飛騨達の案内でやってきた宿には放り込まれるように客室へと連れて行かれるなり近藤を呼んでくると言った飛騨はすぐに去っていった。
ここに案内されるまでの間、えもいわれぬ物々しさがレインフォードには気になった。
レインフォード一行を囲むようにいた侍達は、きょろきょろと辺りをしきりに見回していた。
何かに警戒している。
それだけはハッキリ分かった。
二部屋に案内されたレインフォード達はその一室に仲間二名と、サトミ、ライトと一緒に近藤が来るまで待機という形になっていた。
飛騨達の案内でやってきた宿には放り込まれるように客室へと連れて行かれるなり近藤を呼んでくると言った飛騨はすぐに去っていった。
ここに案内されるまでの間、えもいわれぬ物々しさがレインフォードには気になった。
レインフォード一行を囲むようにいた侍達は、きょろきょろと辺りをしきりに見回していた。
何かに警戒している。
それだけはハッキリ分かった。
二部屋に案内されたレインフォード達はその一室に仲間二名と、サトミ、ライトと一緒に近藤が来るまで待機という形になっていた。
魔力が清浄だと、何で格好良く見えるんだ?
気になりますか?
そりゃあ、あれだけ言われれば気になる。絶対的な違い……とかな
致命的なんですよ……。
そう! ボクには致命的なんで!
顔を真っ青にして、彼女はレインフォードに詰め寄った。
思いっきり顔を近づけてくるので、その華奢な肩をやんわりと掴んで引き剥がす。
まず、説明するには、魔力が全部同じじゃないって説明からですねー
魔力は、一人一人違うものだ。
これは、人間が持っている指紋と同じだ。
人間が持つ魔力にも個人差があり、オンリーワン。
一人として、同じ魔力はない。
だが、その中でも属性というのは存在する。
魔力の基本属性は六種ある。それは人具にも反映される。
赤の『火』
橙の『変化』
黄色の『雷』
緑の『風』
水の『青』
紫の『召喚』
水の上位属性には藍の『氷』、黄色の上位属性には白の『光』。
もちろん闇という属性もあるのだが、それは術者の心次第。悪く在れば魂もよどんで濁る。人間は誰しも心に闇を持つように、魂が持つ色も黒く染まっていく。己の持つ人具の色が、暗くなるという。逆に、正しい行いをしていれば明るい白よりの色になるという。
だが、藍の『氷』や変化の『茶色』は暗い色だろうと論議がなされていながら、一応は例外に位置されている。
水属性だった術者が長い修行の末に藍色へ変化したという例があったからだ。
その人は最後まで誰かを救うために世界各地を飛び回るボランティア活動をしていた治癒師(ヒーラー)。
まだまだ解明なされていないのが実情だ。
そして、賢誠はというと変化の上位属性には茶色の『土』…――。
生まれながらに上位属性なんて素質があるじゃないか
すると、サトミはものすごく怖い顔で睨んできた。
そこでさっき言った『魔力の純度』が関係してくるんです
飛騨は、魔力が清浄である。
それは純度が高いということ。不純物が少なくて、清らかな魔力である。
一方、サトミは魔力に不純物が多い……――汚れていると言っても過言ではない。
だが、それは魔力が『サトミ専用』ということなのだ。
魔力属性を変換する時、属性魔法以外は一度、無色の魔力……――『無属性』へ転換される。それを経てから属性魔法へと変換する。
純度が高い魔力というのは属性魔法を発動する時、効率的に魔力の属性変換をできる。
簡単に言えば、魔力の持っている属性をろ過して透明にする。そのあと、色を加える。
ちょうど、水に赤い絵の具を溶かすと赤くなるような感じだ。
一方でサトミは魔力が自分専用ということで、自分の魔力にあった属性魔法なら使いやすい。だが、他の属性に魔力変換する時、その不純さにより、他の属性に変換させにくい。
スゲェ色濃い茶色い水をろ過する。でもまだ濃いから、もうちょいろ過する。でも、まだ濃いからろ過を……という具合に、ろ過を繰り返してようやく透明になるのだ。
これが、致命的なほど対照的で正反対とも言えるほどの違い。
魔力変換の速度が圧倒的に違うのである。
加えて、清浄な魔力とは外部からの魔力を取り込みやすい。
自分の魔力に馴染ませやすいともいえるのだ。
これも魔力変換能力が高い特徴である。
一方で、サトミ専用の魔力は自分に合うまで魔力を変換し続けなければいけない……自分が使いやすいように、汚さなければいけない。その行程がまた時間がかかるかかる……――。
飛騨さんのように魔力が清浄な方は『聖女』って呼ばれることが多いんですよ。
『聖女』と呼ばれるような存在の『特徴』と言っても過言ではないそうです
人間は魔力が少ないと、何となく気だるかったりする。
聖女の近くにいると何故だか幸せな気分になったり、もっともっと近寄りたくなったり、あるいは神のように崇める信者になるのは魔力を本能で求めている兆候。
つまり、魔力が清浄な人というのは聖女に近いというだけでなく、神や天使のような存在にも近いとも言われる
聖女から放出される魔力は他人も受け取りやすいだけでなく、他人から放出されている魔力も聖女自身は受け取りやすいのだ。
……自然からの魔力補給と魔力互換力が高いのは、天使もそうじゃなかったか?
はい!
天使は人間よりも圧倒的に神力の変換能力が高いです。
自然から、食べ物から、空気から、人間からこぼれて落ちている魔力から。
ありとあらゆる所から吸収することが可能で天使は人間よりもずっと力の補充する能力が高いんです。
人間が一○○を回復するのに三日かかるが、天使だと一日と一二時間ぐらいらしいです
だからこそ『聖女』の特徴……
だから、何となく飛騨に惹き付けられたのか。
彼自身が、聖女と同じ特徴を持っているから、彼がとても普通の人と同じようには見えなかったのか。
えぇ。でも、もっと根本的な話になるんですよ。
聖女と呼ばれる人の最大の特徴はなんですか?
それは、神から信託を受け取れることだろう?
自身に神を降ろし、神からの信託を受けると聞く……――
でも、魔力って魂そのものですよね?
そうだな。
魂から魔力は常に生成されるものだが、足りないと外部から補充することになる。
魔力が不足しいると魂が消滅してしまうからな
ズバリ、と彼女は言葉を紡ぐ。
憑依体質なんですよ!
聖女は神の力も馴染みやすい、超ド級の憑依体質!
ハッキリ言いますとね、神の力も馴染みやすい人間が『聖女』なんですよ!
なるほど、とレインフォードは言葉を漏らした。
ですからねぇ。飛騨さんが一緒にいる時は注意してくださいね
サトミは意味深に、何だか楽しそうに笑う。
レインフォードはこの笑顔を知っている。一度だけみたことあるが、その時に特徴は全部覚えた。
外交は相手の心を読み取るのも必須だ。
ある意味では他人の顔色を伺うとも言えるが、相手がどんな人間であるか見抜くのも交渉には必要な能力だ。
レインフォードは特に、そういう人間性を見抜く感覚に長けている。ほぼほぼ直感だが、外した事があまりない。
そして、サトミがこの笑みを浮かべる時は、きっと。
最悪、襲いたくなるほど惚れます!
誰がそこまで惚れるか!
でもでも、飛騨さんを使いに寄越したということは近藤さんの部下ですよね?
つまり、近藤さんは気に入っている可能性大です!
そこで飛騨さんを襲ったりなんかしたら、今回の交渉はおじゃん!
物騒なことを言うな!
もしくは、近藤さんは凄腕の魔術師ですね。
飛騨さんを最初にわざとけしかけて、今回の交渉に何か一つ盛ってくる
彼女は、今までのふざけたような表情を崩し、至極真面目にレインフォードを真摯に見つめた。
ですから単独行動は控えてください。
今回同行した皆さんにも通達をお願いします。
彼が魔術師なら、ですけれど
分かった。皆に言っておく
もちろん、魔術師だった場合、飛騨さんが色仕掛けかけてくる可能性があるのでご注意を……
おい! 何でそういう話になる!?
理性なんて関係ないですよー?
凄腕の魔術師の弟子の可能性が高いですから、理性ぶっ飛ばすぐらいの魔法かけたりとか、お香を焚いたりとか、あの手この手を使って……
からかってるだろ!?
サトミ。もうそこまでにしろ
今まで傍観していたライトが、サトミをそうたしなめる。
彼女はちょっとだけ唇を尖らせると、サトミの代わりに、ライトが申し訳ないと謝罪をしてきた。
彼女の魔力の特徴のようなものなんです。
からかっていることもありますが、こちらに起こりうる害の可能性を片っ端から示唆しているんです。
放って置けば最高、一〇〇個ぐらいは出してくるので全部覚えられなのですが――。
もし今回、近藤氏が敵であるなら強襲などの対策になるんです。
俺達だけでなく、ギルドマスターも宛てにしていることがあるので、不快でしょうが一応、耳は傾けてやってください
意外に、とライトは続ける。
男が男を襲うというのは、結構、多い事件です
あなたまで言うのか……
ギルドに時々、平民男性が貴族の男性から襲われて助けを求めてくる文書が届くので
男性の依頼率は三〇%と低いですけど、その内五割は同性に迫られて困ってますって内容です
……聞きたくなかった
何ででしょうね?
理性って役に立たないのかな?
何でそこで理性の話が入ってくる
女性と男性の脳の作りが違うんですよ。
女性が感情型で、男性は理性型。
だから女性はヒステリックを起こしやすいけど、男性は結構落ち着いている人が多いんですよね。
でも、メスとオスを分けて籠に鳥を入れると、オスの方はオス相手に交尾しようとするみたいなんですよ
突っ込むべきか……?
まぁ、所詮、女性も男性も未成熟かどうかの差だけでほとんど同じですしね。
好きになっちゃったらしょうがないし、そもそも同性に恋心を抱くのって変じゃないって言うか、普通のことだし。
というか、ぶっちゃけ愛があれば本当なら性別なんてどうでも良くなっちゃうくせに……何が気持ち悪いのか良く分かんないんだよなぁ……。
ぶつくさと、聞いてはいけないようなことを呟くサトミ。
むしろ呟き続けている。
ものすごく独り言である。
しかも、そのあと人間の生態学についてもボソボソ喋りだし……――聞いてはいけないようなR指定なことまで喋り始めるサトミを、慌てて止めに入るライトの姿を見つめながらレインフォードは切に願う。
敵であっても構わないから、早く来てくれ、近藤氏……!
サトミの頭の中の方が危険だ……!