家に着くまで
家に着くまで
彼は家まで送ってくれていた。
歩いたから時間はかかったけど、苦じゃなかった。
もうすぐ
着いちゃうね……。
残念そうに彼は言った。
本当は、私もそういう気持ちだった。
着かなきゃ、困るでしょ。
そうなんだけど、
もう少し、一緒にいたかったなって、思ったんだ。
どうしてサラっとそういう言葉が
出てくるのよ……。
こっちが言えなくて、やきもきしていても、こいつはあっさりと言ってしまう。
ムカつく……。
私だって、そう言いたかった……。
今日はパパ、
仕事で帰らないみたいだから……
夕飯、食べてっても、
いいんじゃない？
これ言うのが、精いっぱい……。
ホントに？
お腹空いてたんだよね。
ママさんが作ってくれた
おやつ、いつも美味しくってさ。
……。
小学生の頃から、ウチに通ってたんだよね……。
静香はいつも
食べてたんだよね。
いいな。
私は……、甘い物……、
苦手だから……。
そうだったんだ。
ホントは大好きだけど……。
それで来なかったんだね。
え？！
静香の家に遊びに行ってた時に、
たまに静香が帰ってきてたんだよ。
……。
帰るわよ……、私の家なんだし……。
と、ドアが開く音がして、
ただいま。
という、静香の声が聞こえていたんだ。
……。
静香ちゃん、
お帰りなさい。
って、ママさんが玄関まで出て行って、
今、ママのお友達がいらしてるの。
静香ちゃんも一緒に
おやつ食べない？
って、ママさんが言ってたのが聞こえてきた。
ボクは、
静香、来るのかな？
どんな顔してたらいいんだろう……。
って、ドキドキしてたのに、
いらない。
勉強で忙しい。
って、リビングを通り過ぎてた。
静香、成績いいのに……。
そっか、おやつも食べずに
頑張ってるからなんだな。
って、思ってたんだ。
たしかに、頻繁にあったわよ。
そういうの。
でも、誰がそんなところに行きたがるのよ。
ママの友達って
言ったら、
←
私が想像するママの友達
こういうのでしょ？
ママの友達と食べるおやつなんて、
食べる気がしないわよ。
ボクだったんだから
来ればよかったのに。
行けばよかったって
思ってるわよ！！
いや、
それも面倒かも……。
こいつのことだから、どうせ一筋縄ではいかないだろう。
ボクはママさんの
おやつを食べながら、
静香が食べるかもしれない
イチゴムース……。
って、思ってたよ。
思考がヤバくない？
こないだ食べたママさんの食事も美味しかったし。
あんまりちゃんとした食事
取れてなかったんだ。
そういえば、
ちょっと痩せたんじゃない？
やせたっていうか、ちょっと逞しくなった感じが否めない……。
ほんのちょっとだけど
カッコよくなってるし……。
食事、豪華な時は
とことん豪華だったんだけど……。
そうでないことも多くて……。
静香の家でご飯を食べたの……、
すっごく
前のことに思える……。
そうね、
すごく前ね……。
あ……、
ごめん……。
父さん、調子に乗って
いろんなところに遊びに行っちゃってさ……。
父さんとパパさんの仲が良くなれば、
パパさんも認めてくれるんじゃないかなって、思ったんだよね。
もしかして、
それで……？
オリハルコンも見てみたかったんだけどね。
あんなとこに
行く羽目になるとは思わなかったけど……。
そうだったんだ……。
私とオリハルコン
どっちが大事なんだって思った。
静香に決まってるだろ。
そう言って、彼は握っていた手を強く握った。
……。
それで、パパと海尊を何とかする方法は見つかったの？
ごめん、
それどころじゃなかった……。
いろいろあってさ……。
そんなことを言っていると、家に着いた。
困った顔をしながら、ヤツは手慣れた感じでウチの門を開けた。
ちょっとくらい、
戸惑ってほしいな……。
慣れていれば簡単だけど、他人の家の門って、開けるの大変だと思うんだよね……。
どうしたの？
入らないの？
門を押さえてヤツが言う。
彼の方が先にウチの敷地に入っていた。
入るけど……。
パパがいないって聞いたからなのか、ずいぶんと堂々と入っていく……。
ヤツはじーっと私を見る。
な……、
何よ……。
やっぱり、
静香、かわいいよね。
ど……、どうしてそういうこと言うわけ？！
うん。
なんなのよ、
ホントにもう！
嬉しいけど……。
た……、ただいま。
こんばんは。
あれ？
ママが出てこない……。
ママが出て来て茶化されると思ったのに……。
ママさん、
どうしたんだろ。
ヤツもそう思ったみたいだ。
さぁ……。
よいしょ。
……。
経次郎は勝手にスリッパを出した。
例の青い客用スリッパ……。
いいんだけどさ……。
静香はスリッパ、
いる？
うん……。
そう答えると、ヤツは私のスリッパを出した。
……。
あんたの家じゃないから！
まだ……。
何？
あの、笑い声……。
……。
翔さんの声だ……。
え？
あの天狗？
行こう……。
うん。
私と経次郎は、声がしているリビングに向かった。
あ、静香ちゃん、経次郎くん、
おかえりなさい。
母は、当たり前のように私と経次郎の名前を続けて呼んだ。
また、会うたのう。
お邪魔してます。
……。
え？ なんで？
聞いたよ。
経次郎くん、大変だったんだってね。
こんばんは。
いろいろと、
大変でした。
たわけが……。
鍛え方が足りんのだ。
……。
え？ 何？
どうして？
