リムさんは身分による差別が
ニーレさんの病気に関係があるという。

身分が関係しているのなら
下民の体質に原因があるんだろうなぁって
なんとなく理解できる。


でも『差別』という行為に
病気の原因があるとなると想像もつかない。
 
 

トーヤ

それって、
どういうことですか?

リム

これでも狭い町だからな、ここは。
長く住んでいる者同士なら
お互いの身分は把握していて
当然だろう?

トーヤ

それはありえますね。

 
 
町と比べたら規模は小さいけど、
王城では僕と認識のない人でも
僕が下民であることを知っていた。

それと同じようなことなんだろうなぁ……。
 
 

リム

この町では身分によって
モノを売ってもらえる値段や
その質、税金――何もかもが
差別されているんだよ。

トーヤ

なっ!?

リム

食べ物や水だってそうだ。
手に入れるためには、
下民は平民の3倍以上の値段を
払わなければならない。

クロード

そんな……。

リム

身分関係なく商売するヤツは
この町では変わり者扱いなんだ。
変な目で見られるのが普通。
私もそのひとりさ。

リム

誰でも診察をするという医師は
この町では私だけ。
本職は薬草師なんだがな……。

サララ

ひどい町ですねぇ。

リム

だが、それが現実だ。

 
 
そっか、だからニーレさんとエルムくんは
生活が苦しかったのかもしれない。

ただでさえ仕事が少ないのに
支払うお金が不当に多かったら
普通に食べていくのだって大変になる。


――そうだ、ニーレさんは
民宿組合への加盟金が高すぎて
入れないって話をしていた。

それって下民だからってことも原因……。
 
 

カレン

っ……。

 
 
僕は横目でカレンの様子をうかがった。

すると彼女は眉を曇らせ、下唇を噛んでいた。
今にも泣き出しそうな感じ。
僕と同じことを思ったのかも。
 
 

トーヤ

カレン……。

 
 
僕は思わずカレンの手を握っていた。

するとカレンは一瞬ビックリしていたけど
すぐに強く握り返してくる。
そして誰にも聞こえないくらいの声量で
『ありがと……』と呟いた。



――少しは苦しさが和らいだかな?

もしそうだったら僕も嬉しい。
 
 

ライカ

その差別とニーレさんの病気、
どう関係しているのですか?

エルム

タイヨウゴケです。

トーヤ

エルムくん……。

エルム

この町で暮らすには
あれを摂取しなければなりません。

トーヤ

うん、そういう話だったね。

 
 
 
 
 

エルム

商人はそれを知っているからっ、
僕たち下民には
特に高額で売りつけるんですっ!

 
 
 
 
 

クロード

足元を見られているわけですね。
なんというか、
同じ商人として複雑な気分です。

 
 
クロードやセーラさん、
それにマイルさんは商人だけど
そんな酷いことはしないと思う。


だけどポートゲートでは
僕たちを騙して『滴りの石』を
安く買い叩こうとした商人がいた。

確かに商人の中には悪いヤツもいる。

一括りに考えちゃいけないけど
商人ってだけで悪いイメージを持つ人も
世の中にはいるだろうな……。



大丈夫だよ、クロード。
僕は何があってもキミの味方だからね?
 
 

エルム

だから僕たちはタイヨウゴケを
滅多に食べられなくて、
なのに姉ちゃんは手に入っても
ほとんど食べず僕にばかり……。

カレン

あの、リムさん。
タイヨウゴケって
どういうものなんですか?

リム

そうだな、今後のためにも
ニーレの病気と
タイヨウゴケの関係性について
話してやろう。

カレン

はい、ぜひ。

リム

タイヨウゴケには生命維持に
必要な成分が多量に含まれている。
ただ、それは太陽の光を浴びれば
体内で生成できるんだ。

リム

だが、地底都市ではそれは不可能。
そこでタイヨウゴケが
大昔から摂取されてきたわけだ。

ライカ

つまりニーレさんは
その成分の欠乏で起きる病気
ということですね?

リム

正解だ。

 
 
そうか、特定の環境下では
生命維持に必要なものが不足すると聞く。


例えば、陸から長く離れて旅をする
船乗りさんは
植物由来の成分が不足して病気になる。

だから船には日持ちのするタマネギなどを
たくさん積んで適宜摂取するそうだ。


それと似たようなことなのかも。
 
 

カレン

誰かがそれを分かって
知識を広めたのですか?

リム

おそらく違うな。
先人たちが経験の積み重ねで
あれを摂取するのが最適だと
判断したのだろう。

ライカ

経験則ですか。
サンドパークにも
似たような例があります。

リム

言い伝えには迷信も多いが、
そういう役に立つ情報も
結構あるってことだな。

リム

で、ニーレには
以前から体の不調があった。
正直、いつ意識障害が起きても
おかしくない状況だったんだ。

エルム

でも……生活するためには……
仕事を休むわけには
いかなくて……。

リム

体がそんな状態なのに休めず、
さらなる疲労の蓄積。
近いうちにこの日が来るって
覚悟はしてたよ。

リム

だが、エルム。
これはお前にも言える。
お前も慢性的な欠乏症なんだ。
しっかりタイヨウゴケを
摂取しないとダメだぞ。

エルム

……はい。

 
 
エルムくんはどこか上の空な感じで頷いた。
もしかしたら自責の念に
駆られているのかもしれない。

こんなことになるなら、
自分が突っぱねてでも
タイヨウゴケをニーレさんに
食べさせていたら良かったって。


でもニーレさんはエルムくんの体の状態を
知っていたのかも。
だから自分よりもエルムくんを優先して……。

姉弟のお互いを想う優しさがよく分かる。
だからこそ僕はふたりを救いたいっ!
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

第116幕 非情な差別の現実

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