ダナン

おい、あれじゃぁないか。
すげぇ小さくて見えにくいが、
ディープスだろ。

 ダナンを先頭に歩くハル達。その視線の先には、僅かにだが高い城壁に囲まれた城が見て取れた。

ハル

おおおおおお!
あれがディープスっすか?

メナ

って、ハル、
全然違う方向見てるわよ。

ユフィ

なんであんな岩と
城塞都市を
見間違えるのよ。

リュウ

俺は、全く見えないぞ。

 ダナンのすぐ後ろを歩くリュウには、ディープスの遠景どころか殆ど何も見えていない。いつものほんわかした雰囲気は、目的地を前にした時も変わらなかった。

商人

間違い御座いません。
彼方に臨むは
城塞都市ディープスに
違いありません。

 同じ目的地を目指す商人は、ディープスに何度も訪れている。その確証の言葉は、ハル達を高揚させた。

ユフィ

え?
……驚いたわ。
ディープスの周辺は
砂漠になってるのね。

商人

誰もが初めは驚かれます。
ディープス周辺は砂漠地帯なのです。

 小高い丘から広がるディープスの外観。高い城壁もさることながら、周辺の砂漠に目がいってしまう。砂漠の砂は深いものではなく、街道は狭くはなっているがディープスまで続いている。

ダナン

うおっし!
もうちょいだ。
元気出てきたぜ。

ハル

意外にちっこい城っすね。

ダナン

だな。俺の方が
でかいんじゃないか?
ぎゃははははは。

ハル

ほ、本当っすか?

メナ

もうハルったら~
それはないでしょ。

 草の生えぬ地に足を踏み入れる。砂漠の街道は砂を表面にのせており、ジャリジャリとした感覚が足を伝わってくる。乾いた風が吹けば、その砂は宙を舞った。そして人の流れに沿い城門前まで辿り着く。

ダナン

…………おおぅ

ハル

…………。

メナ

ぅゎぁ~。

 先ほどの軽口はどこえやら。圧倒的な城壁の高さを、天でも見上げる様に仰ぐハル達。城塞都市ディープスを初めて体感する場所である。小高い丘から見下ろす遠景ではなく、圧倒的に迫る城壁。ただそれだけで身が縮こまりそうな迫力だ。

リュウ

おいおい、誰だちっこいなんて
言ってた奴は。

ダナン

すげぇ。なんでこんなもん
造れんだ。飽きれるぜ。

ユフィ

……想像以上ね。
まぁ、私の目的は
この城壁でなくてこの内側。
それが大事なのよ。

 ユフィは足が止まっていたハル達の前に出た。ディープスの城門は開かれている。商人が言うには夜間以外の通行は、特に不審がなければ自由らしい。

メナ

あ……、門番の兵士さん達が
集まってきてない?

リュウ

お!? ホントだ。
真ん中にちょっと
変わった奴がいるぞ。

 あちこちに古傷がある若い男だった。門兵に次々と質問されて男は口を開く。

傷だらけの男

道、あけ……ろ……。

 その門兵に囲まれた男は、片言しか話せないらしい。遠方に住む異民族なのだろうか。不審を感じた門兵はさらに質問を続ける。

傷だらけの男

ど……、け。

 イライラしているのか、片言の口調は怒気を帯びている。

ダナン

おうおう、往来で
固まってんなよ。
邪魔だろうが。

 傷だらけの男の後ろから、ダナンが意見する。

ダナン

ぐぽぉっ!!

メナ

え!
ダ、ダナンさん!?

傷だらけの男

……。

 傷だらけの男が俊敏な動きで蹴りを放った。その動きは『技』というより『野生』を感じさせる。大男であるダナンの体は、くの字になり後退させられる。
 それを見て、門兵が傷だらけの男に対して身構えた。

 ~伏章~     18、城塞都市ディープス

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