光術士としての使命を知った敬介は、

次元の門を閉じるため、

これから戦わなければならない強敵に備え、

修行中である。

そんな敬介は早朝から自宅の庭にいた。

はぁ~。
朝から天気がいいと気持ちいいもんだな。

両手を前に伸ばしたり上に伸ばしたりと、

ストレッチをしながら呟く。

ストレッチの後、

庭の芝生に落ちた空き缶をいくつか拾い上げて、

背もたれの無い3人掛けのベンチに並べ始める。

空き缶は全部で5つ並んでいて、

その空き缶同士の間隔は30cmずつくらいあった。

よしっ!!
今日も始めるか。

軽く息を吸い、

右足に光術を発動させる。

その光に包まれた右足で、

並んでいる真ん中の空き缶をめがけて蹴りだす。

おりゃあっ!!

勢い良く蹴り出された右足は、

真ん中だけではなく、

その両サイドの空き缶も一緒に蹴り飛ばした。

う~ん。
上手くいかないなぁ。

いったい、

なぜ敬介がこんな修行をしているかというと。

カラウから正式な光術士として認められ、

その使命を告げられてから、

修行に移って1週間程経っていたのだが、

3日前に3人で修行をした時に、

矢島に指摘された点があったからなのだ。

3日前の秋野実神社にて。

形山君、光一さん、
お水どうぞ。

汗をぬぐっている敬介と指導している矢島の元に、

ペットボトルの水を差し出す美咲。

ありがとう。

ありがとう。
美咲ちゃん。

二人がお礼をいって石段に座ると、

敬介のジャージ姿を見た美咲が少しだけ笑った。

なんか私と形山君、
学校のジャージ着て修行してるけど、
部活みたいだね。

敬介と美咲の通う茜桜学園高等学校では、

学年ごとに色別のジャージを着ている。

1年生は赤色、

2年生は青色、

3年生は緑色と、

パッと見ただけで何年生か分かるようになっていて、

敬介達は2年生のため青色のジャージを着ていた。

美咲にそう言われて、

敬介は、

ふと自分の格好を見てみた。

そうだね。
でも矢島さんのジャージかっこいいよ。
なんてたって、
あのアーダスのジャージだから。

アーダスとは、

スポーツ系の商品を製作している会社のことで、

アーダスのジャージやシューズとなれば、

知らない者はいないくらい、

世界的に有名なブランドである。

それは照れるなぁ。
たまたま持ってたから着てきただけだよ。

受け取った水を一口飲んだ矢島は、

ペットボトルのふたを閉めながら謙遜する。

では、
休憩中だけど修行を観ての感想ね。

そして、

休憩中のささやかな雑談が、

矢島の一言で真面目な空気へと様変わりする。

敬介君の光の蹴りなんだけど、
右足を包む光が右足を纏いきれてないんだ。

どういうことですか?

うん。
蹴り出してから対象物に当てるまでの間で、
右足に纏われている光が足首を中心に、
上下左右ブレてしまっている。
だから、
当てた時の威力に大きく差が出ているんだ。

矢島の言うとおりであった。

敬介は今まで、

基礎体力づくりのためのランニングや筋トレ、

自己防衛のオンとオフ、

さらに攻撃のための修行として、

境内にある大岩を蹴るという、

シンプルな修行方法をとっていたのだが、

蹴った際にできる凸凹具合はバラバラで、

その力に統一感はなかった。

そうでしたか……。
やっぱり自分じゃ分からないですよね。
蹴りを出すと時には、
どうしても攻撃に集中しちゃうので、
足なんてまともに見ていませんでした。

自らの反省点が見つかり、

それを改善しなければならないのだが、

矢島の中ではその修行方法はもう分かっていた。

うん。
だからこそ、
その力を一点に集中させれば、
大きな武器になるんだ。
敬介君には、
僕が昔やっていた修行と同じものがいいね。

石段から立ち上がり、

辺りを見回した。

すると、

境内に設置されているゴミ箱から、

空き缶を数缶拾い上げ、

近くにあるベンチに3つ並べ始めた。

石段に座っていた敬介と美咲も少し近くで見ようと、

立ち上がり近づく。

準備ができたのか矢島が口を開いた。

今、
等間隔に並べた空き缶があるんだけど、
これを今から真ん中の1缶だけ打ち抜く。
ただし、
力を矢に一点集中させないから観ててくれ。

そういって、

矢島は自身の光術"光弓"を出し、構えた。

すぐさま放たれた光の矢は形が変形し、

ただの光の塊になってしまい、

真ん中の空き缶だけではなく、

その両隣の空き缶にまで当たり、

数十m先へと飛んでいった。

矢島は、

余分にゴミ箱から持ってきていた空き缶を、

同じように並べる。

次に、
一点集中させた矢を、
真ん中の缶だけに当てる。

そして、

再び弓を構え、

打ち放った。

その光の矢は先程の様に形を変えずに、

今まで見たことのある矢の形をしたまま、

真ん中の空き缶だけに当たり、

原型が無いくらい粉々に砕けさせた。

これが、
一点集中出来たときの違いなんだ。
わかったかな?

弓は解いた矢島は、

敬介に問いかける。

はい。
あんな感じで光がブレていたんですね。
よく分かりました。

よし。
そしたら次の修行は、
空き缶を使っての一点集中の修行だ。

はいっ!!

ということがあり、

現在に至るのだ。

空き缶を並べ直し、

もう一度構え始めようとしていると。

1階ベランダの窓が開き、

母が声をかけてきた。

敬介。
もう学校に行く時間じゃないの?

慌てて時刻を確認すると、

遅刻10分前。

げっ!!
もうそんな時間か!!
やっべ、いってきまーす。

慌てて玄関前に停めてある自転車に飛び乗り、

家を出た。

窓を閉め、

朝食後の片づけをしていた母は首をかしげていた。

あの子、
最近空き缶並べて何やってるのかしら。

そして、

遅刻ギリギリの時間。

間に合ったー!!

ふっ……。

校門を通過して行った敬介の後姿を、


ニヤリと見つめている男がいた。

第2章---三幻僧編---(28話)-課題-

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