ライト・ネスター

現状は特に問題はなさそうですね

レインフォード

ありがとう、ネスター氏

ライト・ネスター

ですが、体調が優れないようでした報告してください。一応、医者なので











 彼はギルドに所属していながら医者をしている。否、医者でありながら、ギルドの活動もしているという立場だ。彼は元々医者で、それからギルドにも所属した人間だと聞き及んでいる。



 その実力は……――ギルドで第一位の実力者。


 
 レインフォードは去っていく彼の後姿を一瞥して、身支度のため部屋へと戻った。


 正直、鍛えているようには見えない。


 それでも今回はギルドマスターであるカロンがとっておきを選抜したメンバーだと言っていた。戦闘力は高いのだとは思うが、それを信じられるかといえば半信半疑だ。サトミの噂はかねがね聞いているからなんとも思わないが、あの三人の中で一番弱そうというのが正直な話だ。



レインフォード

しかし、予定より早く到着してしまったな……




 この町に以前視察へ訪れたチームは途中で、鳥獣型モンスターが海渡りをしているところに遭遇し、襲われて交戦となった。
 その可能性も踏まえて出立したからだ。


レザール

レインフォード様。

外で近藤様の使いの方がお待ちでいらっしゃっているようです

レインフォード

もう来ているのか。
すまない、レザール。

急いで身支度を整えるから、手伝ってくれ






 かしこまりました、と幼少期より世話をしてくれている年配の執事が入ってきた。













 王家に仕える騎士を排出するフィリル家でも、三男のレインフォードは比較的自由に育てられた。



 長男や次男と違い、家名を継ぐことはない。次男はまだ長男の後釜という家名継承の可能性があるが、三男ともなればほとんどない。

 恐らくフィリル家でレインフォードは異質だ。それでも構わないと思う。




 実力は騎士達に勝らずとも劣らないほどの腕前だ。本来なら三兄弟で国王軍に入隊するところだろうが、レインフォードは国に仕えるという誉れ高い選択肢を選ばなかった。




 きっと、昔から、隣国や諸外国へ行っている商人の話を聞いて、様々な文化に触れてきたからだと思う。




 国の外の話を聞くと、むしょうに行ってみたくなるのだ。訳が分からないほど衝動にかられる。不評な国だったとしても、興味が湧いて行きたくなった。




 危険がつきまとうと言われても構わなかった。



 この貿易商についた時から、そうだった。

 今回の外交も行きたいと志願した。空中戦がある可能性も踏まえるとレインフォードのように商才だけでなく戦闘経験が豊富な方が良いだろうということでの抜擢だった。





















 急いで準備を整え、改めて身だしなみを整えるとレインフォードはドラゴンの空挺を降りる。
 潮風に吹かれてカモメの鳴き声が心地よく届いてきた。

レザール

あちらでございます




 レインフォードはレザールの差し出す掌が向いている先へ顔をやった。

 何やら、五人のいかつい取り巻きを連れている。









 その時、レインフォードは息を飲んだ。








 着ている服は同じ作りの着物と袴。
 いわゆる侍の出で立ちだが、その着物に金糸で胸元に縫いこまれているのは、今回、貿易相手である近藤孝則という領主が掲げている家紋だ。

 使いの者だと思われる、目鼻立ちが整った美しい青年。

 見た目なら、賢誠より少し年上のように見える若い青年だ。



 着ているものが違うから目を引くというわけではない。



 凛としているようで、憂いを帯びている。
 六人の中で、唯一、何もかもが自分達とは違う。



 ダイヤモンドと称すには、稚拙だろうか。

 その透き通った宝玉は、カットの仕方によって千差万別の美しさを誇る。

 美しくカッティングされたダイヤモンドは光の入り具合でひときわ強い煌きを内包させながら、細やかな虹色を乱反射させて見る者の目に、その輝きを焼き付ける。

 

 





飛騨零璽

初めまして、レインフォード・フィリル様。

近藤孝則の使いで参りました、飛騨零璽と申します

 


 彼はその深海色の瞳を向けて、流暢にティルファート語を紡いだ。

 その澄んだ声が、心地よく耳を打つ。

 数々の外交を行ってきたレインフォードだったが、このファーストコンタクトでここまで惹きつけられたのは初めてだった。















 なぜだろうか。



 異様に、緊張する。



 気圧されているというわけではない。



 この青年に、無礼を働いてはいけないという、ある種の直感だ。



 近藤孝則が使いに寄越したこの男に、粗相を働いてはいけない。





 だけれど、同時に……――。














赤石賢誠

お初お目にかかります。

私、レインフォード・フィリア氏の執事、兼、翻訳を勤めております赤石賢誠です。

漢字は赤い石に誠に賢いと当て字でサトミと読みます。

本日から一週間、短い時間ですがお世話になります

飛騨零璽

こちらこそ、どうぞよろしくお願いします。

それでは早速ですが、宿へご案内いたします。

どうぞ、こちらへ。はぐれないようにしてください





 くるりと背を向けた飛騨という青年の後姿を、レインフォードは眺める……――。

レインフォード

痛い。頬を引っ張る必要はないだろう

赤石賢誠

ちょっと防護壁張りますね。
彼、魔力がダダ漏れなんですよ

レインフォード

……魔力がダダ漏れでなんだという

赤石賢誠

彼、格好よく見えるでしょう

レインフォード

まぁ、確かに……この私でも、見惚れてしまうほどだったのは認める

赤石賢誠

それが、彼の零れている魔力と関係あるんですよ

レインフォード

そう……なのか……?



 はい、と彼女はニッコリ微笑む。

 年相応で、そろそろ嫁の貰い手を考えるべき頃合の彼女は、告げる。





































































第一章 日本によく似た港町(弐)

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