僕たちの前にトロルが立ち塞がった。
みんながそれぞれの役割を持って対峙する。

僕は足下に落ちていた石を拾い上げ、
それをフォーチュンにセットした。
そして狙いを定めて放つ。
 
 
 
 
 

トーヤ

やぁああああぁーっ!

 
 
 
 
 

 
 
 
 
 

ギャオォ……ッ!

 
 
 
石は真っ直ぐトロルに向かっていき、
ヤツの丸々としたお腹に命中!

ただ、あまり効いていないみたいで、
当たった場所には傷も痣もできない。


それでも殺意を含んだヤツの視線は
確実に僕の方へ向いた。
そしてこん棒を振り上げて、
今にもこちらへ突進してこようとしている。
 
 

ライカ

…………。

 
 
 

 
 
 
その時、ライカさんの結界魔法が完成し、
僕のいる周囲が光の衣に包まれた。

直後、彼女はすぐに攻撃魔法の詠唱に入る。


一方、クロードとカレンは左右に分かれ、
武器を構えたままトロルとの間合いを詰める。



――よし、いいぞっ!
トロルは僕の方に注意が向いているから
ふたりの接近に気付いていないみたい。


そして僕の横にいるサララは
防御魔法の詠唱が終了し、
クロードとカレンにかけられるように――
 
 

サララ

……ひゃっ!?

 
 

 
 

トーヤ

えっ?

 
 
サララの体に集まっていた魔法力が、
不意に霧散した。
どうやら魔法の制御に失敗したらしい。

その間にもクロードとカレンは
トロルとの距離を詰め、攻撃を繰り出す。
 
 

カレン

やぁあああぁーっ!

クロード

はぁあああああぁっ!

 
 
 

 
 

 
 

オオオオオオォーン!

 
 
 
ふたりの刃はトロルの肉体を切り裂いた。
深くえぐれた傷口から緑色の血が吹き出し、
ヤツはもがき苦しむ。

死角から攻撃されたからか、
回避も防御もできなかったみたい。



――でも次の瞬間、トロルには驚愕の変化が!
 
 

トーヤ

いぃっ!?

 
 
何もしていないのに、
トロルの傷口はみるみる塞がっていった。


あれが脅威の回復力ってやつか……。


どんな体の構造をしているのだろう?
もしそれが分かれば、
治療に役立てることができるかも。
 
 

トーヤ

いやいや、そんなことを
考えている場合じゃなかった……。

 
 
即座にクロードとカレンは
次の攻撃を繰り出そうとした。

ただ、今度はトロルが
こん棒を無茶苦茶に振り回し、
それが容易にできずにいる。

だからふたりは適度に距離を取り、
防御に転じている。



そうだよね、
あんな力任せな一撃を食らおうものなら
簡単に骨が砕けてしまうだろうから。

当たり所が悪ければ
即死という可能性だって……。
 
 

サララ

う……。

トーヤ

サララ……。

 
 
僕と同じようなことを考えているのか、
横にいるサララは泣きそうな顔になっていた。

だって防御魔法がうまくいっていたら、
たとえ攻撃を受けたとしても
ダメージは大幅に軽減されるから。


もし自分の責任で
ふたりが取り返しの付かないことになったら、
悔やんでも悔やみきれないもんね。
 
 

ライカ

――神魔光滅陣!

 
 
暴れ回るトロルに向かって
ライカさんは大声で叫んだ。

その声は渓谷にこだまし、
トロルは眩く輝く銀色の光の柱に包まれる。
 
 

ギャァアアアアアアァ……。

 
 
 
トロルは断末魔の叫びを上げ、
灰となって光の中に消えた。

その場には静かな風が吹き、沈黙が訪れる。
 
 

ライカ

ふぅっ……。

カレン

お見事です、ライカさん♪

クロード

お疲れ様です。

 
 
カレンとクロードは武器を納め、
晴れやかな笑みを浮かべた。
どうやら大きな怪我はないみたい。

それを確認して僕もホッと胸を撫で下ろした。



……ただ、その場で唯一、
サララだけが暗い表情を浮かべたまま
佇んでいたのだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
その後、僕たちはさらに渓谷を進んでいった。
そして日没となり、
この日は河原で野宿することになった。


雲ひとつない空には無数の星が輝き、
辺りにはひんやりとした風が吹いている。


さすがかなり北まで来ているだけあって、
焚き火をしていても結構冷え込む。

息は白くなっているし、
こうして毛布にくるまっていても
寒いもんなぁ……。
 
 

クロード

では、食事も終えたことですし、
交代で休みましょう。
まずは私とトーヤが――

トーヤ

いや、クロードも休んでよ。
最初は僕がひとりで見張りをするから。
昼間のトロルとの戦闘で
疲れてるでしょ?

トーヤ

仮眠を取ったあとで
僕と一緒に見張りをしよう。

クロード

はいっ!
では、お言葉に甘えて
そうさせていただきますっ!

ライカ

じゃ、そのあとに
トーヤさんと私が交代しましょう。
カレンさんは明け方に
クロードさんと交代ということで。

カレン

分かったわ。

サララ

あのっ!

 
 
突然、サララが声を上げた。
眉は曇り、落ち着きなく僕たちに
視線を向けている。

もしかして自分の見張りの時間がないのを
気にしているのかな?
 
 

トーヤ

あ、サララはゆっくり休んで。
まだ慣れていないでしょ?

カレン

そうそう。
サララにはおいしい夕食を
作ってもらったし、
ゆっくり休んで。

サララ

やらせてくださいっ!
私……もっと……
皆さんのお役に立たないと……。

クロード

サララ様……。

カレン

分かったわ。
それじゃ、トーヤと一緒に見張り。
でもそのあとは
朝までゆっくり休むこと!

ライカ

そうですね、
それがいいかもしれません。

サララ

で、でもっ、それでは……。

トーヤ

それが嫌なら見張りをせずに
朝まで休んでもらうけど?

カレン

私たちとの旅に慣れたら
ちゃんと見張りをしてもらうから。
それまではしっかり休みなさい。

カレン

疲れっていうのは
肉体的なものだけじゃないの。
精神的な疲れだってあるんだから。

トーヤ

カレンの言う通りだよ。
それでいいよね?

サララ

は、はい……。

 
 
サララはまだ気にしている様子だったけど、
なんとか素直に頷いてくれた。

こうして僕たちは交代で休むことになった。
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

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