夜になり、僕とサララは見張りをしていた。


やっぱり疲れが溜っていたのか、
カレンやライカさんはすでに眠りについている。
クロードに至っては横になってすぐに
イビキをかいて寝ちゃったし。


静かなこの空間の中で、
川の穏やかなせせらぎとマキの燃える音、
そしてクロードのイビキだけが響いている。
 
 

トーヤ

んしょっ……と……。

 
 
僕はクロードの毛布をかけ直してあげた。
風邪をひいちゃったら大変だもん。


それと辺りは一段と冷え込んできているから、
焚き火を絶やさないようにしないといけない。

ただ、マキには限りがあるから
ペース配分も考えて燃やさないと
朝までもたないだろうなぁ。


タックさんがいれば炎の精霊を召喚してくれて
そういう心配もないんだけどね。
 
 

サララ

あの……。

 
 
思い詰めたような顔をして、
不意にサララが声をかけてきた。

――もしかして寒いのかな?
 
 

トーヤ

うん? どうしたの、サララ?

サララ

トーヤくんは薬草師なんですよね?
色々な薬を持っていたり、
作ったりできるんですよね?

トーヤ

まぁね。お腹でも冷えたの?

サララ

からかわないでくださいっ!

トーヤ

か、からかってないよ。
僕は本気で心配をして……。

サララ

あっ!? そ、そうですよね……。
トーヤくんはこういう時に
ふざける人じゃないですもんね。
ごめんなさい……。

トーヤ

いや、いいんだけど。
それより、
急にそんなことを聞いて
どうしたの?

サララ

あのっ、
魔法の成功率を高める薬とか、
集中力を高める薬とか、
持っていませんか?

トーヤ

えっ?

サララ

私がもっと魔法を自在に扱えれば
皆さんのお役に立てるのに……。
このままでは私は足手まといです。
いらない子です。

トーヤ

サララ……。

サララ

今回に限ったことじゃなくて、
いつも魔法に失敗して
ピンチを招くことが多くて……。

サララ

だからっ、そういう薬があれば
皆さんにご迷惑をかけることも
なくなると思うんです!

 
 
サララは泣きそうな顔をしていた。
そしてすがるような瞳で僕を見つめている。



そうか、魔法が失敗したことを
気にしていたのか……。



おそらくそれって今までもずっと
気にしていたことなんだと思う。

でも僕たちと一緒に旅をすることになって、
失敗した時の責任を
より強く感じるようになっちゃったのかも。



そうだよね、
それなら薬でなんとかしようって考えても
おかしくない……。

だけど、それならなおさら
サララにはハッキリと
伝えておかなければならないことがある。
 
 

トーヤ

僕は嘘をつきたくないから
正直に話すね……。

トーヤ

魔法の成功率を上げる薬や
集中力を上げる薬を
僕は作ることができるよ。

サララ

ホントですかっ!?
それなら私に――

 
 
 
 
 

トーヤ

でも僕はそれを作って
サララに渡すことはできない!
いや、今のサララに
渡すわけにはいかないっ!!!

 
 
 
 
 

サララ

えっ?

 
 
意思を込めて放った僕の言葉。
サララを見つめ、
ハッキリとした口調で想いを伝える。

張り詰めた空気にサララはちょっと
ビックリしているみたい。



でもこれは薬草師である
僕のポリシーにかかわることだから、
どうしても強い口調になってしまうんだ。
 
 

トーヤ

勘違いしないでね?
僕はサララに意地悪をしたくて
言っているわけじゃない。

サララ

だったらどうして?

トーヤ

逆にサララに聞くけど、
なぜ僕は薬を使って
不足している能力を
補おうとしないのか分かる?

サララ

えっ?

トーヤ

僕は力が弱いし動きも遅い。
でも薬を使えば
身体能力を上げることができる。
戦いでみんなを助けられるんだよ。

トーヤ

だけどね、それって
デメリットも大きいんだ……。

サララ

デメリット?

トーヤ

体には負担が大きいし、
使い続ければ薬への耐性ができて
量を増やさなければ効かなくなる。
依存性の強い薬もあるしね。

トーヤ

そうなったら元には戻れない。
薬に依存した体を治す薬なんて
ないんだよ……。

サララ

っ!?

 
 
薬は適切に使えばみんなを助けられるけど
使い方を間違えると毒になる。


ガイネさんやセーラさんも
似たようなことを言っていたっけ。

道具も薬も使い手次第なんだよね……。
 
 

トーヤ

つまり薬に頼りすぎると
結果的にみんなへ
迷惑をかけることにだって
なりかねない。

トーヤ

だから僕はなるべく
強化系の薬は使うべきじゃないって
思っているし、
僕自身は使うつもりはないよ。

サララ

じゃ、私はどうすれば……。

トーヤ

鍛練や経験を積み重ねて
自分自身を高めていくのが
いいと思うよ?

トーヤ

それって魔族っぽくない
考え方かもしれないけどね。

 
 
魔族は生まれた時点で基本的な能力が
ほぼ決まってしまっている。
つまり僕みたいな例外を除けば、
伸びしろがないってこと。

だから鍛錬をしようって
考え方を持つ魔族が少ないのは当然だ。



でもかつてタックさんが言っていた。
精神的な面では魔族でも成長するって。

そして魔法は精神面が重要だから、
成功率なんかは鍛錬次第で上げられるはず――。


だからこそ特にサララには
安易に薬に頼ってほしくないんだ!
 
 

トーヤ

ただ、サララが今の話を聞いた上で
それでも使いたいって言うのなら、
作ってあげる。

サララ

ぅ……。

トーヤ

でも自分にできることを
精一杯やって
それでも足りない部分は
仲間同士で助け合って補えばいい。
そうじゃないのかな?

サララ

私はもっとお役に立ちたくて。
だから……だから……。

トーヤ

その気持ちだけで充分だよ。
カレンだってクロードだって
ライカさんだって、
同じ想いだと思う。

サララ

う……うぅ……。

トーヤ

もっと自分に自信を持って!
みんなを頼って!
サララの気持ちはいつかきっと
花咲く時が来るはずだから!

サララ

トーヤ……くん……っ!!

 
 
サララは瞳から涙をこぼしつつも
晴れやかな笑顔になっていた。

――うん、この感じだと吹っ切れたかな?
 
 

サララ

私、少し心が軽くなったような
気がします。
ありがとうございますっ!

トーヤ

それは良かった。

サララ

薬は必要ありません。
さっきの話は忘れてください。

トーヤ

うんっ!

サララ

でももし大きな事態に直面して、
それ以外に方法がなかったとしたら
私は躊躇なく使うつもりです。

サララ

トーヤくんだって
そういう場合は使うんでしょう?
例えば
私の命がかかったピンチとか。

トーヤ

そ、それは……。

 
 
鋭い質問に僕は口ごもってしまった。


確かに時と場合によっては
どんな手段を使ってでもみんなを助けたいって
思うだろうなぁ。

だから明確に否定できない……。



僕が困っていると、
サララは悪戯っぽい笑みを浮かべる。
 
 

サララ

そっかぁ、私じゃダメかぁ。
でもカレンちゃんの命が
かかっているなら、
首を縦に振ってますよね?

トーヤ

い、意地悪なことを言わないでよ。

サララ

うふふっ♪

サララ

でもそれって、
………と………かも……。

クロード

むにゃ……むにゃ……。

 
 
サララはポツリと何かを呟いた。

でもそれはあまりに小さな声だったので
ハッキリとは聞き取れなかった。


クロードのイビキが
もう少し小さかったら聞こえたかも……。
 
 

トーヤ

えっ? 今、何て言ったの?

サララ

い、いえっ!
な、なんでもないです~っ!

 
 
それっきりサララはこの話題について
何度聞いても何も話してくれなかった。

単なる独り言だったのかな?



ちょっと気になるけど、
元気になってくれたからいいかっ。
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

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