この世に生を受けて既に20年が経とうとしている。

 一向に成長を止めたこの見た目は「サボリー」という一族の宿命だった。

 狼と七匹の子山羊、なんていう童話を知る者も多いだろう。面倒なので話は割愛するが、まあ、その子山羊の「子孫」なのだ。
 童話の世界の「子孫」とはなんだという話ではあるが、人間の考えた物語というものは非常に「力が強い」そうなので、その子孫であると人間が言うのならばもうこちらも何も言えまい。


 だがこの姿、一族にとってとても都合の良い姿だということを補足しておかねばならない。
 若い姿ということは無論、「中身も若い」ということだ。
 いや、性格だ趣向だなんだということではない、表面の中、つまり内蔵の話だ。


 とすればそうだな、お前は何を思う?
 「一族」「能力」「子孫」、これらの単語で見えてきただろう。


 下世話な話になるが、俺はいつでも老いてなお「子作りができる」体であるということだ。
 このような体であると色々狙われやすくもなる、というわけで、一族は愚かもちろんこの俺も例外ではなかったし、むしろ該当ど真ん中の存在になってしまった今、国の保護なしでは生きていけないのだ。


 だからこそ俺たちはこの「キリアサンタ」なんていう神様を崇めて神様を奉る国に属しているわけで。


お前は出席しないのか?

……いらっしゃいませ。



 あの日から飽きずに毎日やってくる俺様何様お馬鹿様の自称太陽の化身。
 もちろんこいつに能力なんてものはない。なんせ人間、「アンノウン」だからだ。

セレモニーだぞ、セレモニー!
神の国たるこのキリアサンタで行われる、何十年に一度の煌びやかなセレモニーだ!

喧しい、仕事に集中できんだろうが。

流石は山羊なだけあるな。
なるほどこれらの本を「食べる」ことが仕事というわけか。

ノーコメント。



 セレモニー、いや、この国を表向き治める教皇こと「アヴァター・キリアサンタ」の儀式の日だ。
 儀式の日となるとこの俺の仕事量、つまり食事量も増えるわけで、太陽なんぞの相手をしている暇もないのだ。

我が国の誉れ高き人間族最高峰である猊下の入魂の日であるというのに、引き篭って紙を貪るとは我が下僕よ、みっともないにも程があるだろう。

その口にこの紙束を捩じ込んでやろうか?

ははは!馬鹿を言うな、余は人間族だぞ?

だからだ。
……いや、重要な文献をこんな能無しに食わせる訳にはいかんからな、辛抱せよ、俺。


 その辺にあった白紙の紙をスーラジの口にブチ込む。もちろん手でこいつの口元に触るなんて穢らわしい真似はしない。

 紙を操る能力を持った俺はもちろんその力でこいつの口に手を使わず紙を数枚捩じ込んでやったわけだ。
 おぶぶっ!という謎の声を漏らしてその場に倒れ込む惨めな大富豪様。

このっ……余はグルメであるのだぞ!

そういう問題ではないだろう……。

 この太陽の化身様の近くにいると、どうも調子が狂う。
 そしてため息をする回数が大幅に増える。こいつに出会って何度目かも知れない、わざとらしいため息を漏らして「食事」に戻った。

一章 七匹の子ヤギ Ⅰ

facebook twitter
pagetop