サトミ……──本名『赤石賢誠』。



『赤石の悪魔』の異名を持つ
ギルド『天御中主』のエース。




その実態は
『オカルト』

『アニメ』

『漫画』

『ライトノベル』

ヲタクを兼ね揃えた残念女子だった。




誠に賢い子供に育ってほしいと
名付けられたその名の通り、

ただただ無駄に知識を貪るだけの、
あるいは
リスが頬袋に餌を詰められるだけ
詰めるかのごとく知識を集めてきた残念女子だった。






賢誠がなぜテルファートに居たかというと……――
気づいたらテルファートの町中に立ち尽くしていた。




そう、
異世界転生系なのか

それとも
勇者召喚系なのか

はたまた
ただ喚ばれただけなのか

それさえさっぱり分からない状況だった。




ただ覚えていることはある。




文化祭があって、
メイド服だけは御免だと言い張り、
衣装担当のクラスメイトに懇願して
ウェイターをやらせてもらっていた。

そんなメイドカフェみたいな模擬店の休憩時間
数人のクラスメイトと
休憩時間に入ったことまで。







そこから、
それ以降がスッパリ記憶から抜け落ちている。







姿形がそのままなので、
転生したわけではなさそうだ。

勇者としてやってきたにしては王様とか、
召喚主がいない。




町に、なぜかいた。




だが、いきなり見知らぬ町にいたということで
大興奮した賢誠は引っ込み思案を吹っ飛ばして
手当たり次第、門扉を叩き、
近場で雇わせてもらった。




会話には困らなかった。

なぜかと言えば日本語をみんな話しているので、
てっきり日本語が母語の国だと思っていたら、

賢誠にしか見えない神様が
賢誠に分かりやすいように
日本語に翻訳してくれているという
なんとも有り難い状況だった。




困ったのは、文字だけ。

日本語で聞こえるから漢字で名前を書いたら、
文字を理解されなかったのだ。


それから神様が翻訳してくれていることを知った。


















まぁ、いろいろなドタバタを経て、
とある目的のためギルドを作った訳だが、


賢誠は今回、
このレインフォード・フィリアという貿易商が
東国にある島らしき所へ行くと言う話を聞き付け
警護を請け負った。




ダメだと周囲から猛烈な反対を受けたが、
どうしても行きたかったのだ。

着ているモノを聞くと、
日本人特有の衣装・着物らしい服装だった。

もしかしたらそこは、
賢誠が暮らしていた日本に
よく似た場所かもしれないと思ったのである。






そんな土地に行くとなれば、
賢誠が行きたくなって当たり前なのである。




ギルドマスターにもどうにかこうにかして
警護の権利をもぎ取った賢誠は
海を渡るほどの遠い遠征へ
行ける事になったのだった。




































 窓の外を眺めれば眼下は海。

 じっと見ていると、さざ波の音は空挺の中でも聞こえてくるようだ。




 賢誠はもうすぐたどり着くであろう日本とよく似た地、東国が目前まで迫っていると思うとワクワクして仕方なかった。




赤石賢誠

早く準備済ませてくださいね!

ボク、レインフォードさんが目覚めたことお話してきます!」

レインフォード

君は私の母親か









賢誠は普段どおりの彼であることに安堵する。

前世の記憶に引っかかれば、一瞬で人間性が豹変することがある。





何度も、賢誠は前世の記憶に侵食されて人が変わってしまった人を見てきた。


良い方ならまだしも、悪い方に傾いてしまった時は、何度も苦しい思いをしてきた。



どうか、彼にはそんな方向には行かないくれと、切に願う。



賢誠は、レインフォードが無事に目覚めたことを告げるべく、ドアを開け放った……──。










こんにちは。異国の魔術師。時間通りですね





そこに、眼鏡かけた美形の男性。

ただし、角がある。

今の賢誠もそれなりの男装だが、自分より何となく格好いいと思ったので殴りたい。




黒い着物に黒い羽織物。そこに金糸で縫い付けられた家門。

その家紋は、賢誠が転生した先で見つけた本に描かれていた家紋と記憶がガッチリ引っ掛かる。




その家紋は……──日本の地獄・八熱地獄が掲げる、炎の中に浮かぶ浄玻璃の鏡が浮かぶ家紋。


私、この島で魂の回収を行っております、死神の……──






賢誠はドラゴン空挺の扉を盛大に閉めて鍵をかけた扉に背を預けた。振り向いた先には、目を瞬かせているレインフォードの姿。





レインフォード

どうした?

レディーの前で着替えるのは恥ずかしいんだが?

赤石賢誠

い、いいい、今! 外に! 死神が!!

レインフォード

おぉ、怖い。それからも、しっかり守ってくれよ?

さて、先に食事を済ませてくるか。急いで食べて服を汚してしまう方が問題だ









 レインフォードは茶化すように笑い、とんでもないことを言って聞く耳持たず。

 死神から魂の回収を邪魔立てするのはご法度だ。そんなことをすれば賢誠の地獄行きが決定する。




 その死神の存在には気づかないらしく、彼もドアを開け放ち、空挺を颯爽と降りてしまった。目の前にいる角を生やした死神には目もくれず、真っ直ぐ進んでいく。

 そのまま進んでいけばぶつかるのは明白だ。だがしかし、彼は、何にも気づいていないように颯爽と進んでいく。





 ぶつかることはなかった。





 角の生えた死神の前を、すぅっとすり抜けていったのだ。




 死神はアスラルト体だ。普通の人間には見えないし、触ることもできない。必然的に突っ込んでいってもどうにもならないのだ。



………

 



 死神は、レインフォードの背中を一瞥すると再び賢誠へと向き直った。



こんにちは。異国の魔術師。時間通りですね。


私、この島で魂の回収を行っている死神『小笠原』と申します。

本日より一週間後。レインフォード・フィリアの魂を回収に伺いますので、死にたくなかったらとっととお帰りください

赤石賢誠

え……──

それでは失礼致します









 クルリ、と背を向けて小笠原は地面へと足が沈んでいく。まるで床面が水であるかのような波紋を広げてその身体が埋まっていく。







 レインフォードの魂を回収……──?




 つまり、賢誠の護衛対象であるレインフォード・フィリアが死ぬ……──。










 賢誠の頭は真っ白。










 そして、次にようやく出てきた文字列は。








赤石賢誠

ええええええええええええーーーー!?



 どうしようもない、



 どうにかしようもない、




 驚愕の大絶叫だった。



プロローグ ー 客室への来訪者 -

facebook twitter
pagetop