ハル

ぷっわぁ~!
凄く人がいるっすねぇ。
賑やかすぎっすぅ。

 空腹で倒れた傷だらけの男に肩を貸すハル。男の名はタラトといった。ハルはディープス城塞都市の顔とも言える、冒険者区の賑わいに興奮を隠しきれなかった。

メナ

わわわ、人がこんなに。
はぐれちゃうわ、
ハ、ハル離れないで。

 城門を抜けると、左右にびっしりと店舗が立ち並び、広い大通りにも露店が所狭しとひしめき合っている。大勢の人々が行き来しており、ハル達はその中に居ながらにして物珍しそうに見まわす事くらいしか出来なかった。

商人

皆様、それでは私めは、
ここで失礼致します。

ダナン

おう、世話になったな。

商人

こちらの方こそ。
又、ご縁がございましたら、
構ってやって下さいませ。
それでは。

ダナン

いっぱい儲かるといいな。
元気でな~。

 商人は馬車と共に、人混みに同化し遠くへ行ってしまった。

リュウ

さぁ~て、
何処へ行けばいいんだ?

ユフィ

右も左も分からない状態ね。
誰かに聞いてみようかしら。

タラト

クン……クンクン。

タラト

あそ、こ……い、にお、い。

リュウ

良く効く鼻を持ってるんだな。
じゃその鼻を頼りに
あの店に入るか。

メナ

ファムンテンの店ね。
リユーマイトでもよく食べたわ。

 城門近くの店に、小さいがそこそこ繁盛している飲食店があった。メナの言うファムンテンとは、ファムと呼ばれるふかふかのパン生地を重ね、その間に様々な食材を挟む流行の料理だ。

ハル

そうと決まれば早く行くっす。
自分もハラペコなんすよ。

タラト

グキュルキュムキュム~

 タラトは、一層腹の音を響かせた。その響きにハル達は大笑いし、ファムンテンの店に足を向けた。

 店の中は、ファムの香ばしさとほんのりと甘い香りが漂っていて、簡素な造りのテーブルや椅子は年季を感じさせた。客層を見れば、先刻このディープスに到着したと言わんばかりの者が多い。城門近くという事も手伝ってか繁盛しているようだ。

ハル

さぁ、食うっすよ。

メナ

お腹減ったぁ~。
もうペコペコだわ。

タラト

う……ま、んぐ……い、
ぷふぅ~。

 タラトはファムンテンを口に詰め込んでいた。しかも他の客のテーブルに腰を掛けてだ。もちろん、ハル達は注文どころかテーブルに着いてすらいない。

空色の髪の女性

え?

 タラトにファムンテンを横取りされたのは女性だった。まだ成人したばかりの15歳ほどの年頃だろうか。幼さが残る顔付きをしており、晴れ渡る空のような色をした髪をリボンで綺麗に纏めていた。
 突然の出来事に驚いてみせた後、彼女はポツリと言葉を落とした。

空色の髪の女性

わ、私のごはん……

 得体の知れないタラトに対し、身を引き距離を確保しながらも、食事を重要視している。喪失感を前面に押し出し、自分の物であったファムンテンを目で追うしかなかった。

ユフィ

何をしてるの?
あり得ないわ、
人の皿から食事を盗るなんて!

ダナン

無茶苦茶だな、こいつは。

ユフィ

すいません。
すぐに同じ物を注文します。

空色の髪の女性

い、いえ、少し驚いただけです。
お気になさらないで下さい。

 一人でいる空色の髪の女性は、ハル達六人を椅子から見上げた。ユフィはもう一度謝ってからタラトを叱り付けていた。そのタラトはファムンテンを食べ終わり、まだ足らないと周囲のテーブルを見回している。リュウがタラトの手を引き、自分達のテーブルを決めて案内した。

ハル

腹減ったっすぅ~。

ダナン

おっし、食うぞ。
取り敢えず
キングファムンテン五人前。

メナ

え~、そんな大きなの
食べれないよ。

ダナン

ぎゃははは、
それは俺一人分だぜ。

リュウ

凄い食欲だな。

ハル

ペクンタより食べるっすね。

ユフィ

好きなだけ食べてもいいけど
自分で食べた分は
自分で払いなさいよ。

 思い思いに話すハル達。やがてテーブルに料理が運ばれてきて、ファムンテンを楽しむ。タラトがダナンのキングファムンテンを横取りしたり、調子に乗って便乗泥棒するハル。たしなめるメナやユフィの隣では、のほほんとリュウが笑っていた。

 少し離れたテーブルから空色の髪の女性は、同年代の者が多い賑やかなハル達に表情を和らげていた。

ダナン

ふ~、ったく。
そんで肝心の冒険者には
どうやったらなれるんだ?

 ひとしきり空腹を埋めたダナンが話題を変える。

リュウ

まったく分からん。

メナ

え~、リュウなら
知ってると思ってたわ。

タラト

…………

 食う事にしか興味のなかったタラトが、冒険者という言葉に眉を寄せた。

 ~伏章~     20、ファムンテン

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