門兵が身構えると、通行人も騒ぎに気付き始めた。視線が集まる中、不意に攻撃されたダナンが言い放つ。

ダナン

なんだそりゃ?
このダナン様には
全然効かねぇぞ。

ダナン

痛ってぇ~っ!
なんて蹴りだ。信じられねぇ。
痛すぎる!

メナ

今の凄く痛そうだけど
大丈夫なんだ。

ダナン

モチロン。
鍛え方が違うからな。

ダナン

うえっ!
胃液が上がってきやがった。

ユフィ

頑丈なのは良い事よ。
格好良いとは言えないけど。

ハル

おお、なんて頑丈さ。
頑丈って能力は、
恰好悪いっすけど凄いっす。

 さり気なく酷い事を言うユフィとハル。蹴られた腹部が真っ赤になっているダナンは、それでも悠然と立っていた。

ユフィ

でも、厄介事に首を
突っ込むのは良くないわ。

傷だらけの男

…………

 ユフィの視線の先にいる傷だらけの男は、ダナンに鋭い眼光を放った後、静かに瞼をおろす。

傷だらけの男

……ぐ……。

 そして少しのうめき声を上げ、腹を押さえてその場に倒れた。

リュウ

は? なんだ?
なんでアイツが倒れるんだ?

メナ

え~っ!?
ダナンさんが蹴られたところ、
押さえてない?
どういう事?

 一人でに倒れる傷だらけの男に、周囲は騒然となった。

ダナン

このダナン様の鋼鉄の腹筋で
衝撃が跳ね返ったんだろうな。

ユフィ

非論理的で閉口するわ。

 ダナンのアホな発言に、ユフィは呆れ顔を露骨に見せた。

ハル

ん?

傷だらけの男

に、に……に……

傷だらけの男

……く。

 傷だらけの男が何か言っている事に気付いたハル。立ち上がろうとするその男に無防備に近付き、耳を傾けた。

ハル

なるほど~。
そういう事っすね。

 それだけ言ったハル。門兵はまだ抜剣しようとする構えを解いていない。

ハル

腹減ってるだけっすよ。

 ハルの発言に、全員拍子抜けする。そしてハルは傷だらけの男に肩を貸して立ち上がった。

ダナン

何してんだ?

ハル

そりゃあ一緒にメシ食うっすよ。

メナ

えー!
本当に言ってるのハル?

ユフィ

何言ってるの!
素性も知れない男よ!
危険だわ。

 声を荒げたユフィは、リュウに賛同を求める視線を送る。リュウも敏感にそれに気付き口を開く。

リュウ

まっ、いいんじゃないのか。

 リュウはのんびりとした感じで目を細める。

ダナン

おもしれー。
ひもじい乞食に恵んでやるのも
悪くないか、ぎゃはははは。

 実際に被害に遭ったダナンが笑い飛ばしたのを確認し、門兵は構えを解く。そして厄介事を追い払うように、通行を促した。

ユフィ

あなたのお節介にも
飽きれるわ。

ハル

腹減ってる人に
悪い人はいないっすよ。

リュウ

わけわかんないけど、
それじゃあ全員善人だな。

メナ

でもなんとなく
一理ある気がするわ~。

 ハルと行動する事になってから、メナも空腹の事が多く、親近感が湧いた。肩を貸すハルに笑顔を送るメナ。そしてこのハラペココンビのお腹の声は、しっかり門兵に聞かれた。

 ~伏章~     19、人類皆善人

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