ここは敬介達が住む町、

東茜町(ひがしあかねちょう)。

真夜中であるのだが、

町の明かりがあちらこちらで輝いている。

そんな町の中心に、

この町全体を見渡すことができるビルがあり、

警備員が深夜の巡回をしていた。

屋上以外の全ての場所を巡回し終えていたので、

警備員は屋上に続く階段を上がり、

扉を開ける。

屋上に到着すると、

ぶらぶらとあたりを見回す。

今日も異常無しか。

懐中電灯で照らしながら歩いて、

入り口とは反対側にある給水タンクの方へ向かった。

すると、

誰もいないはずなのに、

給水タンクの後ろ辺りに、

月明かりに照らされた影が3つあるのを発見する。

こんな時間に忍び込むなんて、
困ったやつらだ。

そういって、

その影に懐中電灯の光を当てながら近づいていくと、

警備員は驚愕した。

悪戯で若者達が遊んでいると思って、

視線をやるとそこには黒いモヤの様なものがあり、

警備員に気づいたその影の内の1つが襲い掛かる。

そして、

警備員の叫び声は、

真夜中のトラックや工事などの騒音で闇に溶けた。

翌朝、

ビルでの怪事件は、

テレビや新聞でも報道されていた。

警備会社に勤める50代の男性警備員が、

突然の失踪。

特に行方をくらましたり、

恨みをもたれる様な事はなかったと言われている。

しかし、

こういった事件は全国で多数起きている為、

どうしても埋もれていき忘れ去られてしまう。

これが現実。

そんな事件に不可解さを感じ、

しっかりとした調査が必要だと発言した、

一人の刑事がいた。

その刑事の名は、島本(しまもと)。

また怪事件か……。

この男は、

1週間前に東茜町のとある高校で起こった

爆発事件にも疑問を抱いていた。

他にも多発している爆発事件も同様である。

信じたくはないことだが、

これは恐らく普通の人間の仕業ではない。

そう思っていたのだが、

捜査本部の見解は、

戦時中の不発弾が爆発したものだと断定し、

捜査は打ち切られてしまった。

また、

今回のビルでの警備員失踪事件も、

捜査がしっかりと行われず打ち切られようとしている。

島本が、

人間の仕業ではないと思ったのには、

理由があった。

それは、

爆発事件の現場にも、

今回の現場にも共通してあるものがあったからなのだ。

あったというより、

見えたというのが正しいのかもしれない。

それは黒いモヤ。

最初は、

多忙な捜査に疲れているだけかと思ったのだが、

はっきりと認識できることに疑問を感じ、

鑑識にその旨を伝えたのだが、

誰一人そんなものはないと言う。

島本にとって、

こんなにも不可解な事件に遭遇したのは初めてで、

動揺はしたのだが、

自分にしか見えていないのなら、

自らがこの謎を解き明かさねばならないと考えていた。

学校の爆発してしまった家庭科室の壁は、

補修工事が行われており、

その付近への立ち入りは禁止されている。

昼休みにはいつも通り、

前川と教室で食事をしている敬介。

好物のコロッケパンを口に頬張りながら、

窓の外を眺める。

なぁ、形山さぁ。
最近黄昏てんな。

え?

最近、
けっこうボーっとしてたりするし、
放課後俺と遊んでくれなくなったじゃん。
俺、寂しいわー。

イスに座ったまま天井を見てそういう前川に、

特に返す言葉はなかった。

たしかに、

修行のために授業が終わったら速攻で帰宅し、

真夜中まで修行して、

早起きして修行して、

学校来てのサイクルだと、

どうしても学校にいる間が休息の時間になっていた。

放課後に遊んでいる暇はない。

ただ、

友達も大事にしないといけないだろうからなと思い、

口に入れていたパンを飲み込んだ。

そしたら、
放課後にゲーセンでも行こうぜ。

敬介なりの提案であった。

その言葉が出た瞬間、

天井を見上げながらだれていた前川は、

すぐさま正面を向き、

右手親指を立てて喜んだ。

さすが、形山!!
お前なら分かってくれると思ってたぜ。

たかがゲームセンターであるのだが、

敬介にとっては久々の平凡な放課後になりそうだ。

第2章---三幻僧編---(29話)-怪事件-

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