敬介の母みどりの心配病により、

家からの外出ができなくなっていたのだが、

カラウからの頼みで矢島が自宅まで迎えに来た。

実際の目的は違ったのだが、

状況を察した矢島が,

母に対し上手い誤魔化しをしたため,

なんとか敬介の外出を許可された。

そして、

修行をするために矢島と一緒に、

美咲のいる秋野実神社に向かって歩いていた。

矢島さん。
わざわざありがとうございます。
でも、
昨日からこれといった修行はしてないです。

歩きながら、

まだ成果がないことを伝えるのだが、

矢島は特に怒る様子などはない。

いやいや、
僕も昨日はあんな言い方したけど、
敬介君は修行を始めてから日が浅いから
しょうがないよ。
それよりも下手に焦らしてしまってごめんね。

怒るどころか、

矢島の方が申し訳なさそうにしていた。

それに、

よく考えてみると、

矢島と二人っきりで話すのは初めてかもしれない。

そういったこともあり、

敬介は少しだけ緊張もしていた。

そういえば、
矢島さんって、
普段はシャドーを倒して回ってるんですか?

そうだね。
基本的には光の少ない夜に現れるから、
夜に倒して回ってるよ。

美咲はともかく、

矢島のことはよく知らない。

"光弓"

という光術を使うのは知っているのだが、

歳や学生なのかどうかとか、

先に知っていてもおかしくないような情報は、

何一つ知らないのだ。

もう一つ気になっていたことがあって、
矢島さんって、おいくつですか?

相手が男性とはいえ、

歳を聞くのはなぜか抵抗を感じてしまう。

女性なら、

絶対に聞かないであろう。

ああ、そっか。
そういったことも何にも話してなかったね。
僕は……。

おっと、来たみたいだね。

矢島が年齢を言いかけた時に、

やつらは現れた。

グ……グ……。

コ……ス。

……ギグ。

周りには空き地と公園があり、


シャドーが前方に3体。

敬介は、

シャドーを見るのにも慣れてきたのか、

内心、

矢島の年齢をギリギリで聞けなかったことに、

少々残念がっていた。

しかし、

こんな状況でそんなことばかり考えていられない。

敬介君。
こいつらは僕が倒すけど、
赤い月の力で凶暴だ。
ぶっつけ本番になってしまうが、
やつらの動きをよく見て、
自己防衛のオンとオフを切り替えるんだ。
君ならできる!!

とりあえず、

敬介が頷くと矢島は光弓を出し、

シャドーに向かっていく。

よし!!
ちょっとしか修行できてないけどやってやる。
前回は油断して、
危なく天野さんに助けられたけど……。
今度こそ。

そして、

矢島の左手にある光の弓から放たれていく光の矢や、

矢を放った矢島の隙を突いて襲いかかろうとする、

シャドーの動きなどたくさんのところに視線がいった。

グィィ。

はっ!!

これが命をかけた戦いなんだ。

興味本位ではない気持ちでその戦いを見る敬介は、

真剣にそれを観た。

攻撃をかわそうとする動きや、

拳で影人間シャドーマンを殴る動きなど、

普通の人間ではない矢島の動き。

光術の力で身体強化をしているのだろうか。

そうすれば納得がいく。

自己防衛のように自分を守れたり、

攻撃のために光の弓を出せたりするのなら、

そういったこともできるのだろう。

敬介がいろいろ考えている内に、

矢島が1体のシャドーを滅した。

敬介君。
まだ他にもいるかもしれないから、
油断はするなよ!!

少し戦いに余裕が出てきたのか、

矢島が敬介に注意を呼びかけてきた。

はい。
気合入れて観てます!!

よしっ!!

敬介の元気の良い笑顔を見て安心したのか、

一瞬だけニッコリ笑顔を見せると、

すぐさまいつもの戦闘スタイルに戻っていった。

しかし、

2体の影人間の内1体が標的を敬介に変えて襲ってきた。

やっぱり来たか!!

いずれ、

自分の方にくるだろうと予想していた敬介は、

敵の攻撃が当たる少し前に自己防衛を発動した。

コロス。

そして、

荒々しい光のオーラに包まれた敬介の体は、

繰り出されたシャドーのパンチを防いだ。

おっと。
よしっ!

ある程度の衝撃はあったものの、

シャドーの同化は防げているようだ。

ただ、

敬介には防ぐことは出来ても、

攻撃することはできない。

先程観た矢島のように、

身体能力の強化までは応用が利かない為、

ただかわし続けなければならない。

敬介君、その調子だ!
もう少し頑張っててくれ!!

やはり、

前回戦ったシャドーよりも、

数段パワーアップしているのであろう。

前回の戦いと比べると苦戦している気がする。

せめて1体だけでも倒せればと思うのだが、

その術がない。

どうする。
このまま逃げてるだけじゃ嫌だ。

そして、

もう一度シャドーが襲いに来る。

敬介は、

心の中で思ったある事を試してみることにした。

コロシテヤル。

今度は全身の自己防衛の発動後、

近づくパンチを掴み受け流した。

いける!!
もしかしてこれを一部に集中させれば……。

再び、

敵の攻撃をかわすことに成功したのだが、

自己防衛は解けてしまう。

やはり、長時間の使用は体に負担がかかる。

連発はできない。

そう考えると、

光の弓を出し続けている矢島の光力は、

かなり凄いということになるのだろう。

敬介は、

さらに攻撃を仕掛けてくるシャドーの攻撃を目で追った。

今だっ!!
何っ!?

タイミングを合わせてパンチを掴もうとしたのだが、

それを予測したシャドーは先を読み、

その腕を掴んできた。

一気に体制を崩してしまった敬介は、

先程とは打って変わり、

予想外のピンチに陥る。

コロス!!

ちっ!!

自己防衛はペース配分を考えずに、

さっき使い過ぎてしまった。

今発動している光もそう長くはもたない。

敬介君!!

ちょうど、

別のシャドーを倒した矢島が助けようとするのだが、

それよりも早く敬介が行動した。

腕が使えなけりゃ……。
こっちだっ!!

敬介は地面を蹴り上げ、

掴まれた腕を支点に飛び上がり、

そのままシャドーの胸を蹴り飛ばした。

グゥゥイ。

掴んでいた腕を放し、

後ろに飛ばされたシャドーはうずくまり苦しみだした。

特に力が集中していなかったからなのか、

消滅させることはできなかった。

しかし、

すぐに矢島の光の矢が飛んできて、

うずくまるシャドーを貫いた。

辺りには再び静けさだけが残る。

よしっ……。

ほっとしたのかそのまま立ち尽くす敬介。

しかし、

その顔はどこか満足気である。

矢島は光術を解き、

近づいてくるや否や敬介の背中をバシッっと叩き、

よくやったと褒めまくる。

まさか、
昨日の今日でできるようになるとはね。
君は本番に強いタイプなのかな?

いえ、たまたまですよ。
矢島さんの戦い方を観いて、
どうやったら自分もあんなことができるのか
と考えていたら体がとっさに動いたんです。

自分でも上手くできる自身はなかったのだが、

とっさに思いついた方法は大成功だった。

そうだったんだね。
その観察力と集中力をしっかり使えれば、
もっと強くなれるよ。
とりあえず、
予想していた順序とは違うけど、
中級の修行は合格だね。

そして、

矢島から無事に実践の中での対応力を認められ、

中級の修行を終えることができた。

一方、

秋野実神社で待っている美咲は、

誰も来ないなか境内にある拝殿の石段に座っていた。

遅い……。
形山君も光一さんも連絡つないし、
どうしたのかな……。
へくちっ。

少しだけ肌寒い風が吹き、

くしゃみをして身震いしていると、

遠くからどこかで犬の遠吠えが聞こえてきた。

第1章-力の目覚め編-(25話)-赤月の日④-

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