しばらくあの男が来ない日々が続いている。
毎日のようにやってきては仕事の邪魔をしてくれていたが、来ないとなるとそれはそれで少し気にしてしまう。
飽きたのならそれで構わない。
だがあの男が一言俺に嫌味を言わずして去っていくだろうか、というのが一番の疑問だ。
しばらくあの男が来ない日々が続いている。
毎日のようにやってきては仕事の邪魔をしてくれていたが、来ないとなるとそれはそれで少し気にしてしまう。
飽きたのならそれで構わない。
だがあの男が一言俺に嫌味を言わずして去っていくだろうか、というのが一番の疑問だ。
なんだ、五日ぶりだなコヤギ
がらんがらん、と大きなベルの音を鳴らして登場したのは今現在脳裏に浮かんでいた男だった。
ほら、この男はこういう男だ。別段気にすることはなかった。
六日ぶりだ鳥頭め。
今日は何のようだ?今日は何もオーダーが入っていないからな、休みにしようと思ってたんだ
それは都合が良い。
コヤギよ、今から余を友と認めよ
……はあ?
心と行動がこれほどまでに一致した瞬間が今までの人生であっただろうか。
オトモダチというやつは所謂、自然と出来ているものであって自分から宣言するものではないだろう。ましてこいつの周りにはたくさんの黄金に煌めいたオトモダチがたくさんいるわけで。
何がしたい?
何が、とは?
余はコヤギを友として認めている。
故に、貴様も余を友とし、友として余に従うが良い
まて、友という概念を知っているか
お友達だ
馬鹿なのかお前
冷ややかな目は奴を貫いている、はずなのに俺の視線はまるっきり無視して「友となれ」と強要してくるこの男は……一体何がしたいんだ。
馬鹿故に思考が読めない。
友は金で買うものではないと父上から教わっていてな、金で動かず余に付き従うと思うたのは貴様一人だと世は結論付けたのよ。
故にコヤギ、貴様は余の友となりスピーチをし、そして余と共にリレイドフェルデンへ下るのだ
まて、今物凄い情報量を一度に与えたな、処理する時間をくれ
一瞬で理解できんとは、さては能力に見合わずコヤギめは馬鹿ときた
相手の理解度を把握できない馬鹿に言われたくないな
ということで彼の言葉を整理してみようではないか。
まず友となれ、という発言は却下だ。そしてスピーチというものも概要が理解できない限り却下、そしてリレイドフェルデンに行くというのも却下、というか俺の能力上、国が黙っていないだろう。
何がしたい、太陽の化身。
なに、単純な話よ。
余は花婿としてリレイドフェルデンへ行くのだ
うん、だからなんだというのが俺の正直な意見だ。
好きな女がリレイドフェルデンにできたから駆け落ちしよう、ついでに俺を引き抜こうって話だろう。
却下だ、お前の恋愛事情に俺が介入するとでも思っているのか阿呆が
恋愛だと?どうしてそのような話になる
輿入れだろう?
つまりはリレイドフェルデンの女にでも誑かされてリレイドフェルデンを出るという話だ。
内容は理解できたがそこに俺を絡むのはおかしな話じゃないか
珍しくスーラジが黙った。
正論、まさしく正論。
俺が放った言葉はおそらくどの人間もそうだと頷くくらいの正論であっただろう。スーラジが押し黙るというのはやつにも常識があったからということか。意外だ。最後の最後にこいつがそこまで馬鹿ではないということがわかっただけでも儲け物だろう。
遊びに行くのではない。
余はリレイドフェルデンへ往く。
夫婦というものは恋愛を経て成るものではない
は?
リレイドフェルデンの花嫁もキリアサンタの麗しき花婿である余も、贄だ。
生贄とあって哀れんだ猊下がおっしゃったのだ、余に一人、友を連れて行く権利を授けると
まて、おまえ、
父上、いや、大いなる祖先どもも大喜びだろう!
猊下の贄としてこの太陽の化身が選ばれたと!
スーラジは手を大きく広げて、まさに感激!とでも言った風に瞳を潤わせた。