と、ギルメンバーズの所へ駆け込んだ賢誠はそう叫んだ。
彼らはというと、いつでも出立できるように準備万端そうだ。
緊急召集ぅううううーーーー!
と、ギルメンバーズの所へ駆け込んだ賢誠はそう叫んだ。
彼らはというと、いつでも出立できるように準備万端そうだ。
【ルームフェル・
ヴァールハイト】
属性……──『水』
職業……──『拳闘士』
所属ギルド……――
ギルド『天御中主』
メンバーズランク……『【S】A』ランク
もう一人は、賢誠の主治医である男性。
【ライト・ネスター】
属性……──『水』
職業……──『賢誠専属医師』
所属ギルド……――ギルド『天御中主』
ギルドメンバーズ・ランク『【S】SS』
今回、賢誠が行くと言い出すと、ギルドメンバー内でかなりの物議があった。その中でも腕の立つものが良いとか、どうとかで大騒ぎになったわけだが……──やはり、賢誠が組み合わせるメンバーで変わりは無かった。
監視されている元暗殺者と、記憶喪失の賢誠を診てくれるお医者さんである。
賢誠は大慌てで今朝やってきた死神の話をする。
賢誠はどうしよう、困った、と言いはするが、二人はきょとんと聞いて、くりーっと首を傾げるだけ。
死神が死を宣告しに来たのか。フィリア氏の
そうなんです!
それは俺達でも、どうしようもないんじゃないか?
そもそも、どうにかしたらマズいだろう?
い、いや!
そうですけどね!?
でも……
だからって、放っておけるわけがないのだ。
死んでしまうと言われた人……──その人を、どうにか助けることはできないだろうか。護衛の仕事が初めてではないにしても、今までどうにかこうにかは守ってこれた。
だけど、今回はスタートに死の宣告を、死神からされてしまったのだ。
実際、聖女と言われようと、爆裂娘と言われようと、天才魔術師と言われようと、赤石の悪魔と言われようと、所詮人間である賢誠にはどうしようもできないのが事実だった。
でも……──
そんな理由で諦めるのは、悔しい。
ボクは、何も出来ないのでしょうか……──
そんな萎れた、言葉が漏れる。
潰れかけた、想いが溢れる……──。
死因は?
?
もし死因が分かれば、こちらでどうにか手を尽くせば回避できるんじゃないか?
病気かどうかは俺が見ればすぐに分かるが……末期だったら回避は無理だぞ?
そ、そうですね! まずは病死になりそうかというのは知っておくべきですよね!
もしくは、今回の連れに裏切り者がいるとか
そんな物騒なことを続けてきたのは、ルームフェル。
さすが……──つい最近まで、国の暗部として活動してきただけのことはある。
異国の地という利点を使えば、彼を殺してもこの地の人間達に殺されたという嘘もまかり通る。
もしくは、この国の料理に毒を盛るとか眠ったところを暗殺するとか、聞いているだけで賢誠の気がおかしくなりそうなほどの事例をツラツラと並べ立てられて気が遠くなった。
と、とりあえず、いろんなことに気を付けろってことですね!
賢誠は脂汗をダラッダラ垂らして賢誠なりに理解するために極端に簡潔な答えを弾き出す。
サトミ。死神が絡んでくると、さすがに俺達だけで判断しかねる。
専門家に意見を仰ぐべきだ
ボク、一応、魔術師です
見習いだろう
心にグッサリ突き刺さる一言。
そう、賢誠は天才魔術師と言われているが、実の所……──全然、魔法は使えないのだった。
賢誠が『コンセンサス』という魔法を構築したのは、あくまでも賢誠のそばにいる神様のお陰。
異国語の翻訳魔法に関しては、これできたら便利だよねーといって、賢誠が普段からお世話になっている神様……──天御中主に頼んでほとんどやってもらい、賢誠だけでなく他の人にも使えるようにすることで外国語を理解できるようにしてもらっただけだった。
爆発魔法が得意とかとも言われているが、実際のところは科学的に起きる爆発を人為的に、作為的に引き起こすために手を加えただけ。
もっと砕いて言うならば、敬愛なる敵意を込めて、故意的にかつ意図的に爆発を起こしたのである。
科学的なものなので、それがどういう風に準備するかしだいで魔力の使用量は異なる。だから、魔力はほぉんのちょこぉおっと使うだけで爆発が起こせるわけで、普通に魔法を発動するよりも楽なのであった。
マスターに事情を話してみよう。マスターは魔術師だ。何か的確な助言をくれるかもしれない
病気ではないかをライトが直接見に行くから、ルームフェルと共に賢誠はマスターと連絡を取り合うことに。
依頼主の死などギルドの沽券に関わる大問題だ。
そうだと分かれば、あの金にがめついギルドマスターだって知恵を貸してくれる……ーーはず。
一抹の不安を抱えながらも黄色い宝石のような通信魔道具を起動する。賢誠はゲームで鍛え上げた連打でかのギルドマスターの所へ通信を繋ぐのだった。
はい? Ms.サトミ。
もう一度おっしゃってくださいますか?
ですから!
死神がレインフォード・フィリル氏の死を宣告しに来たんですってばぁ!
電話の向こうでギルドマスターである金にがめついチビッコが黙った。
やはりとても重大なことだとお見受けできる……――と思ったのもつかの間。
Ms。バカも休み休み言ってください。
死神がわざわざ、死に行く者に死の宣告をしに行く訳がないでしょう
なっ!? そうなんですか!?
じゃあ、何で小笠原さんは……
死神をなんだと思っているんです?
彼らは死した魂を死の国へ誘う冥府への案内人。
死にたくなければ帰れなんて、忠告する死神こそいるわけがありません
それは職務怠慢などではない。
死神には、重罪に値する。
死者の魂を運ぶ仕事は冥府でも大変重大な仕事だ。
連れ損ねれば幽霊になってしまう。
それだけではない。
その幽霊が悪霊化すればゴーストという化け物にだってなってしまうのだ。
そうなってしまえば、もうその魂が元に戻ることはできない。倒して魂を消してしまうしかなくなってしまう。
遊ばれたのではないですか、ミス・サトミ?
異国に来たばっかりの人間を遊び相手にするんですか?
それに、小笠原と名乗った死神の着ていた着衣には閻魔大王の掲げている紋章でした。火炎の中に浮かぶ浄玻璃鏡の紋章です。間違いないですよ!
……なぜあなたが閻魔の紋を知っているのです?
え? そりゃあ、マスターのお部屋で拝見……―ー
また勝手に人の部屋に入ったんですね
賢誠はぴゅるるーと口笛を吹いて、視線をあっちにやった。
禁書が多いから読むのは止めなさいと言っているでしょう、Ms.サトミ?
読んだら最後、魂をかっさらったり、発狂する魔書だってあるんです
だって、マスターのお部屋の本は知的好奇心が満たされるような面白いものがいっぱいあるんですもん。
それに、ヤバそうなのはちゃんと避けてます
誇らしげに言っているあなたの顔がとてもよく見えます。
さすが私です
そういう時は『目に浮かぶ』って言うんですよ……
おい、サトミ。魔道具を見ろ
ルームフェルに言われるままに賢誠は黄色の魔道具を見下ろした。すると、それにぎょろ、と目玉が浮かび上がっていたのだ。気持ち悪いほど本物そっくりにギョロギョロ動く目玉。ヌラッとテカって気持ち悪い。
と、賢誠は叫んで魔道具を放り投げてしまった。
今度はその行為に青ざめることになる。
その通信魔道具は、超高価なのだ。
そこでまた、
と叫んで壁に直進している魔道具を取るために超ダッシュ!
それこそあれを壊したらギルドマスターから給料をさっ引かれるとか時間外労働が増える──主にドレスアップ後に宮廷訪問だが、人付き合いが苦手な賢誠は人混みに行きたくない──ので、全力で阻止せねばいけない。
そんな賢誠の心情など知るよしもなく、魔道具からは……──にょきにょきっとコウモリのような翼が生えたのだった。
それが壁へ一直線に飛翔していた所、バサバサと羽ばたいて難を回避。
あぁ、よかった……
Ms、前を
魔道具の衝突は回避はされたが、賢誠が壁に激突。
鼻やらペッタンこの胸やらを打ち付け、あまりの痛みに賢誠は悶えながら膝をついた。
サトミ……大丈夫か?
無理っす……! 無理ポです……!
とにかく、ミス・サトミ。
死神がレインフォード氏の魂を持っていくというのなら、魂を持っていかれる瞬間を、あなたは手出ししてはいけません。
今回は、今回ばかりは、割りきってください。
誰でも彼でも、助けられるわけがないんですよ
パタパタ羽ばたく薄気味悪い目玉通信機をむすぅっと睨み上げる。
だって……
あなたが幾難の無茶をして、誰かを助けてきた功績は認めます。
だからこそ、ギルドは有名を誇っていますよ。
ですが、今回、もし本当に死神が相手だというのなら、冥界の住人を敵に回すことになります。
それは私達にも害悪にしかならない。
あなたの命だけなら良いですが、他の人間に手を回すことを彼らは厭いません
……
どれだけヒーローに憧れたかは知りませんが、絶対的救済者などいませんよ
飛翔している目玉宝石が賢誠の頭に着地する。
死の運命は遅かれ早かれ必ず生き物に訪れます。
それをねじ曲げることは、ご法度です
……──リッチであるマスターの言う台詞じゃないです
えぇ。ですから、ご法度なのですよ
そう。賢誠がマスターと呼んでいる彼……チビッコ、もとい本名カロン・レンドモードは『リッチ』だ。
死者でありながら魔術師として再生する死を乗り越え、死に損ない(アンデット)となった死霊術師のことである。
彼は齢七歳で天才魔術師と名を馳せた……と、自分で言っている。
でも、金儲けに関しても魔術に関しても、金儲けに関しても(大事なので二度言う)その手腕はテルファートでも随一だ。
Ms。これから私もそちらへ向かいます
マスターが?
えぇ。すぐに出立します。
三日もすれば着くでしょう。
ですから、それまでは絶対にレインフォード氏の身は守ってください。
ギルドの沽券に関わりますから
は、はい! 了解です、マスター!
通信がぷつりと切れると、目玉が出現していた宝石のような通信魔道具は大きな目蓋を閉じると目玉を出すための切れ目がつぷりと沈むように消えてしまった。
その光景を見下ろしながら、賢誠はマスターであるカロンの言葉を思い出す。
魂を死の国へ誘う冥府への案内人です。
死にたくなければ帰れなんて、忠告する死神こそいるわけがありません……――
それは職務怠慢などではない。
死神には、重罪に値する。
死者の魂を運ぶ仕事は冥府でも大変重大な仕事だ。
連れ損ねれば幽霊になってしまう。
それだけではない。
その幽霊が悪霊化すればゴーストという化け物にだってなってしまうのだ。
そうなってしまえば、もうその魂が元に戻ることはできない。倒して魂を消してしまうしかなくなってしまう。
死の運命は遅かれ早かれ必ず生き物に訪れます。それをねじ曲げることは、ご法度です
魔術の知識人である彼は、そう言った。
きっと、そのことに間違いはないだろう。
ならば……――今回、なぜ、死神と名乗った鬼のような人物が、レインフォードに死を告げに来たのか。
悪戯か?
でも悪戯で、八第灼熱地獄・閻魔大王の
掲げるあの紋章を使う必要はあったのか。
そこが疑問だ。
外国人にちょっかいかけてくる……――。
もしかして、
レインフォードの命を狙っている輩の使い魔……。
だとしたら。
あれだけの覇気。
そして濃密な魔力。
恐らく、
上位の使い魔……ーー。
鬼を従える、
東洋の魔術師……――。
脳内に浮かぶ単語の羅列で検索をかけて、答えを弾き出す。
陰陽師!? なら、安倍晴明か!? 安倍晴明、マジいるの!
安倍晴明
狐と人間のハーフと言われる源頼朝の元で専属の陰陽師として生きていた実在していると噂の陰陽師だ。
彼は陰陽師の中でも実力は随一。
彼は鬼だけではなく、十二神将などの神の類いも従えていた陰陽師だ。その中には四方を守ると言われている、玄武、朱雀、青龍、白虎も含まれている。
彼ほどの実力のある陰陽師なら、あの気迫の強い鬼さえも従えられるだろう。
やばい! モノホンかもしれない!
それだったら、チョー会いたいんだけど?!
あぁ、でも敵なんだ、どうしよう!?
……サトミ、何を言ってるんだ?
ちょい、マスター!
マスター、出てー!
敵が凄腕の陰陽師かもしれないからぁぁああああ!!
超高級品の通信魔道具ではあるが、ばしばし叩いて通信希望。
そう騒いだ祈りが届いたかのように、カロンはすぐに出てくれたのだった。