』と表現して、おかしくない。
大丈夫か、サトミ
……う……だ、大丈夫だけ、ど……あの人……
サトミはもう一度前を向いて、レインフォードが尻餅ついた仮面を被っている男を見下ろしている光景に目をやる。
あのまま飛騨まで殺しかねないような形相だ。
明らかに、ヤバイ。
あれは、絶対に人間を殺すような睨みである。
もしかして、今朝、サトミがあえて聞かないでいた夢の内容がやばかったのでは……──。
男と結婚しようと言ったみたいだが。
レ、レインフォードさぁあ、ん?
ちょっと、呼び掛けてみた。
おそるおそる呼び掛けてみた。
へっぴり腰で聞いてみた。
彼はぴく、とちょっと震えると、仮面を乱雑に取り上げた。
バカ野郎!
一人で何やってんだ、危ねぇだろ!
驚いて固まっている飛騨にの手を掴んで、引っ張り起こす。
彼の無事を確認したレインフォードは、飛騨に少しの掠り傷があることをその場で報告してくる。一応大丈夫とのことだった。
それは、ドラゴン飛行船で共に過ごしてきた、いつものレインフォード。
今までの彼だ……──サトミはほっと一息点吐く。
まだ、持って行かれていないのか。
それとも、サトミが知らない彼の戦闘時の姿なのか。
まだ、それはハッキリ分からないが……――。
マスター。そういえば、さっき報告し忘れてたことがあるんですけど
何ですか、ミス・サトミ?